メンヘラの可視化『インサイド・ヘッド』 竹内結子、大竹しのぶ、佐藤二朗が声優に

メンタルヘルスを略称した「メンヘラ」という言葉が、ここ10年ほどで定着するようになりました。精神的に不安定な状態を指すスラングですが、最近はすっかりカジュアル化しています。ネガティブなイメージも当初はありましたが、精神的なしんどさを自分から口にできるようになってきたことは悪くないように思います。「6人に1人は心の不調を抱える」なんて記事もネット上では見かけます。
そんなメンタルヘルスの世界を描いたのが、ピクサー&ディズニーの3DCGアニメ『インサイド・ヘッド』(2015年)です。多感な少女の内面世界をファンタジックに描き、日本でも興収40億円を超える大ヒット作になりました。
10月9日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、ノーカットで『インサイド・ヘッド』を放送します。現代人にとっては他人事ではない、メンタルヘルスについて考えてみたいと思います。
カナシミはみんなの足を引っ張る存在?
ピート・ドクター監督は『モンスターズ・インク』(2001年)や『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009年)などピクサー社のヒット作を手掛けています。創業メンバーだったジョン・ラセターが去った後のピクサー社のチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)を務めています。フィリピン出身のロニー・デル・カルメン監督と共作した『インサイド・ヘッド』はこんな物語です。
舞台となるのは、米国ミネソタ州で生まれ育った元気な女の子、ライリーの頭の中です。頭の中の司令部には、ヨロコビ(CV:竹内結子)をリーダーに、カナシミ(CV:大竹しのぶ)、イカリ、ムカムカ、ビビリという感情がいます。5人が協力し合うことで、ライリーは家族や友達と楽しく暮らしていたのです。
11歳になったライリーは、両親と共に都会のサンフランシスコへと引っ越します。新しい街で暮らし始めたライリーの転校デビューを成功させようと、ヨロコビは張り切ります。
ところが、カナシミが記憶のボールに触れたことから、ライリーはミネソタ時代を思い出し、転校先の小学校で泣き出すことに。慌てたヨロコビはカナシミを制しようとしますが、誤ってふたりとも司令部から遠く離れた記憶の彼方へと飛ばされてしまいます。
なんとか司令部に戻ろうとするヨロコビとカナシミですが、頭の中は迷路のようになっており、簡単には帰ることができません。その間にもライリーはどんどんボッチ化します。ヨロコビとカナシミの苦難の旅が続くのでした。
同時期に公開された真木よう子主演コメディ
ひとりの少女の頭の中を可視化した『インサイド・ヘッド』のユニークな世界観が、話題となりました。同時期には真木よう子主演の恋愛映画『脳内ポイズンベリー』(2015年)も公開されています。こちらもヒロインの脳内が舞台となっており、設定が被っていることで注目されました。
漫画原作の『脳内ポイズンベリー』は、真木よう子の頭の中で西島秀俊、吉田羊、神木隆之介らが脳内会議を開くコメディ映画でした。原作漫画は2010年から連載されていたのでパクリではありませんが、こちらの興収は7.7億円にとどまっています。
人間のインナーワールドを擬人化したコメディ映画には『はたらく細胞』(2024年)もありますが、古くはウディ・アレン監督・主演の『誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXについて教えましょう』(1972年)では、男性が射精する瞬間の体内メカニズムが思いきっり下ネタコントとして描かれています。
さらに1990年代の米国では、TVドラマ『ハーマンズ・ヘッド』が放送されています。こちらは出版社で働く男性の頭の中にいる知性、良心、欲望、恐怖心が討論するというシチュエーションコメディでした。『インサイド・ヘッド』は、ピクサーのオリジナルのアイデアだったわけではありません。
埋もれがちな過去のカルト作を大衆向けにアレンジするのが、ピクサー&ディズニーはうまいんです。
佐藤二朗が演じた美味しいキャラ
ライリーの頭の中には、想像の国、抽象的思考、夢制作スタジオなど多彩なエリアがあり、ヨロコビとカナシミは、さまざまな体験をします。そんな状況下で出会ったのが、ライリーのイマジナリーフレンドであるビンボン(CV:佐藤二朗)でした。
ライリーが幼い頃はよく一緒に遊んだ「空想の友達」ビンボンですが、彼女が成長するにつれ、忘れられつつあります。かつてはライリーと月まで旅行したロケットも、今では忘却の谷に放置されたままです。
イマジナリーフレンドは、いつかは消える運命にあります。悲嘆するビンボンをヨロコビは元気づけようとしますが、反応がありません。ところが、カナシミが静かに寄り添うことで、ビンボンは落ち着きを取り戻します。
それまでずっとヨロコビの足を引っ張ってばかりいたように見えたカナシミが、必要な存在だったことがわかります。
ライリーが大人へと成長していく上で、いつも陽気なヨロコビだけでは対応できない複雑な感情が、彼女の中で芽生え始めていたのです。
意外な事実も発覚します。ライリーにとって大切な思い出だったアイスホッケーの試合でゴールを決めた記憶ですが、実は上書きされたものだったのです。本当はゴールを外して落ち込んでいたライリーを、両親やチームメイトたちが温かく励ましていたのです。
喜びと悲しみは共存する感情であることに、ヨロコビとカナシミは気づくことになります。
あまりにも献身的だったヨロコビ
ヨロコビ役の声優に挑戦したのは、女優の竹内結子さんです。個性的な感情たちをまとめる責任感の強いリーダーであり、ライリーが幸せになることを常に願っている存在です。ヨロコビが献身的に明るく振る舞う姿は、あまりにもけなげです。TVドラマや映画でずっと活躍し続けた竹内結子さん自身と重なるものを感じさせます。
竹内結子さんが亡くなった2020年には、人気俳優の三浦春馬さんも亡くなっています。2022年にはお笑いタレントの上島竜兵さんも亡くなっています。コロナ禍中に、人気芸能人たちの悲報が相次いだことは世間に衝撃を与えました。
なぜ自ら死を選んだのか、その理由は誰にもわかりません。もしかしたら、本人にも整理できない苦しみだったのかもしれません。そのくらい人間の心は複雑です。
はっきりと言えることは、人気俳優や売れっ子タレントも、ひとりの生身の人間だということです。いくら幸せや成功を手にしても、それぞれ悩みや心の闇も抱えています。時々そのことに耐えきれなくなってしまいそうになることは、生きている人間なら誰しも経験があることでしょう。
今の社会は「陽キャ」やコミュニケーション能力に優れた人物がもてはやされがちですが、いつも「陽キャ」やコミュニケーションの達人でいるのはしんどいですよ。人間はもっとテキトーでいいじゃないですか。
いつも張り切っているヨロコビを見ていると「そんなにがんばらなくてもいいよ」と言いたくなるのと同時に、どんな仕事も手抜きができない人だったんだなと故人のことが偲ばれます。今夜はもうテレビを消して、パソコンも閉じて、おやすみなさい。
(文=映画ゾンビ・バブ)
