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岡本多緒が史上初の女優賞、「カンヌ国際映画祭」に湧く日本とハリウッド大規模映画が消えた「2つのワケ」

岡本多緒が史上初の女優賞、「カンヌ国際映画祭」に湧く日本とハリウッド大規模映画が消えた「2つのワケ」の画像1
岡本多緒(写真:Getty Imagesより)

「第79回カンヌ国際映画祭」の授賞式が5月24日(日本時間)、フランス・カンヌで開催された。最高賞パルム・ドールに輝いたのは、クリスティアン・ムンジウ監督『Fjord(フィヨルド)』。日本作品は惜しくも届かなかったが、濱口竜介監督『急に具合が悪くなる』の主演、岡本多緒(41)とヴィルジニー・エフィラ(49)が揃って女優賞を獲得。日本人が同賞を受賞したのは史上初の快挙だとして、各社ニュースでも熱量高く取り上げられた。

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 今回、パルム・ドールを競う「コンペティション」部門には、世界各国から22作品が正式出品。日本からは、是枝裕和監督『箱の中の羊』、前出『急に具合が悪くなる』、深田晃司監督『ナギダイアリー』の3作品が選ばれた。同部門に邦画3作品が並ぶのは、2001年以来25年ぶりだとして、日本は湧いた。一方で、今回のラインナップにハリウッド発の作品が1本もプレミア上映されなかったことが話題となった。

 カンヌ国際映画祭は、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭と併せて「世界三大映画祭」のひとつに数えられる、権威ある映画の祭典だ。世界的に注目されるカンヌで作品を披露すれば、大型プロモーションにつながる可能性が劇的に上がる。大手スタジオが主導し、世界規模でのヒットを狙うハリウッド大作にとっても重要なPR機会だろう。にも関わらず、今年はなぜ姿を消したのか。

実は誰でもエントリーできるカンヌの「メリット」

 まず、カンヌで受賞することのメリットは何か。業界事情に詳しい映画評論家・前田有一氏によれば、カンヌで評価されるのは「芸術性」。最大420ユーロ(約7万7000円=5月28日時点)の出品料さえ払えば作品規模に関わらず、誰でも公式ホームページからエントリーできるため、ある意味“地味”な作品でも光が当たる可能性が大きくなる。

「カンヌに用意されているさまざまな賞のなかでもパルム・ドールは別格。映画業界における世界一の賞であり、受賞すれば圧倒的な箔がつきます。特に、高額な制作費をかけられなかったインディーズ規模の作品でも、受賞すればその後の興行収入アップが期待できるということになります。規模や豪華さで押せない作品にも充分チャンスがある。それが、世界中の作り手がカンヌに出品したくなる理由です」

 たとえばポン・ジュノ監督の韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(2019)は同賞受賞後、全世界興収2億6342万ドル(約418億6718万円)にのぼる歴史的ヒットに。当時の北米市場で最も稼いだ韓国映画となった。日本では、是枝裕和監督『万引き家族』(2018)がパルム・ドールを受賞。受賞までは目立たない存在だったが受賞効果で上映館が増え、最終興収は国内で45.5億円、全世界では約75億〜80億円規模とその効果は絶大だ。

 そんなカンヌでの受賞歴は、次回作にも影響するという。

「監督であれば次回作の企画を通すための大きな実績になる。それまでは、『企画内容はいいけど売れそうにないよね……』と出資に難色を示されていたようなものだとしても、パルム・ドール受賞となると、『なんかすごいものを作ってくれるのでは』と思ってもらえる。資金調達のハードルがグッと下がります」(前田氏、以下同)

 映画ビジネスに大きな影響力をもつカンヌ。前田氏は、「海外販売へ最大のアピールができる場でもある」と指摘する。

 カンヌに併設される世界最大級の映画マーケット「マルシェ・デュ・フィルム」には、毎年約120か国から1万人以上のプロデューサーや映画関係者ら業界人が集まり、映画の情報交換や商談が行われる。今年は、特定の国にフォーカスする「カントリー・オブ・オナー」に日本が選出。アニメ、映画、漫画など、日本の誇るコンテンツ産業が特集された。

ハリウッドが今年、カンヌをスルーした2つの理由、その1 SNS

 上述のとおり、カンヌで評価された時の恩恵は大きい。もちろん、それはハリウッドの大作映画でも同様だ。

 実際、昨年は『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』がプレミア上映を行い、5分間に及ぶスタンディングオベーションに包まれる華々しい幕開けを飾ると、全世界興行収入5億9876万ドル(約951億6661万円)に及ぶ大ヒットに。この記録は、前作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE』(2023)(世界興収5億7112万ドル)超えとなった。

 そのほか、近年では『トップガン マーヴェリック』(2022)、『エルヴィス』(2022)、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023)などのハリウッド作がカンヌで顔見せを行っていた。それなのに、今年“スルー”した理由は何か。

 前田氏は、近年膨れ上がってきた「リスク」に着目する。恩恵を狙うよりも、余計なダメージを喰らいたくない――とハリウッドが考えてもおかしくない理由は主に2つ。「①SNS人口の増加」と「②配信の普及」で、いかにも現代っぽい環境の変化だ。

「コロナ禍を経て、SNS人口が激増。その結果、話題の拡散力が桁違いとなりました。カンヌでは一般公開に先んじてメディア人が作品を見るわけですが、大量の批評が世に出ます。このとき絶賛一色ならいいのですが、酷評の場合、それが“リスク”要因となってしまう。

 もちろん、酷評自体は昔からありますが、以前は映画雑誌など紙媒体での発信がメインで、時間が経ってから、かつ限定的な人にしか届きませんでした。つまり批評にリアルタイム性はありませんでした。

 それが今、SNSでは、ネガティブな話が爆発的に拡散します。しかも一部だけが切り取られて、本意が伝わらないこともよくある。映画批評も同じです。せっかくゴージャスなパーティーをして、大スターを何人も連れて行ってアピールしたところで、現地で“酷評”扱いだと、SNSにより世界中に『クソ映画』という印象が拡散される懸念が出てきてしまいました」

 カンヌにおける酷評の煽りを受けた作品の1つが『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』だ。同作は、「第76回カンヌ国際映画祭」にてワールドプレミア上映されたところ、批評家の間で賛否両論に。世界興収は3億8300万ドル(約608億5812万円)にとどまった。海外の一部メディアでは、制作費約3億ドル、マーケティング費用約1億ドルを回収することができない“大赤字”の可能性まで指摘された。

ハリウッドが今年、カンヌをスルーした2つの理由、その2 配信

 2つめの「配信の普及」は、何が“リスク”となるのか。

「配信がない時代だったら、多少カンヌでの評価が低かったとしても、多額の制作費をかけた豪勢な作品や話題作であれば『スクリーンで見てみようかな』となりやすかった。でも今では、微妙な評価なら『配信まで待つ』という新たな選択肢ができてしまいました。

 観客が配信に流れてしまって、本来なら映画館で稼げるはずの収益がガクッと減ってしまうのは好ましくない。しかも昨今、劇場公開から配信までのスパンはどんどん短くなっており、大手スタジオが制作した映画でも45日が目安になりつつあります。インディー作ではさらに短いケースも珍しくありません」

 どんどん短くなる、上映から配信に流れるまでの期間。背景には配給と動画プラットフォームとの駆け引きがあるが、アメリカではその短さが問題視されており、2025年には全米映画館協会『Cinema United』が“45日ルール”を最低ラインにするよう声明を出したほどだ。

 ともあれ、「どうせお金を払うなら満足感を得たい」と思う人たちにとって、「満足」が確約されず、かつすぐに配信されるのなら、映画館での鑑賞意欲はそがれるというものだろう。つまり制作側に立てば、即配信の存在によって映画館に足を運んでもらえたはずだった人たちを“取りこぼす”ことになる。

 くわえて、ハリウッドの大スターを何人もカンヌへ連れていくとなると、渡航費含む追加費用が億単位でかかる。ただでさえ多額の制作費をかけたハリウッド大作にとって、カンヌ出品は「吉と出る(=絶賛によるブーストがかかる)」ならいいが、「凶と出る(=酷評によるブレーキがかかる)か」ときのダメージも低予算映画の比ではない。つまり、大博打になりつつあるのだ。

 ただし、中小規模の映画にとってカンヌ出品がまだまだ“有効”なことには違いない。

「カンヌへの出品料や渡航費用をかけたとしても、映画をどこかが買ってくれたら、何億もの売上が約束される。中小規模の映画であれば、元を取ることが多いに期待されます。ハリウッドのようなビッグビジネスではなく、芸術性の高い作品をいかにビジネスに乗せるかという側面にフォーカスすれば、インディーズに近いものや、こだわりがあって芸術性の高い映画がカンヌの舞台に残っていくのは自然な流れでしょう」

 映画に限らず、さまざまなコンテンツの宣伝文句に「SNSで話題」ばかりが目立ついま、カンヌは多様性を守る砦。今回、女優賞受賞で脚光を浴びた『急に具合が悪くなる』は、6月19日、全国公開が始まる。

26年は「永瀬アンナ無双」

(取材・文=町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2026/06/06 18:00