『マリオ』『コナン』活況…行動経済学者が解説「サブスクより高くても、映画館が支持されるワケ」

いま、映画業界が絶好調だ。昨年は『国宝』『鬼滅の刃』などのメガヒット作が大きく貢献し、日本映画製作者連盟の「2025年(令和7年)全国映画概況」によれば2744億5200万円と歴代の年間興行収入1位を更新。年を跨いでもその勢いは続き、今年のGW商戦は昨年以上の賑わいを見せた。
GW本番、5月第1週の動員数ランキング(1〜3日、興行通信社調べ)において、トップ3(『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』、『プラダを着た悪魔2』、『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』)の動員数は合計216万5000人、興収は合計30億9200万円にのぼった。対して、昨年の同週(2〜4日、同)におけるトップ3(『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』、『マインクラフト/ザ・ムービー』、『サンダーボルツ*』)は、動員数が合計170万7000人、興収が合計25億700万円だった。
今年は人気シリーズの続編が揃い踏み
今年のGWは、人気シリーズの続編が揃い踏みした。
『マリオギャラクシー』は、2023年に公開された前作が全世界興収13億5922万ドル(約2159億円)を記録し、当時、アニメーション映画で世界歴代2位に輝いた人気シリーズの新作(現在は5位)。国内興収は、5月12日までに60億円を突破した。『ハイウェイの堕天使』は、1997年から毎春の“目玉”として続く『名探偵コナン』シリーズの第29作で、GW中の5月6日に4年連続となる興収100億超えを達成。20年越しとなる待望の続編『プラダ2』は、公開からわずか6日間で1作目の最終興収(17億円)を上回る19億円を稼いだ。
三者三様の売れ方を見せた今年と比べて、昨年のGWは“コナン一強”状態。5月第1週の週末3日間で、『隻眼の残像』が興収14億2200万円をあげたものの、2位の『マインクラフト』は興収6億2600万円と、コナンの半分以下に落ち着いた。
3位の『サンダーボルツ*』は、世界的人気を誇るアメコミシリーズ「MCU」の第34作。ヒーロー(未満のはぐれものたち)大集合回という“勝負作”ではあったが、予習不可欠かつ既存作がほぼDisney+独占作という性質上、初見勢のハードルが高く、さらにファンからも〈供給過多すぎて追いつけない〉と半ば見切られ気味。3日間で4億5900万円と、思いのほか振るわなかった。
映画料金は「高くなった」から「安く感じる」へ
ただ、単純に公開作の比較だけでは見えてこない需要もありそうだ。インバウンドの影響や物価高も後押しし、特にGWは航空券や宿泊費など、各所で料金が高騰するなか、映画館はお値段据え置き。むしろ「ファーストデイ」や「会員割引」を使えば、通常よりお得に見ることができる。
Xにも〈2、3時間アトラクションに乗れるって考えると2000円は安くね?〉〈ライブは高いと10倍くらい払うハメになるから、「(映画って安いな……)」と思ってる〉など、他のレジャーと比べて映画は“コスパがいい”との声が散見される。近年、映画鑑賞料金の値上げが発表されると、その度に〈2000円は無理〉〈もう配信でいいや〉などと悲しみの声が溢れてきたが、映画料金に対する人びとの感覚は変わってきたのか。
行動経済学の研究者で、明治大学准教授・後藤晶氏によれば、「人は値段そのものよりも、比べる相手と照らし合わせて“高いか低いか”を判断する」生き物。これを行動経済学の領域では「参照点」と呼ぶという。
「物価が上がり続け、コンサートは1万円超えが当たり前、テーマパークも入園料や飲食費などを合算すると1日1万円近くかかりますし、外食もじわじわ値上がりしています。他の娯楽が軒並み値上がりしたことによって参照点がずれた結果、映画館の2000円前後という価格はむしろ“お得”に見えるようになったのかもしれません」(後藤氏、以下同)
もっとも、値上げの波が押し寄せているのは映画館も同じだ。2019年6月には、TOHOシネマズ、109シネマズ、T・ジョイ系、SMT(MOVIX、ピカデリー)が一斉に鑑賞料金を1800円→1900円に改定。その後、2023年にはTOHOシネマズ、T・ジョイ系などが2000円へ。唯一1800円を維持していたイオンシネマも、2026年6月に一般(非会員)2000円となることが決まった。現在、多くのシネコンが一般鑑賞料金を2000円前後に設定している。
ただし、他のレジャー施設と比較すると、映画の鑑賞料金はたしかに“安め”であることがわかる。「帝国データバンク」によると、2025年7月時点で「遊園地・テーマパーク」のフリーパス(入場料+アトラクション乗り放題)料金は全国平均で4864円。最高額はユニバーサル・スタジオ・ジャパン「1デイ・スタジオ・パス(大人1名当たり)」の1万1900円だった。また「水族館」のチケット料金は、2023年時点で全国平均1951円だったところ、2024年に2067円、2025年に2158円へと年々値上げされ、映画館の料金を上回る。
しかも、昨今の映画館は映画を「見る」以上に、アミューズメント施設としての存在感を強めている。体験型上映の「4DX」「MX4D」や、270度3画面ワイド上映の「ScreenX」などさまざまな楽しみ方が提供されているほか、発声OKの応援上映やライブビューイングといったイベントでは、ライブのチケットを購入して会場に行くより安い金額で“推し活”を楽しむことが可能だ。
サブスクより高くても、映画館が支持されるワケ
とはいえ、いまはサブスク時代。ほとんどの配信サービスが、映画館で1本鑑賞するよりも安い月額料金で「見放題」だ。それでも映画館という場所が支持される理由は何なのかといえば、後藤氏は「自宅では再現できない要素への価値が高まっている」と指摘する。
「配信サービスで日常的に映像作品に触れているからこそ、『大スクリーン』『重低音』『スマホに触れない2時間』など、映画館でしか得られない価値があります。また、配信時代の“いつでもどこでも”に慣れると、逆に集中しづらい環境で映像を見ることが当たり前になります。だからこそ『映画館に行くと、作品に集中できる』と感じる人がいるのも自然なことではないでしょうか」
サブスクは、国内外を問わず日々膨大な数の作品を配信しており、選択肢の多さは一見魅力だ。しかし、“なんでもあるよ”といわれると、能動的に「これが見たい!」と思うものを選べない状況に陥りがちなのも事実だろう。さらには、集合知的なランキングや“あなたの好みに合うオススメ”が常時表示され、自分の内から湧き上がる「これが見たい!」からはどんどん遠のいていってしまう。
一方で、映画館はそうしたストレスを感じづらい。
「Netflixなどで『何を見たらいいかわからない』というのは“あるある”です。私もよく悩んでいます。これは、研究の世界でもたびたび議論されてきた現象です。選択肢が多すぎると人は決められなくなる。もし決めたとしても、後々『もっといい作品があったかも』と後悔しやすいことが知られています。自由に選べるはずが、かえって疲れてしまう。行動経済学の研究ではこうした現象を『選択のパラドックス』や『選択肢過多』と呼びます。
その点、映画館は上映作品や時間が限られており、選択肢が絞られているため、見る作品を決めやすい。お金を払って場所と時間を確保することで、途中でスマホを触ったり、途中で見るのをやめたりしにくくなります。映画館の価値は、単に作品を見るだけでなく、『見ると決める』『集中して見る』という行動への大きな意味をもつようになっているのではないでしょうか」
「高くなった」「配信に代替された」などという理由で“映画館離れ”が叫ばれることもあったが、いま、改めてその存在意義と価値が見直されている。
(構成・取材=吉河未布 文=町田シブヤ)