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カルト俳優インタビュー

史上もっともヤバい映画『ムカデ人間』 北村昭博が振り返る公開からの15年間

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『ムカデ人間4K』の日本公開を喜ぶ北村昭博。俳優業に加え、育児にも忙しい。

 きれいはきたない、きたないはきれいー。シェイクスピア劇『マクベス』の魔女の台詞を思い出させるのが、トム・シックス監督の『ムカデ人間』(2009年)だ。この映画を観る前と後では、あなたが持っている常識やモラルは大きく覆ることになるだろう。

「新感覚ホラー映画」

 ドイツ人医師のヨーゼフ・ハイター博士(ディーター・ラーザー)は結合双生児の分離手術を長年手がけてきたが、逆に人間をつなぎ合わせたいという願望に取り憑かれていた。旅行中の若い米国人女性のリンジー(アシュリー・C・ウィリアムズ)とジェニー(アシュリン・イェニー)、さらに日本人のカツロー(北村昭博)が拉致される。

 カツローたちの抵抗も虚しく、3人はハイター博士の人間モルモットにされてしまう。関西弁しか話せないカツローを先頭に、それぞれの肛門と口を縫い合わせた「ムカデ人間」が誕生する。

 あまりにも背徳的な内容から、各国で上映禁止扱いとなった『ムカデ人間』だが、実は直接的にグロい描写はほとんどない。また、映像は隅々まで計算し尽くされており、全体的に水色がかった寒色系の色調で統一されている。長年の夢を実現させたいという天才科学者の純粋さと異常さがせめぎ合う、美しく静謐な狂気の世界となっている。

 4K化され、日本では15年ぶりに劇場公開される『ムカデ人間』を、カツロー役で大きな話題を集めた北村昭博が撮影時の状況とその後の俳優人生を交えて語った。

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スカイプオーディションを経て、北村は「ムカデ人間」の先頭役に選ばれた。

日本の有名男優が「ムカデ人間」の第一候補だった?

 現在もLAを拠点に俳優を続けている北村昭博。彼にとって『ムカデ人間』との出会いは、どれほどのものだったのだろうか?

北村昭博(以下、北村) 「確実に僕の人生は変わりました。僕は米国の演技学校に通っていたんですが、俳優になる夢を持って、一緒にがんばっていた仲間たちの95%は、別の道に進んでいます。もちろん今も活躍している人もいるけど、ほとんどの人は夢は諦めてしまった。僕は『ムカデ人間』に出演したことで、いろんな人たちに出会え、世界が広がったんです。それに自分は『ムカデ人間』以上の作品に、その後は出会えていない。もう一度『ムカデ人間』みたいな作品に出会いたい。その気持ちがあるから、役者を続けることができている。『ムカデ人間』には感謝しかないです。当時は『ムカデ人間』に出演はしたけど、アンダーグラウンドな作品で一般公開はされないだろうと思ってました。なので劇場公開されたことも、日本で15年ぶりに上映されることも感謝ですね」

 当時まったくの無名俳優だった北村は、クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』(2006年)のキャスティングディレクターのユミ・タカダから声を掛けられ、ロケ地のオランダへ単身で向かうことになった。

北村 「当時の僕は、日系人向けのリアリティー番組で『どっきりカメラ』の仕掛け人みたいなキャラをやっていたんです。それを見ていたユミさんが『面白いヤツがいる』とトム・シックス監督に勧めてくれたみたいです。実はムカデ人間の先頭になる日本人役はすでに決まっていたんですが、背中を痛めて四つん這いになれないと出演を断ってきたそうです。それで僕が呼ばれることになった。撮影の1週間前というタイミングでした」

 脚本上のカツローは「50代の日本人サラリーマン」という設定だった。トム・シックス監督は、『硫黄島からの手紙』の主演俳優をイメージしていたことがうかがえる。

北村 「イメージ的には確かにそうでしょうね。トム・シックス監督なら、大物俳優を狙っていたと思います。『ムカデ人間3』(2015年)では、トム・クルーズを出そうとしてたぐらいですから(笑)。でも、ユミさんはさすがに声を掛けられなかったんじゃないかな(笑)。当初は日本人サラリーマンという設定でしたが、監督からは『自由に演じてくれてかまわない』と言われたので、ボクシングの亀田史郎さんと漫画家のやくみつるさんが口論している動画がすごく面白かったので、関西弁でしゃべり倒すヤクザにしたんです。当時の僕は20代で、ギラギラしていたことも大きかったと思います。監督たちがイメージしていたキャラと違ったことが、逆に作品にいい効果を与えることができたのかもしれません」

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ディーター・ラーザー演じるハイター博士。ナチス時代の医師ヨーゼフ・メンゲレがモデルだ。

台詞や演技はすべて俳優たちのアドリブだった

 オランダでの撮影現場で、日本語が話せるは北村ひとりだけだった。北村が提案した台詞や演技プランに対し、トム・シックス監督は「最高だ!」というリアクションが常に返ってきたという。

北村 「とても自由度の高い現場でした。日本語が分かるのは僕だけだったので、何を言ってもOKでした(笑)。台本はシチュエーションしか書かれていなくて、台詞はすべてキャストが考えたものなんです。だから、キャストが違えば、まったく違う『ムカデ人間』になっていたでしょうね。自由に演じたのは僕だけでなく、ハイター役のディーターさんもそうでした。ムカデ人間を作った後、ハイター博士がプールで泳ぐシーンがあるんですが、脚本にはないのにディーターさんは全裸になって泳ぐんです。ムカデ人間はハイターにとってはペットみたいなものだから、ペットに対して恥ずかしがる必要はないということでした。ディーターさんのテンションの高さで、現場の熱気はますます高まっていったんです。すごく楽しかった」

 カツローとつながることになるリンジーとジェニーが、ムカデ人間になってからずっと手を握り合っているのも印象的だ。極限状態に追い込まれた女性たちが、懸命にお互いを支え合おうとする。グロテスクな世界に咲いた、一輪の白百合のような美しさを感じさせる。

北村 「おふたりはNYから参加されたんですが、手をつないでいたのは彼女たちのアドリブだと思います。外国で撮影されるよく分からないインディペンデント映画の現場に放り込まれ、ムカデ人間になることがリアルに不安だったんじゃないですか。僕たちがつなぎ合わされた姿を初めて見たカメラマンのアシスタントは、ショックのあまり涙を流していたくらいでしたからね。僕も監督から鏡でムカデ人間になった姿を見せられ、泣きました(笑)。撮影現場ではあのふたりはすごく仲良くしていましたけど、『ムカデ人間2』(2011年)のプロモーションで再会したときは、ふたりの仲は悪くなってました(笑)。あの現場だけの独特なものがあったんでしょうね」

 人間のおぞましさと美しさの両面を描いた『ムカデ人間』。クライマックス、ムカデ人間として調教を受けるカツローは、思いがけない行動に出る。そして、ハイター博士に向かって「あなたは神ですか?」と問いかける。

北村 「ラストの台詞も自分で考えたものです。トム・シックス監督が僕の役名を『カツロー』にしたのは『勝つ』という意味を持たせたかったかららしいんです。日本の侍が切腹を遂げるみたいな結末を監督は考えていたんですが、それは敗北ではなく、死ぬことで勝利するという解釈だったみたいです。それで僕から、カツローが今までの自分の過去を振り返り、自分はムカデではなく人間なんだと気づく瞬間にしたいと話したところ、OKだと。最後に、カツローは自分の生き様を見せるというラストになったんです。いろんな要素が奇跡的にうまくつながった作品です」

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完成したムカデ人間。この異常な物語は『ムカデ人間2』『ムカデ人間3』につながる。

『ムカデ人間』に衝撃を受けた世代の成長

 人間とは何か? 生きるとは何か? 『ムカデ人間』のエンディングは、そんな人生の深淵さも感じさせる。世界中で『ムカデ人間』が話題となり、米国での公開初日にはクエンティン・タランティーノ監督が劇場に駆けつけたことも知られている。さらに悪趣味度が増す『ムカデ人間2』、『ムカデ人間3』と続いた。北村も米国の人気ドラマ『HEROES/ヒーローズ』にゲスト出演するなど、瞬く間に「時の人」となった。

北村 「映画を見終わったタランティーノ監督からは激賞されましたね。『ムカデ人間』に出演した後は、いろんな作品に呼ばれました。人気俳優になって、若い頃に特撮ドラマなどに出演していたことをプロフィールからハズす人もいるけど、僕にとって『ムカデ人間』は本当に大切な作品。でも、その一方では『ムカデ人間』以上に独創的な作品にはまだ出会えていないのも事実。そのことは葛藤にもなっています。正直なところ、『ムカデ人間』に出演した直後は『俺はダイヤの原石だ』ってギラギラしていたんですが、年齢を重ねると現実が見えてきて、大人くしくなっていた時期もありました。でも結婚して、いま3歳になる息子がめっちゃ元気なんですよ。経済的にもがんばらないといけないし、息子が暴れている姿を見てたら、自分ももっとやってやるぞと思えてくるんですよね。息子からはいいエネルギーをもらっています」

 日本語版Wikipediaにはまだ反映されていないが、昨年だけで北村は5~6本の映画に出演するなどこれまで以上に意欲的に活動している。

北村 「どれも米国のインディペンデント系の映画ですけどね。若い監督たちはシャイだから、『ムカデ人間』のファンでしたとは言わないけど、僕のこともリスペクトしてくれているのは感じています。ハイター博士役のディーターさんは2020年に亡くなり、『ムカデ人間』三部作を日本で劇場公開するのに尽力してくれた宣伝プロデューサーの叶井俊太郎さんも2024年に天国に行かれた。でも、まだまだ彼らが残した情熱は映画界で息づいているし、『ムカデ人間』を観た若い世代が育ってきていることも感じています。B級映画が大好きなタランティーノ監督みたいに、『ムカデ人間』をオマージュする次世代のトム・シックス監督がこれから出てくるかもしれませんよね(笑)」

 LAで暮らす北村に、最近のハリウッド事情についても尋ねてみた。

北村 「今のハリウッドは、以前ほどは元気がないかなぁ。最近だと、韓国で製作され大ヒットした『イカゲーム』を、デヴィッド・フィンチャー監督でリメイクするという企画が中止になったことがニュースになっていましたね。少し前までは韓国などローカル製作のものをハリウッドの白人キャストでリメイクするスタイルが流行っていましたが、二番煎じスタイルが飽きられたというか、ローカルのものをそのまま楽しめばいいという流れになってきていると思うんです。ハリウッドは大きな転換期に来ていて、今までの常識は通用しなくなってきているんじゃないですか」

 これまでの常識が通用しなくなった時代に、『ムカデ人間4K』はぴったりだ。

北村 「日本で15年ぶりに劇場公開されることで、当時は劇場に入れなかった世代も今回は観ることができるわけです。ますます『ムカデ人間』の輪が広がっていくはずです。トム・シックス監督には『ムカデ人間』みたいな強烈な作品をまた撮ってほしいし、僕もそんな作品にまだまだ出ることができるような俳優でいたいと思っているんです。僕は高知育ちで、家の近所によくムカデがいましたが、ムカデって生命力が強くて、なかなか死なないんです。僕も『ムカデ人間』も、しぶといですから、これからも生き続けますよ(笑)」

 8月21日(金)からの日本での劇場公開に合わせ、北村が来日し、東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸の劇場で舞台あいさつする予定となっている。伝説の映画に心を奪われた人たちが集い、さらにつながっていく場にもなるだろう。

『怪奇!死肉の男』が開く新時代の扉

(取材・文/長野辰次)

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映画『ムカデ人間4K』
製作・監督・脚本/トム・シックス 製作/イローナ・シックス
出演/ディーター・ラーザー、北村昭博、アシュリー・C・ウィリアムズ、アシュリン・イェニー、アンドリュー・レオポルド、ピーター・ブランケンシュタイン
配給/トランスフォーマー R15 8月21日(金)より全国公開
(c)Transformer Inc. All rights reserved.
https://transformer.co.jp/m/mukadeningen/

⚫︎北村昭博(きたむら・あきひろ)
高知県高知市出身。LAの演劇学校で学び、在学中に長編映画『LAマザーファッカー』(2006年)を監督。スカイプオーディションを経て、『ムカデ人間』(2009年)のカツロー役に。各国の映画祭で大反響を呼ぶ。『ムカデ人間3』(2015年)にもカメオ出演している。主な出演映画に『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(2012年)、『クソすばらしいこの世界』(2013年)、『KARATE KILL/カラテ・キル』(2016年)など。人気ドラマ『HEROES/ヒーローズ』ファイナルシーズン、Amazonオリジナル・ミニシリーズ『東京ヴァンパイアホテル』、Netflixドラマ『コブラ会』第5シーズンなどにも出演。2024年には、短編映画『ラストライド』でファースト・グランス映画祭最優秀主演男優賞(短編部門)を受賞している。2016年に女優・モデルの川和美輝さんと結婚し、現在は一児のパパ。

長野辰次

映画ライター。『キネマ旬報』『映画秘宝』などで執筆。著書に『バックステージヒーローズ』『パンドラ映画館 美女と楽園』など。共著に『世界のカルト監督列伝』『仰天カルト・ムービー100 PART2』ほか。

長野辰次
最終更新:2026/08/21 22:00