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高校野球で進む「エースリリーフ」の常識化――甲子園データが示した勝利の新方程式

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完投する時代ではなく、今はリリーフとしても出場するエース。(写真:Getty Imagesより/写真はイメージ)

 かつての高校野球において、「エース」とは「先発完投」と同義だった。しかし現代では、「エースを試合のどの局面、あるいはどの試合で投入するか」というジョーカー的な運用が主流になりつつある。

 一方、エースリリーフ率はこの5年間でほぼ倍増した。今や「全試合の3分の1以上で、背番号1がリリーフとして登板している」という、かつてでは考えられない状況となっており、エースの概念が根本的に変質したことを示している。

 そんな高校野球の戦い方や制度の変遷が顕著になった2000年から2025年まで、四半世紀にわたる夏の甲子園出場校のデータを徹底的に分析し、現代高校野球における「勝利の正体」を解き明かしたのが、野球著者・ゴジキ氏の新刊『システムで読む甲子園 25年分のデータで解き明かす「勝利と成長」の条件』(カンゼン)である。

 本記事では、発売前重版でも話題の本書の内容を一部抜粋・再構成し、「エース神話」の終焉と継投システムの進化をたどる。

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二人の投手を使い分けた京都国際

 近年の戦術進化を定量的に測る上で最も重要な指標の一つが「エースリリーフ率」である。これは、チームの主戦投手(通常は背番号1を背負う最も信頼のおける投手)が、先発ではなくリリーフとして試合に登板した割合を示すデータである。

 この数値の推移は、指導者の戦術的パラダイムが「エースは先発して完投するもの」から「エースは試合の勝敗を分ける最も重要な局面(ハイレバレッジ)で投入するもの」へと変化していることを雄弁に物語っている。

 優勝校と準優勝校の数値を比較すると、年ごとの戦術トレンドの激しい揺り戻しが観察できる。例えば、2022年の優勝校はエースリリーフ率が60%と極めて高く、複数投手制のなかでのクローザー的な役割が際立っていた。

 一方で、2024年の優勝校は0%と、エースを一切リリーフ起用せずに頂点に立っているのに対し、同年の準優勝校は100%という極端な数値を記録している。

 これは、一概に「エースをリリーフに回せば勝てる」という単純な方程式が存在するわけではなく、チームの投手陣の編成(2枚看板の均等割りか、絶対的守護神の配置か)によって最適解が大きく異なることを示している。

 2025年には全体の率が37.23%と過去5年で最高となり、優勝校も50%を記録するなど、柔軟なブルペン運用が完全に現代のスタンダードとして定着したことが確認できる。

 これらのマクロな傾向が、実際の優勝校のミクロな投手成績においてどのように体現されていたのかを年次ごとに詳細に分析していく。

 2024年の第106回大会を制した京都国際(京都)の戦術は、近年のトレンドのなかで極めて特異な数値を示している。この年の大会全体のエースリリーフ率は22.92%であったが、準優勝校が100%(のべ5試合中5試合でエースが救援)であったのに対し、優勝した京都国際のエースリリーフ率はなんと「0.00%」であった。のべ6試合を戦い抜きながら、エースを一度もリリーフとして起用していないのである。

 一見すると「一人のエースが全試合完投した古いスタイルへの回帰」と誤認されがちだが、ミクロデータを見ると全く異なる真実が浮かび上がる。京都国際は、レベルの高い「二人の先発完投型サウスポー」を交互に先発させるという、プロ野球の先発ローテーションに近い究極の「スタート分割」を実践していたのである。

 中崎琉生と西村一毅という二人の圧倒的な左腕が、チームの全イニング(55回)を完全に二人で分け合っている。中崎は4試合で31イニングを投げ、防御率1.45。33奪三振に対して与四死球わずか7という圧倒的な力を見せた。一方の西村も4試合で24イニングを投げ、防御率0.00(自責点ゼロ)という完璧な投球を披露した。

 運用の特筆すべき点は、その「役割の純化」と「継投のタイミング」にある。決勝の関東第一戦において、先発の中崎琉生(最速144㎞/h、カーブ、スライダー、カットボール等を駆使)は、9回を無失点に抑える完璧な投球を披露した。しかし、試合が延長10回のタイブレーク(無死一、二塁から開始)に突入した瞬間、ベンチは躊躇なく西村一毅(最速143㎞/h)をマウンドに送った。

 この決断には、極めて深い戦術的意図が隠されている。タイブレークという特殊な状況下では、打たせて取る投球よりも、ランナーを進めさせない「奪三振能力」が絶対的に求められる。

 西村は、先輩である中崎から直伝された精度の高いスライダーを持ち球としており、10回裏の二死満塁という絶体絶命のピンチから、最後はそのスライダーで空振り三振を奪い、優勝を決めた。

 疲労が蓄積した中崎をそのまま続投させるのではなく、フレッシュな状態で、かつ三振を奪える球種を持つ西村を投入したことは、データと確率に基づいた極めて冷徹なリスクヘッジの成功例である。

 京都国際の「エースリリーフ率0%」は、エースを温存しなかったからではない。中崎と西村という「どちらも単独でエース級」の実力を持つ投手が、それぞれ別の試合に先発し、そのまま試合をクローズできるだけの耐久力と実力を兼ね備えていたため、リリーフを仰ぐ必要がなかった、あるいはエースを後ろに回す必要がなかったからである。

 準優勝校がエースを毎試合リリーフで酷使せざるを得なかった(リリーフ率100%)のとは対照的に、京都国際は極めて計画的かつローリスクな形で大会を乗り切ったと言える。これは、複数投手制の一つの完成形であり、チーム内に同格の投手を複数育成することの絶大な優位性を証明している。

エースリリーフ率50%を記録した沖縄尚学

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システムで読む甲子園 25年分のデータで解き明かす「勝利と成長」の条件』(カンゼン)

 そして2025年、夏の甲子園の投手起用戦術は、沖縄県代表・沖縄尚学によって一つの芸術的な最適解へと導かれた。

 2025年の大会全体のエースリリーフ率は37.23%と過去5年で最も高くなり、継投戦略が完全に定着したことを示している。

 そのなかで優勝した沖縄尚学は、のべ6試合中3試合でエースがリリーフ登板し、エースリリーフ率50%を記録した。沖縄尚学は、春のセンバツ大会では1999年と2008年に優勝経験があったものの、夏の甲子園での優勝は同校初であり、沖縄県勢としても2010年の興南高校(春夏連覇)以来、実に15年ぶりの快挙であった。

 この偉業を支えたのは、左腕の末吉良丞と右腕の新垣有絃という、共に2年生のダブルエースによる「非対称な2枚看板」システムである。

 末吉良丞は全6試合に登板し、34イニングを投げて防御率1.06を記録した。1999年のセンバツ優勝時の主将であり、現在は広島東洋カープの球団職員を務める比嘉寿光氏は、末吉の投球フォームと球質を「オリックス・バファローズの宮城大弥投手に重なる」と高く評価している。

 がっちりとした下半身主導のメカニクスから生み出されるスタミナと、34イニングで39個の三振を奪う球威、そして横の揺さぶりと奥行きを使った制球力の高さが持ち味である。末吉は先発として試合の序盤から中盤にかけての強固なリズムを構築する「安定軸」であった。

 一方、新垣有絃は4試合で22イニングを投げ、防御率0.82という驚異的な無双状態を見せた。比嘉寿光氏が「オリックスの山岡泰輔投手に似ている」と評する通り、彼の最大の武器はタテに鋭く落ちる独特の軌道を描くスライダーである。

 沖縄尚学の運用は、末吉(34回、防御率1.06)と新垣(22回、防御率0.82)という極めてハイレベルな2投手に完全に依存する「完成型2枚看板」であった。

 末吉はU-18代表候補にも名を連ね、強化合宿の紅白戦で4者連続三振を奪うなど、圧倒的な支配力を持つパワーピッチャーである。2025年の優勝校エースリリーフ率は50%に達しており、末吉と新垣が試合ごとに先発とクローザーの役割を柔軟に入れ替えることで、相手打線に的を絞らせず、かつ両者の疲労を最小限に抑える高度なマネジメントが行われていたことがわかる。

 亜熱帯気候に近い沖縄県のチームが、灼熱の甲子園を勝ち抜くための生理学的な最適解としてこの運用に到達し、決勝戦でも日大三の強力打線を相手に3対1というロースコアのゲームプランを完遂した事実は、投手の個々の能力の高さだけでなく、ベンチの緻密な継投のタイミングとリスク管理能力が全国最高峰にあったことを証明している。

 この2025年優勝チームの戦術的真髄は、単なるイニング分散にとどまらない。左腕の末吉が持つ球持ちの良さとクロスファイアによる横の揺さぶりに目を慣らされた打者に対し、試合の終盤・ハイレバレッジの場面でマウンドに上がる右腕の新垣が、初見では対応困難なタテの鋭いスライダーを投じる。この投球は、打者の目線とスイング軌道を根底から破壊する。安定した左腕の横の軌道から、鋭利な右腕の縦の変化へ。

 この対極の個性を持つ二人が生み出す「軌道のコントラスト」こそが、相手打線の適応を完全に阻害し、強打者たちを無力化する究極の幻惑メカニズムであった。エースを試合の途中からリリーフ投入することで、相手チームの反撃の芽を最も効果的なタイミングで摘み取ったのである。

ヤクルト、快進撃を支える“爆発力”

(文=ゴジキ)

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ゴジキ

野球評論家・著作家。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、(集英社新書)、『システムで読む甲子園』(カンゼン)などがある。『データで読む甲子園の怪物たち』(集英社新書)と『マネジメント術で読むプロ野球監督論』(光文社新書)は発売前重版を記録。連載実績として「ゴジキの巨人軍解体新書」「データで読む高校野球2022」「ゴジキの新・野球論」などを担当し、現在はサイゾーオンラインにて「ゴジキの野球戦術ちゃんねる」を連載中。週刊プレイボーイ、スポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、集英社オンライン、現代ビジネスなど各種メディアでの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース エキスパートにも選出されている。
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ゴジキ
最終更新:2026/07/16 22:00