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『おむすび』第62回 大ジョッキを空ける橋本環奈の飲みっぷり! そのグロテスクなメタ視点

橋本環奈(写真:サイゾー)
橋本環奈(写真:サイゾー)

 いや、あのねえ、いきなり本題からいきますけど、演出をミスってるんですよ。野球しかやってこなかった人間が肩を壊して、行き場を失って「別の人間になりたい」と言って、ギャル男になる。

 ここまで大胆に吹っ切れた行動をするのであれば、メンタル的にも吹っ切れてなきゃおかしいわけです。

 翔也(佐野勇斗)の、あの顔があったでしょう。高校でドラフトに漏れたときに「書き換えればいいべ!」と言った顔、神戸に来たばかりの太極軒で「結婚すっぺ!」って言った顔。あの顔で、「俺もギャルになったっぺ!」とか言わせればいいんです。

 当然、結(橋本環奈)は「はぁ?」というリアクションをするでしょう。

「どした、結? なかなか似合うっぺ?」
「ブリーチっていうのけ? 初めてやったけどヒリヒリするっぺな!」
「ほら、パラパラも覚えたっぺ! 輝きだしたっぺ! 僕らを誰がっぺ!」
「アゲーっぺ! アゲーっぺ!」
「プリクラぺ! プリクラ撮るぺ!」

 そういう翔也に対してなら、結の「ギャルなめんな!」もクリティカルヒットするわけです。

「大っ嫌い! もう本当に別れる!」

 この一連のシークエンスでやりたかったのは、そういうことだったんじゃないかしらね。翔也が悩みの最中にいるなら「ギャル男になる」という行動が唐突すぎるし、悩みの最中にいる人間を怒鳴りつける結の態度にも共感できない。

 NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第62回、振り返りましょう。

四ツ木翔也を考える

 今回、四ツ木翔也という男がギャル男になるに至った経緯を振り返ってみましょう。

 野球部に退部届を提出し、フルタイムで働く総務部員となった翔也。最初に与えられた仕事はDMの封入作業でした。「これ全部ですか?」。数千枚はありそうですが、手折りで作業しろと冷たいなるみ姉さん。星河電器にはぜひとも自動紙折り機の導入をおすすめしたいところです。ドレスインというメーカーの製品が有名らしいよ。

 お昼休み、結と顔を合わせるのも気まずい翔也は隠れるようにパンをかじっています。午後も野球部仕込みの集中力で封入作業を終えた翔也に、なるみ姉さんは「早よパソコン覚えな」とテキストを持ってきてくれます。翔也は社会人3年目で、入社当時からなるみ姉さんの下でパートタイムで働いていたはずなんですが、今までデスクで何してたのかな。

 その後、休日なのか、昼間から町をうろつく翔也に、町ゆく人が声をかけてきます。どこに行っても「ヨンさま」「ヨンさま」、いったいこの人たちはどこから湧いてきたんでしょう。全国大会で大活躍していたころは普通に結とデートしていたのに、ケガで引退が決まったとたん、みんなして声をかけてくる。

 ここも軽く演出ミスってるんですよねえ。実際に、そこらへん歩いてる全員が翔也を振り向くんです。ここで表現したかったのはたぶん、何人かに声をかけられて、まるでこの街にいる全員が自分を振り向いているように感じられる、そういう強迫観念に苛まれているというシーンだと思うんだけど、全然、そう演出できてない。逆に、マジで街にいる全員がヨンを知ってて、実際にヨンを振り返っているという事実関係を描くシーンだとしたら、そんなバカな話があるかってことなんだけど、『おむすび』はそんなバカな話があり得なくもないのが悩ましいところです。

 そんなこんなで「別の人間になりたい」からの「ギャル男」なあ。

 四ツ木翔也には、友達がいないんですよね。結以外の誰かと相談をした形跡がひとつもない。高校時代からバッテリーを組んでいた人は、夜中の室内練習場で「肩痛いだろ」と言ってきてくれたけど、翔也が野球をやめることになったときにも出てこない。

 全部、ひとりで決めてる。肩が痛いけど病院に行かない。手術とリハビリをすれば再起の可能性はゼロじゃないけど、野球はやめる。ギャル男になる。全部、この人はひとりで決めている。誰とも相談しないから、その決断に至る経緯がわからない。何を考えている人なのか、どういう人なのかがわからないんです。

 結や米田家の周辺人物については他人との関係性があるので、「こう言ってた人がそういう行動をするのはおかしいだろ」という矛盾も指摘できるのですが、翔也に関しては矛盾すら発生していないんですよね。前提がない。すべての行動が突発的に不可解。

 今回のギャル男の件で、ちょっともう取り戻せないところまで行ってしまった気がします。ずっと、このドラマの作り手が翔也という人物のキャラクター造形に真剣に取り組んでいないことは垣間見えていましたが、なんか、もうダメだと思う。冒頭で、あのシーンを成立させるには翔也を吹っ切れさせないとダメだと書いたけれども、どう考えても吹っ切れるところまでたどり着けたようには思えないわ。

 そう考えると、ずっと結が翔也の通訳として機能していたのかもしれない。私たちは、結というフィルターを通してしか翔也という人物を見ていなかった。だから今回、結が翔也を突き放したことで、まったくもって手の届かない人物になってしまったような気がします。別にいいけどな。どうせ復縁するだろうし。

あいかわらずグロテスクなメタ視点

 ランチ合コンで美味そうに大ジョッキを飲み干す結。物語にはまったく必要のない場面です。橋本環奈は酒豪で、飲みっぷりがいい。そういうドラマの外を意識した演出でしょう。

 でもね、物語を見ている人は、シーンのひとつひとつに意味を考えるわけです。

 そもそもこのランチ合コンに結が参加した動機も不明瞭であるうえに、初対面の男の前で酒をガブ飲みすることで、さらに何を考えているのかわからなくなってしまう。

 酒豪の環奈、かわいい環奈、一緒に飲みたい環奈、そういうものを撮りたいというスタッフ側のメタなエゴがドラマのノイズになっている。こういうの、マジでやめたほうがいいと思うよ。社会人としての品性を疑います。

 それと、翔也に腹を立てた結がおむすびを作ってやけ食いするシーンね、『おむすび』ってタイトルのドラマでおむすびを八つ当たりの道具にするって、どういう了見なのかね。これも物語の外、ドラマのタイトルとからめたシャレっ気のつもりなんだろうけど、本当に気味が悪い。

 ほかにも、米田家の呪いはなぜ翔也にだけ発動しないんだとか、好きなことを貫くのがギャルなら初対面の合コン相手に何を言われようと栄養士の道を貫けよとか、いろいろ言いたいことはあるんだけど、うーん、なんだろう、今日は過去イチでレビューがまとまらないです。もはやツッコミどころがどうこうではなく、今日は骨組みから瓦解した感じがするんだよな。さまざまな大人の思惑が1つのドラマの中で互いを食い合うキメラ。そんな感じ。

 ちょっとリセットで、明日からまた新鮮な気持ちで見たいと思います。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2024/12/24 14:41