「3000万円あったのに……」元人気美容師経営者が転落 全財産を失った後の“税金3000万円”

クレジットカードの毎月の返済額を一定にできる「リボルビング払い」。一見すると便利な仕組みだが、その裏では利息が膨らみ、返済に苦しむケースも少なくない。
近年では、買い物や支払いをスナック感覚でリボ払いへ変更する若者も増えている。
こうした選択をした人々を「愚かだ」と断じるのは容易だ。しかし、その背景には、避けがたい事情やカード会社の巧妙な仕組み、さらには他人につけ込まれているケースも存在する。
なぜ人はリボ払いを選んでしまうのか? 今回は番外編として、リボ払いと同じく、毎月一定額の返済に苦しむ男性のケースを取り上げる。
「東京に行きたい」から始まった美容師人生
3000万円もの借金を抱え、毎月30万円を返済し続けている男性がいる。
それが、美容師として働きながら、空いた時間には現場仕事もこなす内山浩人さん(仮名・47歳)だ。その借金を背負うまでには、リボ払いの事例とはまったく異なる経緯があった。なぜ、これほど大きな借金を背負うことになったのか。
新潟県出身の内山さんが美容師を志したのは、高校生の頃だった。
「父親は土木作業員をやっていました。そのため、子どもの頃から『手に職をつけたほうがいいぞ』と言われて育ってきたんです。僕自身も、なんとなく将来は父親と同じように現場仕事をするのかなと思っていました」
しかし、いざ卒業後の進路を決めるとなると、どうしても覚悟を決めきれなかった。
「学校を卒業したら、そのまま親と同じように毎日働く生活が始まるのかと思うと、嫌な気持ちになってしまったんです。そのうち、『東京に行きたい』という気持ちがどんどん強くなっていきました」
そんな時、書店で偶然手に取ったファッション誌の美容師特集に目を奪われた。誌面に広がっていたのは、地元とはまったく違う、華やかな東京の世界だった。
内山さんは雑誌を両親に見せながら、「いま美容師ブームが来ている。手に職をつけるならこれしかない」と説得した。
「親には、そこまで強く反対されませんでした。地元で現場作業員として働くより、東京で夢を追う息子を見てみたいという気持ちもあったんだと思います」
こうして東京の美容専門学校へ進学。卒業後は、都内の有名美容室でアシスタントとして働き始めた。
青山の人気美容師から6店舗の経営者へ
当時は、美容師によるカットバトル番組『シザーズリーグ』(フジテレビ系)などをきっかけに「カリスマ美容師」が脚光を浴び、木村拓哉が腕利き美容師役で主演したドラマ『Beautiful Life 〜ふたりでいた日々〜』(TBS系)などの影響もあって、美容師という職業そのものが華やかなイメージで語られていた時代だった。
「本当に美容師が注目されていた時代でした。僕もその流れに乗って、青山の有名店で10年くらい働きました」
人懐っこい性格と持ち前の軽快なトークもあり、内山さんは次々と指名客を獲得。プライベートでは合コンで知り合った女性と結婚し、子どもにも恵まれた。
順調に見えた美容師人生だったが、次第に独立への思いが強くなっていった。
「当時勤めていた店には、『育ててもらった恩があるから、スタイリストになってからも何年か働いて店に返していく』という空気があったんです。僕もオーナーにはかなりかわいがってもらっていました」
ただ、仕事は激務だったうえ、スタイリストになって指名客が増えても、給料はなかなか上がらない。
「一方で、自分でもかなり指名客を抱えるようになっていたので、『これだけお客さんがいるなら、自分で店をやってもいいんじゃないか』と思うようになったんです」
そんな頃、店のトップスタイリストだった先輩が退職することになった。本来なら、その後を継ぐ形で内山さんが店のトップスタイリストになるはずだった。
ところが、その先輩から思わぬ誘いを受ける。
「突然、『店を出すから一緒にやらないか』と誘われたんです。諸経費は二人で折半して、それぞれ自分の売り上げを受け取るという話でした。計算してみると、それまでの倍くらいの収入になる。ちょうど独立したいと思っていた時期でもあったので、迷わず『やります』と答えました」
オーナーには不義理を働くことになったが、内山さんも世話になった店を退職。こうして始めた新しい美容室は、予想以上に順調だった。
せっかくなら規模を広げようと、mixiなどを使って他店の人気美容師をスカウト。基本給や歩合を高めに設定し、腕のある美容師を次々と集めていった。
「そういう人たちは、すでに自分のお客さんをたくさん持っています。その人たちが店に移ってくることで、お客さんも一緒についてきて、店の知名度も上がっていきました。やがて予約が取れないくらい繁盛するようになったので、『これなら店舗を増やしてもいける』と思って、新しい店を次々と出していったんです」
気づけば、経営する美容室は6店舗にまで拡大。内山さん自身も、次第に美容師として現場に立つより、人事や店舗経営に時間を割くことが増えていった。
「自分を指名してくれるお客さんだけは引き続き僕が担当して、その売り上げは自分の収入にしていました。それとは別に、店全体で出た利益を先輩と折半する形だったので、かなり収入は増えていましたね」
収入にも余裕が生まれ、生活は一気に派手になった。夜になればキャバクラに通い、アイドルの追っかけにも金を使った。
店長の不正が発覚も店舗売却で手にした3000万円
そんな中、内山さんは一部の店舗だけ売り上げが不自然に低いことに気づいた。
「何店舗か、妙に売り上げが少ない店があったんです。維持費を払えるかどうかギリギリの状態で、『さすがにおかしいな』と思って調べることにしました」
予約状況を確認すると、店側の都合でキャンセル扱いになっている予約がいくつも見つかった。
「ネット上ではキャンセルになっているのに、実際にはお客さんの髪を切っていたんです。つまり、その分の売り上げが店の数字に反映されていなかった。そこで、店長を問い詰めたところ、売り上げの一部を抜いていたことが分かりました」
こうした不正を長く見抜けなかった背景には、自身の経営姿勢にも問題があったと、内山さんは振り返る。
「僕自身、遊びすぎていて、各店舗の店長ときちんとコミュニケーションを取れていませんでした。完全に任せきりだったんです」
とはいえ、その店舗は店長個人の顧客によって支えられている部分も大きかった。店長を解雇すれば、多くの顧客が離れ、店舗そのものが立ち行かなくなる可能性もある。
そこで内山さんは共同経営者の先輩と相談し、問題が発覚した店舗については、それまでに生じた損失なども踏まえたうえで、店長側に買い取ってもらうことにしたという。
「店を売ったお金を先輩と二人で分けて、僕の取り分は2000万円くらいになりました。従業員に裏切られたことはショックでしたが、一方で、まとまったお金が一気に入ってきたので、正直かなり浮かれていましたね」
その後、内山さんは多店舗経営そのものにも疲れを感じるようになった。そこで一店舗だけを手元に残し、ほかの店舗も共同経営者だった先輩に買い取ってもらうことにした。
「そうやって店を整理していった結果、最終的に僕の手元には3000万円くらい残りました」
ところが、ちょうどその頃、私生活では妻との離婚話が進んでいた。原因は内山さん自身の浮気だった。
話し合いの末、養育費などを継続的に支払うのではなく、まとまった金銭を一括で支払うことになったという。
「当時は手元にちょうど3000万円くらいあったので、『これで全部払ってしまえばいい』くらいに考えて、一括で支払ったんです。その後のことまでは、深く考えていませんでした」
しかし、約1年後、内山さんのもとに税務署から連絡が入る。そこで初めて、想定していなかった税金の問題に直面したという。
「僕は『離婚に伴って払ったお金なんだから、税金のことは特に問題ないだろう』くらいにしか考えていなかったんです。だから、税務署から連絡が来た時は驚きました。まさか、あとになって税金の問題が出てくるとは思っていませんでした」
3000万円を使い切った後に「税金3000万円」
さらに、店舗の売却などで得た所得についても、申告や納税をめぐる問題が発覚したという。
「過去に店を売って得た利益についても、税金を払わなければならないことが分かりました。追徴分も含めるとかなりの金額になって、最終的には3000万円近くを支払うことになったんです」
皮肉にも、その金額は店舗を整理した際に内山さんの手元に残った金額とほぼ同じだった。しかし、その3000万円はすでに離婚時の支払いでほとんどなくなっていた。
「しかも、その頃には僕自身、ほとんどお客さんの髪を切らなくなっていたので、美容師としての個人収入もかなり減っていました。店についても、売り上げの不正が発覚してから従業員の給与を手厚くしていたので、自分の取り分はそれほど多くなかったんです。お金が必要な時には、知り合いの現場仕事を手伝わせてもらっていました。そんな状態だったので、当然、3000万円なんて払えるはずがありませんでした」
税金の支払いをどうするか悩んだ末、内山さんは銀行に相談した。
「以前からの借り入れはきちんと返済していたので、銀行から3000万円を借りることができました。毎月30万円を8年間かけて返す契約です」
こうして、かつて手元に3000万円を持っていた内山さんは、一転して3000万円の借金を背負うことになった。
「今は友達の家を転々として、住まわせてもらっています。家賃がかからないので、それでなんとか生活できている感じですね。自己破産を考えたこともあります。でも、そうすると美容室にも影響が出るかもしれない。それだけは避けたいので、地道に返していくしかありません。もっと若い頃から税金や経営についてきちんと勉強していれば、こんなことにはならなかったのかなと思います」
返済を終えるまで、あと3年ほど。かつては青山の人気美容師として多くの指名客を抱え、6店舗を経営し、夜ごと遊び歩いていた内山さん。いまは月30万円の返済のため、美容室と現場仕事を掛け持ちする日々を送っている。
「若い頃は、お金なんてまた稼げばいいと思っていました。でも、年齢を重ねてから毎月30万円を返し続けるのは、本当にしんどいですよ。自分の家もなくて、友達のところを転々とする生活も、だんだんきつくなってきました」
リボ払いの事例とはまったく異なる経緯とはいえ、毎月一定額を払い続け、その負担が何年にもわたって生活を圧迫するという点では、長期返済の重さに通じるものがある。
内山さんを3000万円の借金へと追い込んだのは、一度の大きな失敗ではなかった。経営を人任せにしたこと、収入が増えて生活が派手になったこと、税金について十分に考えないまま手元の資金を使い切ったこと……。そうした判断が積み重なった先に、現在の返済生活がある。
「お金なんて、また稼げばいい」
かつてそう考えていた内山さんは、その言葉の甘さと重さをいま、毎月30万円ずつ返しながら実感している。
(取材・文=山崎尚哉)
