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『おむすび』第57回 「橋本環奈の顔を撮りたい」というグロテスクな欲望

橋本環奈(写真:サイゾー)
橋本環奈(写真:サイゾー)

 昨日は結さん(橋本環奈)に困り顔ばかりさせて喜んでいるおっさんスタッフの影がチラついて気持ち悪いという話をしましたが、今回はプロポーズと勘違いしてアゲ~♪なハシカンがカメラ目線でサービスカットしてましたね。あの顔させて「はい、オッケー!」とか言ってんでしょ、きついって。

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 そういうわけでお話が始まる月曜日には、ほとんど全カットにおかしなところがあったNHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第12週の「働くって何なん?」ですが、火曜日の第57回もなかなかのヤバさでした。

 要するに物語よりもハシカンの顔を撮ることを優先してるんだよな。朝ドラとして、明らかにターゲティングを間違えてるから、こんなグロテスクなドラマが生まれてしまうんだと思うんです。

 私たちがなぜドラマを見るのかといえば、例えば、ドラマの提供する世界観に没頭し、そこに描かれる世界にひととき身を置くことで自らの日常を再確認できるから。例えば、架空の誰かに心を重ねることで内面の孤独を癒せるから。例えば、物語が与えるメッセージに共感し、人生における判断の指針を得られるから。その理由は人それぞれでしょうけれども、視聴者は『おむすび』の作り手が考えているよりずっと真剣にドラマを見ています。

 だから、昨日の結さんがコック長の立川さんに楯突いたシーンだって、共感した人はいたと思うんですよ。勇気をもらった人だっていたと思う。それを「もしかして、米田さんってギャル?」なんてドラマ側の都合にこじつけられたらバカバカしくなっちゃうじゃんね。属性じゃなくて信念の話をしてたんだろって。

 昨日も出社前に「うちは一生ギャルやけん」って言わせたり、仕事前にギャルと撮ったプリクラを見つめたりといったシーンがありましたが、就職して黒髪になったために衣装や髪型でギャルを表現できなくなったために、ギャルに関係ないシーンでも無理やり「ギャルのドラマです」という主張を挟み込む必要があるということなんでしょう。浅ましい限りです。

 振り返りましょう。

そのレシピは美味いの? 美味くないの?

 イケメン調理師の原口(萩原利久)と意気投合した結さん。コック長の立川さんが休んだときのために、社食のレシピを明文化することにしました。しかし、そのレシピは立川さんの頭の中にしかないそうで、原口と結託して立川さんの調理を盗み見し、メモを取ることにしたようです。

 原口を夜通し酒席に付き合わせるという前時代的なパワハラを行い、機嫌を直した立川さんは厨房で包丁を研いでいます。

「俺はここの責任者やぞ、朝一番に来て最後に帰るんは当然やろ」

 結さんの後に来たのに、そんなことを言う立川さん。というか、結さんは何時に来たんでしょう? なんでそんな早く来たの? ここも必要な説明が省かれています。

 そして立川さんが仕込みを始めると、結さんはずっとメモを取っています。あんなにてんやわんやだったはずのランチ前の厨房が、なぜだか今日はすっかり静まり返っています。誰にも邪魔されず、ほかの作業をしているはずのパートさんたちを手伝うこともなく、レシピを書き写す結さん。いったん視聴者に提示された「職場の風景」というものが、たった1日で一変してしまっている。こういうことをやってしまうと、もうこのドラマは「主人公が慣れない職場に慣れていく」というプロセスを描くことはできません。

 そしてそもそも、立川さんのレシピをコピーしたいという結さんのモチベーションもよくわかりません。そのレシピは量ばかり多くて味が濃くて、野球部にとっても女性社員にとっても不適切であるという判断をしていたはずです。だからこそ「メニューを一新したい」と進言したにもかかわらず、今度はそれをコピーすることに執心している。

 物語を素直に追いかけていれば、このタイミングで結さんがやるべきことは旧態依然としたレシピのコピーではなく、新メニューの考案であるはずです。

「先日は生意気なことを言いましたが、具体的な新メニューを考えてきました。見てください」

 信念を貫くとは、あえてこのドラマの設定に沿っていうなら、ギャル的な行動とは、そういうものであるはずなんです。何がしたいのか全然わかんない。いや、わかんなくはないんです。レシピのコピーが完了した段階で立川さんを欠勤させ、結さんたちの活躍によって社食の危機を乗り切り、立川さんとの和解を図りたいのでしょう。スズリンが栄養失調で倒れたように、ルーリーが夜の街を徘徊したように、そして阪神淡路大震災が発生したように、ドラマの展開に要請されて立川さんに場当たり的な悲劇が訪れる予感が漂います。

カッパはもうダメだ

 一方、野球部の四ツ木翔也(佐野勇斗)はもうダメです。日に日に肩の痛みが増していますが、指導者や高校からバッテリーを組む捕手にも肩の状態を報告しません。そして書籍をパラパラとめくって「自然治癒しない」という文言を見つけると、絶望しています。

 この人はメジャーリーグを目指す野球選手なわけですが、そういえば「変化球」を知りませんでした。自然治癒しないことを知って絶望するということは、もしかしたら「治療」という概念や「お医者さん」という存在も知らないのかもしれません。もうダメっていうか、そんなやつ最初からダメなんだけど、そのわりに、自身の肩の異常が「肩関節唇損傷」であることはなぜか確信しているし「自然治癒」という言葉の意味は知ってるんだよなぁ。どういう人なんだ。

 結さんとのデート中、幼なじみの陽太(菅生新樹)が現れると、翔也は身を引きます。自分の肩は自然治癒しないから選手としてはもう終わりだ、結のことは陽太に任せよう、そういう心象が描写されています。

 百歩譲って、その翔也の子どもじみた判断を理解しようとしても、こいつらの目の前にはチャーハン、ラーメン、ギョウザと、炭水化物が山のように積まれているわけですから、野球や食事管理に対する真剣さも伝わってこない。

 総じて、誰の何に対しても真剣さが伝わってこない。

 もう一回書いておくけど、視聴者は『おむすび』の作り手が考えているよりずっと真剣にドラマを見ています。そこんとこよろしく。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
https://note.com/dorama_child/m/m4385fc4643b3
第57話~
https://cyzo.jp/tag/omusubi/

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/01/10 18:11