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山口組分裂問題がついに終結か―六代目山口組を動かした「連判状」の真相

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六代目山口組・司忍組長(写真:著者提供)

 誰がこの展開を予想できただろうか。2015年に起こった前代未聞の山口組分裂問題。歳月を追うごとに神戸山口組は衰退を強め、ここ数年、「山口組分裂問題は最終局面にある」と業界関係者の間では繰り返し囁かれてきた。しかし、決定的な打開策が見つからないまま、この8月には分裂から10年を迎える。

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 そんな中、突如として業界内を駆け巡ったのが、他団体による「連判状」の存在だった。

「稲川会を中心に他団体が連判状に署名し、それを神戸山口組と池田組に持参して、引退や解散を迫るという噂がありました。実際、そうした動きがあったようですが、ある時期を境に否定的な意見や様々な憶測が錯綜し、結局は立ち消えになったようです」(ヤクザ事情に詳しいライター)

 ただ、今回、ある関係者への取材に成功し、「連判状」について詳細を聞くことができた。重い口を開いたその関係者は、「連判状」という呼称に疑問を呈した。

「ネットなどでは“連判状”と呼ばれていましたが、実際は“要望書”のことだろう。その趣旨は山口組の分裂問題に対するもので、確かに存在していた。ただし、その文面をめぐって異論があった。また、神戸山口組や池田組は、六代目山口組から処分された組長が率いる組織であり、他団体がそうした組織と親睦を深めることはない。それは業界全体の秩序に関わる話だからだ。確かに神戸山口組が発足した当初は、彼らとの関係を支持した団体もありましたが、時間の経過とともに見直され、現在では表立って関係を持つ組織はなくなった。分裂問題がそれだけ業界全体に影響を及ぼしたということだろう」

 実際、この問題はヤクザ業界にとどまらず、大手メディアも連日報じ続けた。あるテレビ関係者は、当時の状況を振り返る。

「人間同士のトラブルほど関心を集めるものはありません。暴力を肯定するわけではないですが、“山口組という大組織のお家騒動”として主婦層の関心も集めました。そのため、一部の局では抗争事件だけでなく、組員の移籍や練り歩きまで、昼間のワイドショーで取り上げていました。つまり、それだけ数字が取れていたんです。そんな熱気が冷め始めた頃に登場し、注目を集めたのが“第三の山口組”ともいえる任俠山口組(発足当初は任俠団体山口組、現・絆會)でした」

 神戸山口組から離脱して誕生した絆會は、2度の記者会見を行い、その様子もマスメディアを通じて報じられた。

 「その間も六代目山口組サイドは、離脱組織に対して着実に武力を行使していました。ヤクザの本質は、何といっても暴力です。ネット上で論争の“勝ち負け”とは違い、暴力の量、つまり“力”が物を言う世界です。六代目山口組は、アメとムチを使い分けながら離脱組織を追い詰め、衰退させていったのです」(前出・ライター)

 それでも神戸山口組の井上邦雄組長や池田組の池田孝志組長は、引退や解散を宣言していない。そのため、他団体が団結し、連判状をもとに両組長に引退と解散を求めるのではないかという噂が立った。しかし、そこには絆會や二代目宅見組の名前がなかった。前出の関係者はその理由をこう述べる。

「六代目山口組は、絆會をヤクザ組織とは認めていないとされている。神戸山口組や池田組についても同様だが、絆會に対しては特にその傾向が強い。一方、二代目宅見組は、組員の大半が六代目山口組に移籍しており、活動実態もほぼ皆無と判断されているのだろう。要望書には、2つの趣旨があったと考えられている。ひとつは、噂になっていた通り、井上組長と池田組長に引退と解散を求めるもの。もうひとつは、六代目山口組に対し、分裂問題を早期に終結してほしいという要望。このうち、要望書の文面については、他団体間でも意見が分かれたのだろう。山口組の動向はヤクザ業界だけでなく、当局の対応にも影響を及ぼす。だからこそ、分裂問題の解消を望むという点では、意見が一致していたのではないか。ただし、他団体はそれぞれ独立した方針で動いており、組織の事情や方針も異なる。とはいえ、六代目山口組が処分した井上組長や池田組長が率いる組織がヤクザ社会から引退し、解散することが、業界秩序を保つ上で必要だという認識は変わらないのではないか」

 つまりは、分裂問題の行方は、井上組長や池田組長の意向がカギを握っている――多くの人がそう思っていたわけだが、ここに来て、事態は思わぬ方向に動き出すことになった。

六代目山口組最高幹部らが抗争終結誓約書を提出

 それは4月6日に突如、各メディアが報じることになった。同日、六代目山口組最高幹部らが兵庫県警を訪れ、神戸山口組との抗争を終結させるという誓約書を提出したのだ。

 これは神戸山口組との間で示し合わせた「和解」ではなく、六代目山口組側による一方的な抗争終結の宣言であるとされる。

 六代目山口組はこれまで、処分を下した組長らによって結成された神戸山口組を、同じヤクザ組織として認めてこなかった。その姿勢は一貫しており、「抗争」という認識さえ持たず、あくまで「処分者が作った組織を実力行使で排除する」という考えだったと見られている。

 そのため、過去の「大阪戦争」(1975年〜1978年、松田組との抗争)のように、一方的に抗争終結を宣言することはないだろうという見方も根強かった。だが、分裂から10年という節目を前に、六代目山口組は突如として神戸山口組との対立に終止符を打った。その背景には一体、何があったのか。ヤクザ業界に詳しい専門家はこのように話す。

「業界内で話題になっていた“連判状”、正式には他団体から六代目山口組に対する“要望書”の存在が影響したと考えられます。噂では“神戸山口組や池田組に対して出されたもの”という見方もありましたが、実際には六代目山口組に向けて、分裂問題を収束させるよう要望したものだったのです。その要望を受ける形で、六代目山口組は抗争の終結を当局に誓約したのだと思われます。どんなに一方的であっても、六代目山口組が神戸山口組に対しての攻勢を強めれば、当然他団体にも締め付けが強まり、ヤクザ全体が厳しい状況に置かれる。それを避けるための判断だったのでしょう。要望書には、日本全国の多くの団体が連名で署名したとも聞いています」

 つまり、六代目山口組は神戸山口組をヤクザ組織としては認めない立場を崩していないものの、業界全体の負担を減らすために、抗争終結を選び、その誓約書を当局へと提出したということになる。さらに、4月8日には全国の六代目山口組直系組長が一堂に会する会合が予定されているという。

「業界関係者の間では、その話題で持ちきりです。人事が大きく動くのではないか。もしくは、それ以上の動きがあるのではないか、とさまざまな憶測も飛び交っている状態です。10年続いた分裂問題に終止符が打たれたのです。何らかの動きがあるとみて良いのではないでしょうか」(前出・専門家)

 一方の神戸山口組サイドは今後、どのような対応を見せていくのだろうか。ある業界関係者は意に介さないとでも言うかのように、次のように取材に応じた。

「六代目山口組が抗争終結を宣言したところで、神戸山口組は特に気にしていないと思います。ここ数年は一方的に攻撃される側で、報復に出る動きもありませんでしたし、公式な行事を行っているという話もまったく聞こえてきません。ただ、神戸側としても“特定抗争指定暴力団”の指定を外したいという思いはあるでしょう。今後、神戸山口組も何らかの誓約書を提出する可能性はあります。ただし、注目されるのは、今後の六代目山口組がどのような体制を築いていくのかという点です」

 4月7日夜の時点で、六代目山口組の最高幹部人事や傘下団体の代替わりなどが取り沙汰されているという。2015年8月、突如として起きた六代目山口組の分裂は、10年の歳月を経て、幕を下ろそうとしている。

(文=山口組問題特別取材班)

山口組分裂問題の鍵を握る男
分裂問題の転機となった「決断」

山口組問題特別取材班

ヤクザ業界をフィールドとする作家、ライターおよび編集者による取材チーム。2015年結成。同年に勃発した六代目山口組分裂騒動以降、同問題を長期的に取材してきた。テレビや新聞などでは扱いにくいヤクザ組織の内部情報にも精通。共著に 『相剋 山口組分裂・激動の365日』がある。

山口組問題特別取材班
最終更新:2025/04/08 17:00