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『オブセッション』『Backrooms』『TALK TO ME』…コウイチTVと考える「YouTube×映画」の可能性

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映画『オブセッション 災愛』

 YouTubeでのコメディ動画が人気を博すカリー・バーカー(26)が長編デビューを飾ったホラー映画『オブセッション 災愛』が7月17日に日本公開され、週末動員ランキングで初週7位を獲得。5月15日に公開された本国ではオープニング3日間で1700万ドル超、『MICHAEL/マイケル』『プラダを着た悪魔2』に次ぐ全米興行収入ランキング3位スタートというスマッシュヒットの話題作だ。

犬視点の異色ホラー『GOODBOY』

 YouTubeクリエイターといえば、現在21歳のケイン・パーソンズ監督がメガホンを取ったホラー映画『Backrooms』も大注目。現実の“裏側”に存在する「黄色い部屋」を舞台に、どこまでも続く空間、不自然な間取りなど、見る者を不安にさせる空間──いわゆる“リミナルスペース”の恐怖を描いた物語だ。アメリカで5月29日に公開されると、オープニング興行収入で8100万ドル(約130億円)を突破、全米興収ランキングで初登場首位に。日本でも注目が集まるなか、6月29日、日本公開日が9月4日だと発表され、今から待ち遠しい人も多いだろう。

 さてYouTube発の監督、というといかにも「今ふう」だが、この流れは続くのか。

ホラー界隈の“遊び”が、1本の短編動画でトレンドに

『Backrooms』は元々2019年5月、英語圏の匿名掲示板「4chan」に何の説明もなく投稿された「黄色い部屋」の画像から始まったインターネット都市伝説である。その画像の不気味さに惹かれたあるユーザーが、

〈注意を怠って、誤った場所で「noclip(編集部注・コンピューターゲームなどで、本来進行不可能な場所へ侵入するための裏技のこと)」を使い現実から出てしまうと、バックルーム(the backrooms)に迷い込んでしまうことになる〉

と、独自の解釈を投稿した。民俗学者・廣田龍平氏の著書『ネット怪談の民俗学』(ハヤカワ新書、2024年)によれば、これが元で「黄色い部屋=異空間」という設定が誕生し、ホラーファンの間でアイデアを持ち寄り、世界観を構築する“遊び”が広まっていった。

 そんな「Backrooms」が、ホラーファン界隈を飛び出すきっかけは、ケイン監督が16歳当時発表した短編映像だ。

 2022年1月、彼のYouTubeチャンネルで公開された『The Backrooms(Found Footage)』という自主動画は、VHS風のザラザラした質感や、一人称視点で迷宮を彷徨うカメラワークが視聴者の想像力をかき立て、現在までに視聴回数9000万回を突破。短編動画シリーズは20本以上が公開されている(7月21日時点、以下同)。2023年2月には、今もっともホットな映画会社「A24」が、ケイン本人が監督を務める長編映画版の製作を発表した。

YouTube発クリエイターが続々映画界へ進出

 YouTubeから映画界へ──という流れは、昨今のトレンドであるのは確かだ。降霊儀式を題材にしたホラー映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(2022)を手がけた双子のダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟(33)は、ポップカルチャーのパロディやホラーコメディ動画を投稿していたYouTubeクリエイターで、同作は世界興収9220万ドル(約149億円)の大ヒット。

 また、前述のホラー映画『オブセッション 災愛』は、製作費75万ドル(約1億2100万円)と低予算ながら、世界興収は4億440万ドル(約656億円)を超えている。

 米映画メディアによると、ハリウッドは『Backrooms』のヒットを受けて、YouTubeやTikTok、米大手掲示板「Reddit」などから、次なる才能や題材を探す動きを強めているという。個人が自由に発信・共有するネット文化と商業的成功を狙う映画界は、元来距離があるようにも思えるが、こうした動きの背景には何があるのか。『Backrooms』にも早くから着目していた、YouTubeクリエイターで映画監督のコウイチさん(30)と「YouTube×映画の可能性」を考えたい。

日本人クリエイターが見る、短編版『Backrooms』の「凄さ」

 コウイチさんは、高校1年生時にYouTubeチャンネル『kouichitv(コウイチTV)』を開設。シュールで不思議な世界観の「一人コント」を主に投稿し、登録者数は90.9万人にのぼる。また映画監督として、大学在学中の2017年に短編作品『理不尽な男』が札幌学生映像コンテスト入賞。翌2018年には短編作品『最悪な一日』が第13回札幌国際短編映画祭北海道メディアアワード特別賞を受賞した。そして今年1月公開の『とれ!』にて、初の長編を手掛けた。

 そんなコウイチさんは、2022年1月7日にケイン監督が『Backrooms』短編版を発表してすぐの同1月29日、自身のX(当時Twitter)で〈これ凄い〉と反応していた。具体的に、どういった部分で「凄さ」を感じたのか。

「当時は、まだAIによる動画もそれほどなかった頃。このクオリティをお手製で作ったという驚きと、『Backrooms』の世界観を深掘りした映像への衝撃がありました。ただ不気味な空間を徘徊するだけに終わらず、モンスターのような“何か”に襲われる展開がちゃんと用意されている。しかもVHS風と、あえてザラつきのある映像にすることで“本物っぽさ”を生んでいた。16歳でそのアイデアを思いついたのには、やられました」(コウイチさん、以下同)

映画界が注目しはじめた「YouTube」という“発掘場所”

 こと映像作品界において“サブ”的な位置付けだった「YouTube」は、原石が眠る場所でもある。

 若き才能を発掘し、次々世に送り出しているA24は、前出『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の北米配給を担い、同作監督のフィリッポウ兄弟とは『ブリング・ハー・バック』(2026)で再びタッグを組んでいる。10代にして大きな注目を集めたケイン少年の監督起用も当然の流れだろう。

 コウイチさんも、『Backrooms』について「映画業界はほっとかないだろうな、というざわつきはあった」と振り返る。背景には、昨今の映画界が課される宿命がある。

「映画会社は、企画段階で『ある程度ヒットする』という担保が欲しい。すでにバズっているものなら、ある程度の人数が劇場に足を運んでくれることが見込めるというわけです。“面白いけど、ヒットするかどうかわからない”ようなアイデアを形にするより省エネだし、何より英語圏は圧倒的に母数が多い。YouTube動画が届く範囲も(日本とは)桁違いで、集客予測数もその規模が大きい」

 クリエイター側にも、映画界への足がかりとする意識がある。前出『オブセッション 災愛』の監督・カリーは、18歳でロサンゼルスの映画学校に進学し、在学中からYouTube活動を開始。夢への道筋としてソーシャルメディアを利用した。一次情報収集をネット、SNSで行う人が多い時代、誰かに見つけてもらうには、バイラルなプラットフォームが手っ取り早い。そこに、クリエイターとオーディエンスの壁はない。

「YouTubeなら一人でも作品を発表できるし、いいアイデアが浮かんだらすぐ世界中に発信できる。何年もかけて下積みして…という過程をすっとばせる。昔だったら、アイデアを持っていても、実現させる術がない人たちがたくさんいたんだと思いますが、今はその“障壁”がない。実力主義になった感じがあります」

「YouTube発」海外と日本で異なる事情とは

 まさにコウイチさんは、 YouTubeから長編映画監督デビューしたクリエイターの1人である。では日本でも“YouTube発”の流れが広がるかというと、「海外とは少し事情が違うのでは」と冷静だ。

「海外では、クリエイターとしての実力が買われている印象があります。ある程度ビジネス的な観点を持ち合わせ、お客さんに何がウケるかを狙って作れる人が監督に起用され、評価も作品自体が対象となる。一方で日本の場合は、“人”や“文脈”が重視される部分があります。コンテンツを摂取する際、有名人がやっているからとか、作り手の人間性が好きだから見る、といった側面がかなり強い。数字上の勝負が、インフルエンス(影響力)で決まってしまう」

 もちろんネット上の“数字”を持っているからといって、誰でも映画を撮れるわけではないし、映画で好成績を残せるとも限らない。それでも、動画クリエイターたちが「映画」という形態に惹かれるのはなぜか。

「ちゃんと人生に影響する部分がある、というところは大きい気がします。インスタントなショート動画で人生が変わることはあまりないけど、2時間見た映画で価値観や人生が変わることは割とある。長い時間かけ、積み上げて得られた感動と瞬間的な感動では、見る人への“残り方”が違う。そしてどうせなら、なるべく残るものを作りたいですよね。そして、ネットは個人によって使い方にグラデーションがあるけど、映画館はより広く深く届けられる」

『オブセッション』『Backrooms』ホラーが続く理由は?

 ところでYouTube発の映画は、『TALK TO ME』『オブセッション』『Backrooms』と、少なくとも今のところホラーばかり。ジャンルの偏りには、何かからくりがあるのだろうか。

「僕が作り手としてホラーが好きなのは、アイデア勝負で新しいことをやりやすいジャンルで、クリエイティブを感じるからです。この角度からやるんだ、この題材扱うんだ、という発見がある。見る側に立つと、ホラーファンって行動力があるんですよね。だって、わざわざゾッとしに行くんですよ(笑)。好奇心が強く、刺激を求めて足を運ぶ。感動したい、泣きたいというある種受け身の姿勢よりも、自発的な積極性がある。

 また、時代としてはフェイクドキュメンタリーや考察が流行っているように、(見る側に)『いっちょ噛みしたい』という欲求がある気がします。作品内に明確な答えがなく、物語の続きや余白は見る側の想像に委ねられることで、自分もその世界観に参加している気分になれる。そうした、自身の解釈が可能な作品が求められる傾向にあり、それを叶えるのがホラーというジャンルなのだと思います」

 答えが示されないから、いい――まさに『Backrooms』はホラーファンがああだこうだといいながら「設定」や「解釈」を重ねてきたネット都市伝説だ。ただし映画化されるということは、それまでふんわりとしていた物語に何らかの“形”が示されることでもある。その点を、どう思うのか。

「抽象的な世界観にどういうストーリーをつけるんだろう? というのは気になります。 リミナルスペースって、何もない良さ、生物的な気配の無さみたいなものが好まれているところもあると思うんです。あの空間の雰囲気をどれだけ劇場で体験させてくれるかは注目したいですね」

莫大な制作費を投入した華やかな映像美自慢の作品が大々的にPRされ、人気IPの続編が延々と作られるなかで、たしかな支持を得るYouTube発のオリジナル作品。映像の粗さと抽象性は、想像の余白を持つことの豊かさ、大切さを無言で訴えかけるかのようだ。

山崎賢人「またお前か」

(取材・文=町田シブヤ)

『kouichitv(コウイチTV)』
https://www.youtube.com/user/kouichitv

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2026/08/01 18:00