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その名も「日本式ウォーキング」! 米国で注目を集める健康法

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イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 健康維持に役立つとされる日本の歩行運動が米国で急速に注目を集めている。世界的に人気のフィットネスコーチが、ソーシャルメディアで紹介したことがきっかけで、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどの米国を代表する新聞が7月に取り上げた。

 この健康法は、1日30分歩くだけで効果があるとされるが、スナック菓子をむしゃむしゃ食べながら体を気遣う米国人の心を掴んだようで、社会現象になりつつある。米国では日本ブームが続き、日本の食や文化に多くの市民が関心を寄せていることもあり、健康法には「Japanese walking(日本式ウォーキング)」という名称がつけられた。

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研究20年の「インターバル速歩」

 話題の健康法は、信州大学大学院医学系研究科の能勢博特任教授らが研究し、提唱している「インターバル速歩」だ。「さっさか歩き」と表現される早足と「ゆっくり歩き」を交互に繰り返すウォーキング法だ。急速に米国で関心が高まっているが、新しく開発されたものではない。

 長野県松本市で1997年、高齢者の健康維持・向上のため「1日1万歩ウォーキングプログラム」が実施されたが、1日1万歩を1年間続けられたのは全体の約30%にとどまった。続けられた市民でも体力向上などは認められなかった。

 このため米国スポーツ医学会の指針に沿ったウォーキングと運動器具を組み合わせたプログラムに内容を変えたところ、継続できた市民は約80%に増え、筋力の増加や歩行速度の向上などが確認された。

 しかし、日本では米国ほどジムなどが普及しておらず、運動器具の使用は気軽にはできなかった。さらに指導スタッフを配置しなければならず、この方法は手間と資金がかかり過ぎた。

 こうした流れを経て「誰もが簡単に継続できる運動」として考え出されたのが「インターバル速歩」だった。

 3分間の「速歩(さっさか歩き)」と3分間の「ゆっくり歩き」を1セットとして、最低でも1日5セット行えば、健康効果があるとされる。1日あたり最低30分で効果があるということになる。

 1日の「速歩」時間が合計で15分になることが重要で、朝、昼、夜に分けて実施しても効果はある。1週間に4日以上、5ヵ月間続けることを目標に取り組むと健康効果があるとされる。

 「速歩」のスピードは「ややきつい」と感じる程度。できるだけ大股で踏み出し、かかとから着地するようにすることを意識することがよいという。背筋を伸ばし、大きく腕を振ることがポイントだ。

 2004年以降、現在も続いている能勢特任教授らの研究では、「インターバル速歩」を5ヵ月間続けた約1万人のデータが蓄積された。それによると、この健康法を続けた効果として体力が平均10%向上し、高血圧や高血糖、肥満などの生活習慣病は平均20%改善した。また認知機能の改善も示されているという。

インフルエンサーがSNSにアップし大ブレイク

 研究が始まって20年以上たつ健康法だが、昨年2月、NHKの国際放送で取り上げられて海外で大きな反響があった。その後、アジア系のオーストラリア人フィットネスコーチ、ユージン・テオ氏がソーシャルメディアで「日本式ウォーキング」として紹介し、さらに知られることとなった。インフルエンサーとしても活躍しているテオ氏の投稿の再生回数はTikTokで1000万回、YouTubeで1700万回以上にのぼる。

 このため、米国のメディアがこぞって「インターバル速歩」に関心を持つようになり、米国を代表する硬派の新聞もニュースとして取り上げた。

 ワシントン・ポストは7月13日に「1日30分の日本式ウォーキングで健康維持に効果あり」という見出しで報じた。これまでの研究結果を示し、実際に始めるための準備や歩き方などを具体的に紹介した。ニューヨーク・タイムズは7月31日に「日本式ウォーキングは試す価値があるフィットネスだ」との見出しの記事を掲載した。サブタイトルには「健康効果は20年近くにわたる研究によって裏付けられている」とあった。

 一方、ロサンゼルス・タイムズは「日本式ウォーキングは30分で健康増進効果をうたっているが、専門家は懐疑的」との見出しで、批判的な記事を7月31日に掲載した。南カリフォルニア大学の心臓専門医が「研究結果に偏りがあるのではないか」と指摘していることを紹介したが、疑問の根拠となるデータは明示されていない。

 肯定的と批判的な2つの論調があるにせよ、米国を代表する3紙が取り上げていることは、「インターバル速歩」が米国人にとって見逃せないニュースになっていることを示している。

海外で高まる注目度 「誤解」正す役割も担う

 米国でも「1日1万歩」は健康維持の秘訣だとされているが、日々の生活の中で1万歩達成のハードルは高い。「インターバル速歩」は1万歩も歩かずに、健康効果があるため健康を気にする米国人は衝撃として受け止めている。

 「日本式ウォーキング」という名称はテオ氏がソーシャルメディアで使っているが、3紙もそろって見出しに使用しており、能勢特任教授が知らない間に「日本式ウォーキング法」という名称が定着してしまった。

 能勢特任教授は、日本より海外で注目度が高まっていることに戸惑いながらも、研究者としてこう話す。

「1万歩も歩けるのは健康な人だ。だからといって、1万歩けば健康になるということではない。そのあたりが混同している」

 日本で研究・実証された画期的な健康法は、「1万歩」という世界的な誤解を正す役割も担っている。

(文=言問通)

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言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2025/08/10 09:00