米ユタ州がLGBTQ「レインボーフラッグ」禁止に 「プライド月間」前に緊張高まる

学校と地方自治体を含む政府機関で掲げる旗を厳しく制限する法律が、米ユタ州で制定された。性的多様性を象徴する「レインボーフラッグ」の掲揚を禁止するためのもので、他州でも同様の動きが広がっている。州単位での法制化は米国では初めて。米国では6月は、LGBTQ(性的少数者)の権利の向上を訴える「プライド月間」で、各地でパレードなど多くのイベントが開かれる。性的多様性を訴える団体などは多様性に否定的なトランプ政権との対立色を強めており、「レインボーフラッグ」の掲揚禁止は今後、大きな火種になりそうだ。
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学校や公共機関での掲揚認めず 1日あたり500ドルの罰金
ユタ州議会は米国旗、州旗、軍旗など認められた旗以外の学校や公共機関での掲揚を禁止した。3月27日に法制化され、5月7日から施行される。違反した場合は1日あたり500ドルの罰金が科せられる。
学校や公共機関での政治的な行動は避けるべきだとの考えによる法制化だが、実態は性的少数者の象徴である「レインボーフラッグ」の掲揚を禁止することが目的だ。
ユタ州議会の上下両院は保守の共和党が議席を圧倒しており、性的少数者の権利拡大に否定的なトランプ政権の誕生に合わせて州議会が動いた形だ。
ただ、トランプ大統領の政治的キャッチフレーズである「メイク・アメリカ・グレイト・アゲン」の旗も、特定の政治活動にあたるとして掲揚の許可の対象にしていない。
米国の州の場合、法案が議会を通過した後、知事が承認のサインをして初めて法律となる。知事が拒否権を発動すれば、すぐには法制化されない。しかし、今回は知事の署名がないままの異例の法制化となった。
保守系知事、自治体規制は行き過ぎと議会を批判
ユタ州のスペンサー・コックス知事は共和党だが、今回の法制化には批判的だった。議会指導部に宛てた知事の書簡では、学校の教室を政治的に中立にするという趣旨には賛成の意思を示したが、地方自治体を規制するのは行き過ぎだと主張していた。
しかし、議会の圧倒的多数が法案に賛成していることから、拒否権を発動しても、拒否権が覆されることが明らかであるため、拒否権は発動しなかった。このため署名はせずに、法制化を受け入れた。
コックス知事は、旗の掲揚に焦点を絞った法制化では学校などでの政治的中立性は守れないとして、今回の法制化は「レインボーフラッグ」をたたくだけのものだとの考えを暗に示し、議会を批判した。
また、書簡でコックス知事はLGBTQの市民にメッセージを送った。
「最近の立法府は気難しいものだと承知している。政治は時に流血沙汰になることもあり、意見の相違があったことも承知している。皆さんを愛しており、皆さんが州の一員であることを感謝していることを知って欲しい。この言葉が空虚に聞こえることも承知しているが、心からこう話していることを知っておいてもらいたい」
LGBTQの市民に対して最大限、配慮する姿勢を示した背景には、ユタ州の最大都市であるソルトレイクシティがLGBTQに理解のある街として全米に知られていることがある。市の成人人口の4・7%がLGBTQとされ、全米平均を大幅に上回っている。
ソルトレイクシティでは6月の「プライド月間」に、市庁舎に「レインボーフラッグ」を掲げるのが慣例となっている。
市当局は現時点で、州による「レインボーフラッグ」掲揚禁止の法制化についてどう対応するかを明らかにしていないが、州議会が法制化の動きを強めて以来、夜間に市庁舎などを虹色のライトで照らして抗議の意思を表明していた。
「レインボーフラッグ」禁止の法制化は、州と最大都市の新たな対立を生み、州内の分断を加速させてしまった。
映画界に飛び火 「ポルノ奨励」と批判されたサンダンス映画祭は開催地変更
また、この法制化は俳優のロバート・レッドフォードが設立したインディペンデント映画の祭典、サンダンス映画祭も巻き込んだ。
サンダンス映画祭はユタ州のスキーリゾート、パークシティで1978年から毎年1月に開かれている。「世界5大映画祭」1つとされ、映画祭の名前はロバート・レッドフォードが映画『明日に向かって撃て!』(1969年)で演じたサンダンス・キッドに由来している。
2024年は7万2000人以上が来場し、ユタ州への経済効果は1億600万ドル(約154億円)にのぼったが、そのサンダンス映画祭は2027年以降、コロラド州ボルダーで開催されることが決まった。
映画祭側が開催地についての検討をしていた最中に「レインボーフラッグ」掲揚禁止が議会で審議され、映画祭関係者が議会を批判した。これに対し保守派の州議会議員が「ポルノ映画を奨励している」などと映画祭を批判し、州内からの撤退を促すなど、泥仕合になっていた。
ユタ州は結果的に、「レインボーフラッグ」掲揚禁止と引き換えに、世界的な映画祭の開催地としての立場を失い、経済効果を手放してしまった。
ユタ州と同様の法案は、アイダホ州やフロリダ州、アリゾナ州などでも審議されている。6月の「プライド月間」を前に法制化の動きは早まるとみられる。
これに対し、LGBTQの団体などは反発を強めている。ニューヨーク市の今年の「プライド月間」のテーマは「Rise Up :Pride in Protest(立ち上がれ:抗議のプライド)」で対決色が際立っており、今後、大きな火種となりそうだ。
(文=言問通)