『トイ・ストーリー』はホラー映画だった! 「不気味の谷」だけでない恐怖演出の数々

「おれがついてるぜ~♪」
そんな歌詞がリフレインされる主題歌「君はともだち」でおなじみとなっているのが、ピクサーの3Dアニメ『トイ・ストーリー』(1995年)です。
世界初のフルCG長編アニメとして大反響を呼び、世界興収は3億6200万ドルという大ヒット作となりました。CG技術だけでなく、おもちゃと人間の関係を軸にしたストーリーもうまくできています。人気シリーズとなり、最新作『トイ・ストーリー5』は7月3日(金)から日本で公開される予定です。
6月12日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、シリーズ第1作『トイ・ストーリー』が放送されます。以降、4週連続でシリーズ4作がオンエアされます。
保安官人形のウッディ(CV:唐沢寿明)とアクションフィギュアのバズ(CV:所ジョージ)との友情ドラマとして親しまれていますが、観客の印象に残りやすいよう「ホラー映画」的な演出も施されています。ホラー視点で『トイ・ストーリー』を深掘りしてみましょう。
大切にしていたおもちゃが消える謎
子どもの頃、大切にしていたおもちゃや宝物が消えた体験をしませんでしたか? ほとんどの場合は、後からひょっこり出てきたり、学習机と本棚との隙間に落ちていたりするのですが、マジで忽然と消えてしまうケースもあります。
そうした子ども時代のミステリーに対する答えを、『トイ・ストーリー』のジョン・ラセター監督は明快に用意しています。おもちゃが消える理由、それはおもちゃには意思があり、人間が見ていない間は自由に動くことができるからです。
子どもたちが眠っている間、おもちゃたちは夜な夜な語り合い、愚痴をこぼし、持ち主の未来を案じ、あるときは脱走計画を練っているわけです。
かなり不気味で、ホラー映画のような世界ですが、そんなシンプルなアイデアから大ヒットシリーズは生まれたのです。
「不気味の谷」を逆手に使った演出
ウッディとバズとのバディムービーである『トイ・ストーリー』ですが、それだけではここまで観た人の心に深く刺さる作品にはなっていなかったのではないでしょうか。
開発の途上だったCGアニメを長編アニメ化する上で、大きな課題となっていたのが「不気味の谷」です。CGキャラクターを人間に似せようとすればするほど、人間には似ているけど、微妙に違う異物に感じてしまう恐怖が生まれます。
この谷をどう渡り切るか? ジョン・ラセター監督たちは人間ではなく、おもちゃを主人公にすることでクリアします。おもちゃの人形なら、CGアニメ化しやすいわけです。ウッディの持ち主である人間の男の子・アンディは、限定的にしか登場しません。
その一方、『トイ・ストーリー』には強烈な悪役が登場します。アンディ家の隣で暮らす悪童のシドです。アンディと違って、シドはおもちゃを乱暴に扱います。シドの部屋には、バラバラに分解され、「魔改造」された異形のおもちゃたちでいっぱいです。
非常に独創的な遊び方をするシドですが、おもちゃのウッディたちから見れば、シドは「不気味の谷」どころか、不気味さそのものです。
シドの子ども部屋は、人体実験場のような禍々しさがあります。人間と植物を併合させるマッドサイエンティストをドナルド・プレザンスが演じた『悪魔の植物人間』(1974年)、人間の皮をはぐ狂人宅に若者たちが迷い込む『悪魔のいけにえ』(1974年)などを思わせます。
おもちゃの視点から人間社会を描いた『トイ・ストーリー』は、西部劇やSF映画をオマージュしているだけでなく、ホラー映画の歴史も投影していたのです。
映画史に残る超残酷なホラーシーン
恐怖シーンはそれだけではありません。アンディの新しいお気に入りとなったアクションフィギュアのバズは、自分を本物の宇宙飛行士だと思っています。ウッディから「お前はおもちゃなんだよ」と言われても、聞く耳を持っていません。
ところが、テレビで流れるCMに自分の姿が映り、しかも工場で大量生産されている商品のひとつにしか過ぎないことを知ります。驚いたバズは「MADE IN TAIWAN」と自分に刻印されていることにも気づきます。
自分は宇宙の平和を守るヒーローだと思っていたバズのアイデンティティが大崩壊する瞬間です。この場面は、映画史上もっとも残酷なホラーシーンと言ってもいいのではないでしょうか。
アレックス・ガーランド脚本の映画『わたしを離さないで』(2010年)にも、主人公が自分は人間ではなく「クローン人間」だと知るシーンがあります。でもね、『トイ・ストーリー』を初めて観たときのほうが、衝撃が大きかったし、バズの身を心配したものです。
失意のどん底から、バズはよくぞ立ち直ったなと感心します。
別れることを前提にしたお付き合い
恐怖を味わうのはバズだけではありません。主人公のウッディは、人間の男の子であるアンディと一緒に遊ぶことを至上の喜びとしています。子どもはとても純真な生き物ですが、その一方で「すぐに飽きてしまう」という正直かつ残酷な一面も持っています。
いつかアンディに飽きられて捨てられるかもしれないという不安に、ウッディは怯えています。新入りのバズに嫌がらせをするのも、アンディの愛情を独占していたいからです。
シリーズを通して見ていると、ウッディは正義の保安官で、他のおもちゃたちの幸せを考えているイメージがありますが、第1作のウッディはけっこう嫌味で、人間臭いキャラクターです。
最愛の相手とは、いつか別れる日が訪れる。これはおもちゃにとっての宿命です。それでも、ウッディはアンディが大人へと成長していくのを静かに見守るしかないのです。『トイ・ストーリー』は、かなり切ない物語なんですよ。
『トイ・ストーリー』の原点となったおとぎ話
ジョン・ラセター監督は『トイ・ストーリー』のプロトタイプとして、短編CGアニメ『ティン・トイ』(1988年)を撮っています。楽隊人形を主人公にした『ティン・トイ』を観ていると、ラセター監督はアンデルセン童話の『なまりの兵隊』が好きなんだろうなぁと思います。
アンデルセンが書いた『なまりの兵隊』は、足が一本しかない兵隊人形が、踊り子人形に恋をする物語です。哀しいラブストーリーとして、子ども心に記憶されています。
現実のアンデルセン自身も失恋の連続で、生涯を独身のまま過ごしています。
ジョン・ラセター監督も、栄光と失意をダブルで味わっています。『トイ・ストーリー』を大ヒットさせ、「ピクサー」を人気企業に押し上げ、さらにディズニー社に合併されてからは、ディズニーアニメの再興に尽力しています。しかし、Me Too運動の折にスタッフへの過剰なハグなどが問題視され、コンプライアンスを重視するディズニー社から立ち去ることになりました。
どんなに相手のことを想っていても、人生はままならないものです。生きていること自体がホラーなことなのかもしれません。
「おれがついてるぜ~♪」
そんな歌を歌ってくれる仲間がひとりいれば、人生は御の字ではないでしょうか。
(文=映画ゾンビ・バブ)
