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「うまい、やすい、はやい」でスタバを脅かす中国コーヒーチェーン

文=

 「うまい、やすい、はやい」と言えば吉野家のキャッチコピーだが、この三拍子でコーヒーチェーンの巨人スターバックスの地位を脅かす店がニューヨークに出店した。それが、中国コーヒーチェーン最大手のラッキンである。

 すでに中国ではスターバックスを上回る業績を記録し、巨人を翻弄しているラッキン。インフレによる物価高騰で朝のコーヒーさえ気軽に買えないニューヨークでは「安い1杯」は何よりの魅力だ。母国で迎え撃つスターバックスはライバルの「不気味な」一歩に神経をとがらせる。

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「100%レジなし」アプリで注文、店での待ち時間を短縮

 ラッキンが6月30日にオープンさせたのは2店。ともにマンハッタンにあり、1号店はニューヨーク大学などの若者が集うイーストビレッジ地区に構えた。

 ラッキンの進出は開店前からニューヨークのメディアの間で話題となっていたが、ラッキン側は、これといったメディア向けの発表をしなかった。グルメ系メディアでさえ、直前まで「開店日は未定」と報じていた。

 開店当日もソーシャルメディアだけで告知し、それを見て走った地元紙の取材にもすぐには応じなかった。

 ニュースメディアよりソーシャルメディアに重きを置く現代的なラッキンの最大の特徴は「100%レジがない」ということだ。

 注文はすべてオンラインで受け付ける。アプリ内で商品を選び、アプリ内で会計を済ませる。決済後にアプリ上に指定の時間が表示され、店に行くと自分の番号の商品がカウンターに置かれており、待つことなく商品を受け取ることができる。

 ファストフードなどは既にオンライン注文を導入しているが、店内での注文、支払いが現在も多い。混雑で顧客が商品を受け取るまでに時間がかかることが、顧客の大きな不満要素になっている。

 特にコーヒーチェーンはトッピングなどで顧客がドリンクをカスタマイズすることが増え、一杯を作る時間が長くかかるようになり、混雑に拍車をかけている。

 スターバックスの場合、店内注文の半数以上の店で、注文から商品が提供されるまでに4分以上かかっているという。顧客の感覚では「10分かかることもざら」だ。

 ラッキンは店内レジをすべて排除したことで、混雑をなくし、商品提供の時間を短縮させた。

 筆者はオンライン注文を経験したことがなかったが、ラッキンで体験してみた。

 まずは、店先にあった看板のQRコードでアプリをダウンロード。商品を選んでクレジットカードで決済すると、1分後にできるという表示が現れ、カウンターに行くと、もう商品ができていた。「三拍子」の「はやさ」はそれなりのものだった。

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店内は100%レジがない。指定時間になると注文の品がカウンターに並ぶ=筆者撮影

1ドル99セントの衝撃 クーポン乱発で価格ダウン

 「やすさ」も目をひいた。ラッキンの取材直前に立ち寄ったマクドナルドでは、通常のローストコーヒーが2ドル29セント(約339円)だったが、ラッキンでは1杯1ドル99セント(約295円)の商品が並んでいた。

 ラッキンは店舗業務を簡素化することで価格を抑えている。中国では、スターバックスよりも30%ほど価格が安いとされ、節約志向の顧客マインドをつかんだ。ニューヨークでも割引クーポンを乱発することで価格を下げている。

 ラッキンの名物でもあるアイスココナッツラテを注文したが、商品価格は税抜き1ドル99セント。レシートには合計割引額が4ドル46セント(約660円)と記されていた。

 三拍子の「うまい」は顧客によって好みの違いはあるが、自社焙煎工場を増やすことで品質管理を強化している。

不正会計で経営破綻 再生しライバル追い込むほどに

 ラッキンは2017年、配車プラットフォーム開発の起業家によって設立された。モバイルアプリを中心とした戦略で急成長し、2年足らずで米ナスダックに上場した。
しかし、2020年に不正会計が発覚して上場廃止。米証券取引委員会(SEC)と1億8000万ドルの罰金を払うことで和解したものの、2021年に経営破綻した。

 その後、新経営陣のもとで再建を果たした。中国では2023年に売上高でスターバックスを抜き、最大のコーヒーチェーンとなった。この年の店舗数は中国国内では約1万6200店で、スターバックスの2倍以上。現在、ラッキンは中国本土、香港、シンガポール、マレーシアに2万4000店以上を展開している。

 中国にコーヒー文化を広げたスターバックスはラッキンの躍進で追い詰められ、今年6月には中国事業を売却するのではないかとの報道が飛び交った。

 スターバックスは米国内で1万7000店以上を展開する。通常ならばライバルの2店舗など気にするほどのことではないが、相手がラッキンだとそうはいかない。

 ラッキンの店内には店舗の通し番号がカウンターの下に記されている。1号店には「No.US00001」、2号店には「No.US00002」とある。頭の4つの「0」は、現在のスターバックスの店舗数を追い越す意気込みを示しているように見える。

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ラッキンのニューヨーク1号店。カウンターの下には店の通し番号が記されているが「00001」とあり、スターバックスの米国内店1万7000店を意識した数字になっている=筆者撮影

 ラッキンの2号店は、スターバックスの店舗から60メートルほどの位置にある。一方、1号店の向かいにはスターバックスの大きな広告看板が何枚か掲げられている。

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ラッキン1号店の向かいのビル1階にはスターバックスの広告が並ぶ=筆者撮影

 ニューヨークのラッキンの2店に行くと、両社の緊張関係がひしひしと伝わってくる。

(文=言問通)

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言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2025/08/03 09:00