「みんなで大家さん」の“グループ商品”に5000万円を投資するも…専門家が語る「ファンドの問題点」

連日インターネットを騒がせている不動産投資ファンド「みんなで大家さん」の経営危機と集団提訴。Yahoo!ニュースのコメント欄には、「老後資金を返せ」と怒る投資家たちの声があふれ、世間は「悪徳会社vs被害者」という構図一色だ。
しかし、感情的なバッシングの裏で、“重要な視点”が抜け落ちている。果たして、「集団提訴」で本当に投資家は救われるのだろうか……?
この問題の真のカラクリを解き明かすポイントは、「みんなで大家さん」だけでなく、同グループが展開する他の商品との比較にあった。
グループ商品「みんなで農家さん」とは?
少額から始められる不動産クラウドファンディングとして、テレビCMなどでも広く認知されてきた「みんなで大家さん」。
「シリーズ成田」をはじめ複数の商品があるが、同じグループの息がかかった「みんなで農家さん」というグループ商品が存在することは、あまり知られていない。
実は、このグループ商品との比較こそが、「みんなで大家さん」が抱える本質的な問題を浮き彫りにする。その問題の深刻さを指摘するのが、「みんなで農家さん」に5000万円を投じた投資家から相談を受けた経験を持つ、経営コンサルタントの高橋健一朗氏だ。
相談者は当初、農業という社会的意義と高い想定利回りに惹かれて同商品に投資したが、その後に「みんなで大家さん」を巡る騒動が表面化。不安を感じた相談者に対し、高橋氏はこうアドバイスしたという。
「本来であれば、事業が順調で配当が出ている段階で、自ら手を引く理由はありません。しかし、同社の事業進捗があまりにも不透明だったこと、そして何より彼らが提示する利益構造に決定的な矛盾を感じ取れたからこそ、『何かしらの対策を講じるよう』に伝えたのです」(以下、「」内コメントは高橋氏)
高橋氏の元へ相談が寄せられた「みんなで農家さん」は、投資家からの出資金で苗を用意して植え、収穫されたものが売れた時に収益が発生し、分配される。「種をまき、育て、売った利益を分ける」という、極めて健全で分かりやすい商売の形だ。
しかし、問題は「大家さん」のほうだ。
「両者を比較すると、『みんなで大家さん』の構造が抱える危うさが浮き彫りになります。一見似たようなアグリビジネスや不動産投資に見えますが、資金のロジックには大きな違いがあるのです」
その致命的な違いとは異常な資金繰りの実態だ。報道によれば、「みんなで大家さん」が集めた資金は2000億円規模にのぼり、約7%前後という高水準の想定利回りをうたっていた。
「利回り7%というと、銀行預金の数千倍もの利益を約束していることになります。2000億円を集めているなら、年間で140億円もの配当を投資家に支払い続けなければなりません。ここで考えてほしいのは、『その140億円を稼ぎ出す事業が、今この瞬間に動いているのか?』という点です」
高橋氏は、この構造の歪さを次のように指摘する。
「事業がまだ本格的に立ち上がっていない段階から、年間140億円規模もの利息を投資家に支払い続けている……。冷静に考えれば、これは異常なことですよね」
通常の事業であれば、収益ゼロの状態で配当を出すことなどあり得ない。企業は自ら稼いだ利益から配当を出すのが大原則だからだ。
「つまり、新規の投資家から集めた出資金をそのままスライドさせ、既存の投資家への利息支払いに充てている自転車操業の疑いが極めて強いのです。これは、新しい穴を掘って古い穴を埋めるようなもので、一度止まれば全てが崩壊します」
こうした資金繰りの疑念に加え、高橋氏が問題視しているのが「事業計画の遅れ」に関する不透明さだ。特に「シリーズ成田」については、「造成工事の写真こそあるものの、全体工事の10%にも満たない状況が2年も3年も続いている」と指摘する。
「不思議なことに、どのメディアの記事を読んでも『なぜ予定からズルズルと事業が延びたのか?』という根本的な理由に切り込んでいません。例えば、工事の遅れであれば挽回可能ですが、もし土地の権利関係や行政との調整が根底から行き詰まっているのだとしたら、その事業は完成しない絵に描いた餅にすぎません」
理由の分からない遅延は、単なるスケジュールの遅れではなく、事業モデルそのものが根本的に破綻していることを示している。
勝訴しても確実に潤うのは「弁護士」だけ……
現在、怒る投資家たちによる集団提訴の準備が進み、世間は「正義の鉄槌を下せ」と喝采を送っている。
事業モデルが破綻している以上、騙されたと感じた投資家が怒るのも無理はない。しかし、だからといって集団訴訟に踏み切るのは早計だと高橋氏は指摘する。
「感情的に『カネを返せ』と訴えを起こすのは投資家の権利ですが、現実問題として、たとえ勝訴して差し押さえなどの強硬手段に出ても、満足のいく回収にはなりません」(同)
その根拠として、同氏は具体的なシミュレーションを示す。
「裁判で勝つことと、実際に現金を手にすることは別問題です。会社側に返済する原資が残っていなければ、いくら勝訴判決が出てもお金は戻ってきません。仮に1口100万円を投資したとして、残存資産から戻ってくるのはせいぜい2、30万円程度でしょう。さらにそこから弁護士が回収額の数%を報酬として取るので、投資家の手元に残る金額はさらに減ってしまいます」
したがって、集団訴訟という一大イベントで、皮肉にも確実に儲かるのは弁護士だけなのだ。
「投資家が訴訟で事業の息の根を止めれば、運営会社は完全に身動きが取れなくなります。結果として、投資家も運営側も共倒れになる『ルーズルーズ(勝者なき敗北)』の状況に陥るだけです」
さらに恐ろしいのは、「みんなで大家さん」単体の崩壊にとどまらないリスクである。
「ひとつのシリーズで大々的な訴訟騒ぎが起きれば、当然ながらほかシリーズの投資家にも『こちらも危ないのでは?』という強い不安が生じます。これが『取り付け騒ぎ』の引き金となり、まだ動いている可能性のあった事業までが資金不足で強制停止させられてしまうのです」
それでは、この絶望的な状況の中で、投資家はどう立ち回るべきだったのだろうか?
「非常に酷な言い方になりますが、ファンドが実質的に破綻状態にある場合、裁判で争うよりも先に正規の清算手続きや破産手続きに入らせることが、結果的に投資家にとって最善の選択肢となるケースがあります。感情に任せた提訴という名のパフォーマンスに惑わされず、いかに冷静に資産の分配を受けるかという、経営学的・実務的な視点が必要なのです」
最善策は提訴ではなく“損切り”
この事例から学ぶべきなのは、単に「怪しい商品に引っかからないようにしよう」という教訓だけではない。そもそも、投資は「自己責任」が原則である。
「配当の源泉はどこか?」「事業は本当に進んでいるか?」――。こうした当然の確認を怠り、高利回りを掲げる甘い誘惑に乗った責任も、投資家は等しく負わねばならない。
事業投資である以上、その事業が破綻するリスクまでをあらかじめ織り込んで投資すべきなのだ。
そのうえで違和感があれば即座に引く。あるいは事前に撤退ラインを決めておく。こうした冷静な判断力が、第二の「みんな大家さん」のような投資商品から身を守るための唯一の防衛策なのだ。
(取材・文=西脇章太:にげば企画)
