『キングダム』に感じる物足りなさの正体 日本特有の「製作委員会」方式の限界か?

「覚えておけ、俺はいずれ天下の大将軍になる男だ」
主演俳優・山﨑賢人のそんな台詞が印象に残るアクション映画『キングダム』(2019年)は、興収57.3億円の大ヒット作となりました。その年の実写邦画第1位となっています。
シリーズはその後も続き、第4弾『キングダム 大将軍の帰還』(2024年)は、86.3億円を記録。シリーズ全4作の累計興収は235億円に達しています。山﨑賢人のアクション俳優としての成長、大沢たかおの熱演もあり、人気漫画の実写化映画として成功を収めたシリーズだと言えるでしょう。
しかし、その一方では製作委員会方式の限界、アクション大作としての物足りなさも感じる人も少なくありません。
7月10日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で『キングダム スペシャルエディション』が放送される機会に、物足りなさの正体を探ってみたいと思います。
下僕から大将軍を目指すふたりの戦災孤児
原泰久原作の漫画『キングダム』は今も連載中で、集英社から79巻まで刊行されています。古代中国の春秋戦国時代末期、中国を初めて統一した秦の始皇帝とそれを支えた武将・李信の物語です。
戦災孤児の少年・信(山﨑賢人)は下僕として働きながら、共に下僕として育った漂(吉沢亮)と「天下の大将軍」を目指して、剣の修行に励んでいました。やがて、漂は秦王の影武者として仕官することになります。
一か月後、信のもとに帰ってきた漂は血まみれでした。秦王の身代わりとなって襲撃を受けたのです。信に「大将軍」になる夢を託して息を引き取ります。
信は漂に代わって、クーデターによって王宮を追われた秦王(吉沢亮2役)の護衛を務めることに。次々と迫る刺客たちと信との死闘が繰り広げられます。そして、王座奪回のため、恐ろしい山の王との謁見に臨むのでした。
『キングダム』が実写化に成功した理由
実写版『キングダム』の中で、ひときわ注目を集めたのが王騎将軍に扮した大沢たかおのマッチョ化、そして長澤まさみが初挑戦した本格アクションでしょう。
漫画をただそのまま映像化しても、人気俳優たちによるただのコスプレショーにしかなりません。あの大沢たかおが「んふふふ」とオネエ言葉を発しながら肉体改造ぶりを披露し、長澤まさみは映える二刀流アクションを見せています。
こうしたサプライズシーンがあったからこそ、二次元の世界であった『キングダム』は、実写化に成功したわけです。CGではない、生身の俳優たちが演じる面白さが感じられます。
もうひとり、アクション俳優の坂口拓が第1作に参加していたことも大きいでしょう。信の前に立ちはだかる悪役・左滋を演じた坂口拓はアクションコーディネーターとしても知られており、戦国の世ならではの殺気と狂気を『キングダム』にもたらしています。流血シーンがかなり控えめになった実写化だけに、重要な役割を果たしていたと思います。
第2作『キングダム2 遙かなる大地へ』(2022年)では、高校時代から坂口拓のもとでアクションを学んでいた清野菜名がアクション女優として大々的に活躍することになります。
「性格に問題あり」三吉彩花はどこまで見せる?
興行的には成功し、シリーズ化された『キングダム』ですが、同時に日本映画としての限界も感じさせます。「製作委員会」方式の限界と言ってもいいでしょう。「製作委員会」の持つ安全性が、面白さにまで「枷」を掛けているように感じるのです。
山﨑賢人、吉沢亮、橋本環奈ら若手人気キャストを配した華やかさを打ち出した『キングダム』は、知名度のある原作を、人気キャストをそろえ、実績のある監督によって実写化するという近年の日本映画界の主流となってきた「製作委員会」方式の鉄板的なスタイルが用いられています。
製作費は公表されていませんが「一般の邦画の5本分くらい」と言われており、およそ10億円規模だとみられます。大友啓史監督の『宝島』(2025年)は製作費25億円を投じながら大コケしたことが話題になりましたが、邦画界では製作費に10億円を費やしただけでも充分にすごいことです。
日本テレビも加わった「製作委員会」としては、シリーズ化するためにも第1作を外すことはできませんでした。豪華キャストを謳った『キングダム』ですが、『キングダム』の原作連載10周年の記念プロモーション動画に起用された山﨑賢人をはじめ、既視感のあるキャストばかりで新鮮味が薄かったように思います。また、地上波放送が前提となっており、バイオレンス描写も控え目です。
もっともっとサプライズシーン乱れ打ちで、配信ドラマにはない劇場映画ならではの迫力を堪能させてほしいのです。
基本的に俳優は、体を使って表現するのが大好きなピープルです。アクションに自信のある俳優はまだまだいます。武術太極拳の金メダリストである山本千尋を『キングダム2 遙かなる大地へ』に登場させながら、アクションはなしというがっかりシーンは勘弁してください。
俳優の知名度が「製作委員会」では優先されており、アクション人材を生かしきっているとは言えません。
7月17日(金)から公開される最新作『キングダム 魂の決戦』は、「性格に問題あり」の女将軍を演じる三吉彩花に期待したいところです。ダンスが得意な三吉彩花だけに、殺陣もかなりできるはずです。
山﨑賢人が実写化シリーズから卒業する日
漫画の実写化企画に過度に期待するほうがおかしいと思う人もいるかもしれませんが、ヒース・レジャーの狂気的演技が忘れられない『ダークナイト』(2008年)、ホワキン・フェニックスが暴走する『ジョーカー』(2019年)のようなコミック原作ながら強烈なインパクトを放つ作品が海外では製作されています。
漫画原作ではありませんが、永井豪の『バイオレンスジャック』あたりの影響を受けただろう、ジョージ・ミラー監督の『マッドマックス2』(1981年)や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)のような常軌を逸した作品に出会いたいわけです。
現場で大きなトラブルもなく、シリーズ化が続いていることは評価するとしても、日本で製作されたアクション大作の到達点が『キングダム』であるーと受け入れるのは一抹の寂しさを感じてしまうのです。
人間が持つエネルギーと時間とを凝縮した世界である映画には、観た人の人生観を変えてしまうほどの怒涛のパワーを放ってほしいんですよ。メジャー大作=ほどほどの作品ではないはずです。
日本映画が世界レベルで評価されるためには、リスクを回避するためのシステムである「製作委員会」方式からの脱却に、日本映画界はそろそろ本腰を入れて取り組んだほうがいいんじゃないでしょうか。
山﨑賢人は、2028年のNHK大河ドラマ『ジョン万』に主演することが決まっています。いい加減に実写化シリーズから彼を卒業させてあげるのが、製作サイドも所属事務所も人としてのあるべき道だと思いますよ。
(文=映画ゾンビ・バブ/映画ウォッチャー)
