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ブラピ&ワンコの絆に涙――退役軍人と元軍用犬のサバイバル『ハート・オブ・ビースト』 タイトルに込められた“複数の意味”

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映画『ハート・オブ・ビースト』より

 9月25日に日米同時公開されたブラッド・ピット主演の映画『ハート・オブ・ビースト』が、観た人の心に静かな余韻を残している。

映画『バイオハザード』、4度目の正直

 本作は、ブラピとデヴィッド・エアー監督が『フューリー』(2014)以来、12年ぶりに再タッグを組んだサバイバル映画。予期せぬ飛行機事故によって“魔の領域(ハート・オブ・ビースト)”と呼ばれるアラスカの奥地に不時着した退役軍人・ジェームズ(ブラッド・ピット)と、戦場での経験によりPTSDを抱えた元軍用偵察犬・オーディンが、互いに支え合いながらマイホームへ還ろうとする──。

「号泣必至」絶賛レビュー

 あらすじを書いてしまえばどこまでもシンプル。ただ“それだけ”のストーリーだが、特筆すべきは、ほぼ全編にわたって1人+1匹だけで物語が進むということだ。軍を退役し、新たな人生を始めようとする者同士、会話らしい会話もないなかで、観客は大自然と彼らの間にしか成立しない愛情にどっぷり浸る。アメリカでは大手レビューサイト「ロッテントマト」で批評家84%、観客95%が好意的な反応を示し、興行収入5220万ドル(約82億円)を記録した。

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映画『ハート・オブ・ビースト』より

 日本における興収は10月15日現在(以下同)で約4億4000万円。約6.87億円を稼いだ『アベンジャーズ/エンドゲーム:アンコール』(9月23日~)や、20億円を突破した『オデュッセイア』(9月11日~)など、同時期に公開された大作の陰に隠れているものの、映画レビューサイト「Filmarks」の累計スコアは5点満点中4.0点を獲得し、SNSには〈不覚にも泣いてしまった〉〈号泣必至の大傑作〉などと絶賛の声が相次ぐ。

 タイトルの「ハート・オブ・ビースト」を直訳すれば「獣の心」。その言葉に込められた複数の想いも合わせて、映画評論家・前田有一氏に本作の魅力を聞いた。

12年ぶり、元軍人のエアー監督×ブラピが生む臨場感

 本作を見た前田氏は、映画の魅力を語るうえで、スクリーンの内と外にいる2組の「バディ」に着目する。①エアー監督と主演のブラピ、②ブラピ演じる退役軍人・ジェームズと元軍用偵察犬・オーディンだ。

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映画『ハート・オブ・ビースト』より

 まず、①監督×ブラピについて。

 エアー監督は17歳でアメリカ海軍に入隊し、潜水艦の乗組員として勤務した後、37歳で映画監督デビューという異色の経歴を持つ。第二次世界大戦を舞台にしたアクション・アドベンチャー『フューリー』や、ドキュメンタリー・タッチの硬派な都会派刑事ドラマ『エンド・オブ・ウォッチ』(2012)などが代表作で、兄弟愛や不屈の精神を描いた躍動感あふれるハードな作品で知られる。

 また、脚本で参加した『U-571』(2000)では第二次世界大戦化の潜水艦を舞台とし、監督デビュー作『バッドタイム』(2005)では、軍歴を持つ主人公が社会生活に適応しようとする姿を描いた。ブラピ×エアー監督タッグの前作『フューリー』も、第二次世界大戦の戦車部隊に焦点を当てた映画だった。

「戦争そのもの」か、「戦争を経験した者たちの“その後”」かという違いはあれど、根底には共通するテーマがある。戦争や軍隊は、エアー監督が繰り返し向き合ってきた題材なのだ。

 そんなエアー監督ならではの持ち味は、前田氏いわく「現場のリアリティ」。獰猛な動物、崖下の激流、底の見えない沼地など、容赦なく立ちはだかる大自然の脅威と、それに翻弄される主人公たちの姿を臨場感たっぷりに描き出す。

「リアリティ」のために監督は、20年にわたり米海軍の特殊部隊で衛生兵を務めたショーン・デザーン氏を軍事顧問としてチームに迎えた。そしてデザーン氏は海軍時代の経験を基に、「ジェームズ(ブラッド・ピット)=元軍人」ならばコンパスはどう開くのか、ナイフはどう抜くのか、荷物をどう詰めるのかといった細かな所作まで徹底的に指導。

 さらにデザーン氏は、過酷な環境で生き延びる方法をパイロットや軍人に教える実際の教官リーフ・スウェンソン氏を招き、どこでも火を起こす方法や、野生の中で食料を見つける方法、親指を使って距離を測る方法、薪として使える乾いた木を見つける方法などを学ばせた。「できる」という技術面だけでなく、それらが身に染み付いているように見えるかどうか、立ち居振る舞いにまでこだわったという。本物の特殊部隊の精神を含め、とことんまでこだわったリアリティにブラピの繊細な演技が説得力を与え、観客の意識をスクリーンに没入させる。

「ブラッド・ピットがソロキャンプをしているシーンには、彼ならではのワイルドな魅力が溢れています。我がままに好きなことをやる、まさに男が憧れる自由人。戦地をともにしたオーディンを連れ、自家用飛行機で移動しながらキャンプ生活をする様は、過酷で孤独なんだけど、夢とロマンに溢れているようにも映る。ウソのないサバイバル術は、一般人が真似したらロクなことにならないけど、ブラピなら“絶対なんとかなる”という信頼感がある。道具を使いこなす姿もカッコよく、男心をくすぐります」(前田氏、以下同)

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映画『ハート・オブ・ビースト』より

帰還兵同士、ジェームズ×オーディンにしかない「絆」

 そして、②ジェームズ×オーディン。プロダクションノートには、《表面的には、『ハート・オブ・ビースト』はサバイバル映画だ。同時に、ジェームズとオーディンのラブストーリーでもある》とある。

「この作品は、単純な主人とペットの話ではなく、同じ戦争トラウマを抱えた“2人の帰還兵”の話なんですよね。戦争に行った兵士たちが帰還後に抱えるPTSDは、これまでにもさまざまな作品で取り上げられてきましたが、本作では元軍用犬・オーディンが苦しむ心の傷にも目が向けられる。犬も人間と同じように、過酷な経験をすれば悪夢を見るということを示すことで、言語こそ同一でないものの、人間と獣の間にも通い合う何かがあることを感じさせる」

 作中ではたびたび、“2人”が戦地で経験した出来事がフラッシュバックする。オーディンは登場時から3本足(1本は義足)であり、作中で、その傷は戦争によって負ったことが示唆される。

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映画『ハート・オブ・ビースト』より

 軍用犬という獣を恐ろしい死地に引きずり込み、PTSDを負わせたのは他ならぬ人間だ。しかし今度は、かつて人間が戦場でオーディンに与えた理不尽な恐怖を、人間であるジェームズが、大自然に生きる獣たちを前に味わうことになる。それでも“2人”は、命懸けで一歩ずつ前に進む。たとえばジェームズは、オーディンを助けようとして自分が急流に落ちてしまうが、決してオーディンのせいにはしないし、オーディンはオーディンでジェームズを救おうと懸命だ。そうした姿は一心同体でもある。

 これでもかというほど不運で過酷なことが続いてもなお、「生きる」のを諦めないジェームズ。戦闘を生き延びても、平時に“自分は何者なのか”がわからなくなっていたジェームズにとって、自身が生きる最大の動機であり原動力は、「オーディンを安全な場所まで連れていくこと」だった。

 そのひたむきな姿が、観客の胸を打つ。

 ハート・オブ・ビースト。「ビースト(獣)」は、犬のオーディンだけでなく、獣のようにサバイバル心をもつジェームズをも指す、ダブルミーニングだ。監督はこのタイトルに、両者の「心(ハート)」についての物語だという想いを込めた。

《30年間、ジェームズが知っていたのは戦争だけだった。でも戦争は、必ずしも軍事行動のことだけじゃない。誰だって自分の人生の中で、それぞれの苦難を抱えている。だからこれは、オーディンの心、ジェームズの心、そして二人が生き抜こうとしている環境の鼓動する心についての物語なんだ》(プロダクションノートより)

「“2人”はこのサバイバルを通じて、次第に対等な存在になっていきます。ジェームズは飛行機を失い、テントを失い、武器を失い、最後に手元にはナイフとコンパス、地図ぐらいしか残らない。さらに、激流に巻き込まれて腕を折り、オーディンと同じく『3本』になります。つまり、肉体的にも“対等”になる。共通の境遇に置かれた両者が対等な存在として描かれることで、人間は犬を救うだけじゃなく、『救われる』側でもあることが強調され、深く心に響きます」

エンドロール直前のテロップには疑問も

 全体のストーリーについては、遥か上空から落下したオーディンが生きていたり、野生のクマがオーディンの遠吠えだけで追い返されたりするなど、フィクションならではといわんばかりの“都合のいい”、言い換えれば観客を安堵させるような展開も挟まれる。オーディンが無事に生き残る画は救いとなるが、前田氏は、「エンドロール直前のテロップは不要だった」と首をかしげる。

「最後の最後で、“軍用犬は何千人もの兵士を救った”という趣旨のテロップが出るんですが、急に現実に引き戻され、一気に興ざめしてしまいます。軍隊としてのプライドでしょうけど、そこを美談にしちゃダメですよね。そもそも犬は志願していないわけですから。せっかく対等に関係値を描いていたのに、あそこで萎えた人もいるのでは」

 そうしたツッコミは残しつつも、前田氏は「“ご都合”を吹っ飛ばすほどに、オーディンとの絆は感動的。全体としての出来はよく、犬好きなら、たまらないでしょう」と、愛犬家としても高評価。ブラピはいう。「この旅で大きな苦難に遭遇する。でも、二人を戦い続け、前に進ませるのは、その絆なんだ」(プロダクションノートより)

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映画『ハート・オブ・ビースト』より

塚本晋也監督のリアルな「加害体験」

(取材・文=町田シブヤ)

『ハート・オブ・ビースト』
監督:デヴィッド・エアー
脚本:キャメロン・アレクサンダー
出演:ブラッド・ピット、J・K・シモンズ、アンナ・ラム
配給:東和ピクチャーズ・東宝
©2026 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
9月25日(金)全世界同時公開
公式HP:https://heart-of-the-beast.jp/ 

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2026/10/21 22:00