「Fラン大学」時代の学習支援産業はどこに向かうか ライバルはBigTech !?

駿台予備学校が「東大合格者数発表の取りやめ」を公表した。駿台において金看板である「東大ブランド」を下ろすのである。10年ほど前に、代々木ゼミナールが地方の校舎を閉鎖するなど大幅な事業縮小をした。そのときに、私は「代ゼミショック」と記事に書いた。多くのマスコミの取材を受けた。そこでは、教育の転換にともなう、予備校の転換が始まったことを示した。
そして、今回の駿台の発表はどうだろうか。塾や予備校をはじめとする学習支援産業の衰退が顕著になったと捉えるべきだろうか。
そもそも塾や予備校は「受験対策」や「授業の補習」が主業務だ。「受験対策」は受験生の競争があってこそなのだが、「全入化」で入試が緩和されて競争が少なくなった。さらには塾や予備校が得意とする「学力試験」は大学入学者の半分以下しか必要としない。どんどん塾や予備校の出番がなくなっていく。
実際、帝国データバンクの調査(2024年1-10月)によれば、「学習塾」の倒産は高水準で推移しており、業界の苦境を物語っている。
「学習塾」の倒産動向(2024 年1-10 月)(帝国データバンク)
https://www.tdb.co.jp/report/industry/20241110-gakushuujuku/
これまで世間は、より「良い就職」を目指してより「良い大学」に入学することを求めていた。しかし、いまやこの方程式も機能不全を起こしつつある。
そもそも良い就職とはなんなのか。東京大学の在学生、卒業生の起業は年々増えている。これは東大に限らない。公務員に未来があるのか。若手官僚の早期離職が話題となる時代だ。AIでなくなる仕事があるというが、本当か。それはなにか。AIが志望理由書を書いて企業に応募。審査するのもAIだ。テレビをつければ、転職サービスのCMばかり。就職活動っていったいなんなんだろうか……。就職になにを求めるかが、あらためて問われる時代だ。
そもそも良い大学とはなにか。より良い大学に入学する必要があるのか。より良いと言うが、全入化した多くの大学にそんなに差があるのか。
さらに、気になるのは生成AIの進化だ。以前、何度か紹介したGoogle のNotebookLM は学び方を変えるかも知れない。
長文の文章を読んで、問いを投げかけてくれる。クイズのような問題も作成する。用語解説もある。そして、文章に対する議論や批評もしてくれるようになった。使い方次第で、家庭教師の代わりになるだろう。生成AIとの対話は、課題解決の壁打ちには十分だ。かつて、知識を覚えなくてもインターネットで検索すれば良いと言われたが、教員がいなくても生成AIが代わりをしてくれる時代になってしまうのか。BigTech の存在は、学習支援産業の脅威になりかねない。
どうにも八方塞がりだ。こんな時代に、学習支援産業はどうなってしまうのか。
とは言え、子どもがまったくいなくなるわけではない。子どもがいれば教育がある。大学入試もまったく競争がなくなっている訳ではない。むしろ医学部の数学の学力試験などは年々難化している。同じように、中学受験のトップ層は精鋭化して相変わらず競争が激しい。
教員不足をいかに補うかも大きな課題だ。不登校の状態にある児童生徒も多い。
困難があればそれを解決する。生成AIにも苦手はある。そこに、活路はあるのではないか。
困ったときこそ原点回帰である。それは、BigTechがライバルなのではなく、彼らにはできない領域にこそ、この産業の真価があることを示す道でもある。学ぶ意欲はあるにもかかわらず、学び方がわからなかったり基礎基盤となる学力がなかったりで、学習が身にならない児童生徒はいるだろう。苦手意識が学ぶ意欲を妨げることは大いにある。
塾をはじめ学習支援産業は、そうしたうまく学べない児童生徒を支援することで役割を果たした。駿台が敢えて「東大ブランド」を捨てた意味はここにあるのかもしれない。「東大ブランド」は勉強ができる生徒には有効だが、勉強が苦手な生徒にはなにも響かない。
「親身の指導」を掲げる代々木ゼミナール、チューター制度の文化がある河合塾、生徒ひとり一人に目が行き届く範囲で展開する東進衛星予備校や中小塾。ベネッセもベネッセ高等学院、中等部では赤ペン先生が寄り添い、できない要因を探って学ぶ「戻り学習」を導入する。いずれも、学習者に寄り添うことを強みにする。
保護者にとっては、子どもに寄り添って学ぶ意欲を引き出してくれることに期待する。パソコンに向かっているだけで学習しない子どもに、学ぶ意欲を引き出して学習をするようにしてほしい。それにいくらAIが良い教育プログラムを用意しても子どもが気のない取り組みをしていてはなにも成果にならない。AIが教育プログラムを受けるようにアラートしても子どもが何らかの形で回避することはあるだろう。
生成AIは、情報機器を起ち上げないと作用しない。そこへの一歩が出ないのが苦手意識のある学習者だ。生成AIは、塾のように寄り添って見守ってくれない。
BigTechは学ぶツールを提供するが、学ぶ環境を整えるところには手が届きにくい。特に、家に学ぶ環境がない場合はサードプレイスを確保したい。保護者はまだまだ塾を頼りたい。
学習支援産業は、いまこそ原点に回帰して、学習者に寄り添うことに活路を見出してほしい。
(文=後藤健夫/教育ジャーナリスト)