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一ノ瀬ワタルが𠮷田恵輔監督と30分ガチンコトーク!

一ノ瀬ワタル×𠮷田監督『四月の余白』対談 俺らが「ドロップアウト」しなかった理由

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『四月の余白』に主演した一ノ瀬ワタル(画像右)と𠮷田恵輔監督(写真:森川英里)

 元ヤンキーの力士が、角界で波乱を巻き起こすNetflixドラマ『サンクチュアリ -聖域-』(2023年)が話題となった俳優の一ノ瀬ワタル。プロキックボクサーというキャリアを持ちながら、愛嬌のある表情と体を張った演技で注目を集めている。

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 実在の事件にインスパイアされた『空白』(2021年)などで知られる𠮷田恵輔監督の新作『四月の余白』では、非行少年たちが過ごす更生施設を営む元半グレの西健吾を演じている。学校や家庭で手に負えない問題児の更生は可能か? というシリアスなテーマを扱っており、一ノ瀬が問題児たちに全力でぶつかる姿に魅了される作品だ。

 初タッグとは思えないほど、息の合った𠮷田監督と一ノ瀬が『四月の余白』の舞台裏とドロップアウトする寸前で踏みとどまったそれぞれの体験を打ち明けた。

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一ノ瀬ワタルが映画初主演を飾った『四月の余白』より

𠮷田監督をヤクザから守ってくれたおっちゃん

――シリアスな社会派ドラマですが、一ノ瀬さんが主演したことで人間味あふれるドラマになっていますね。

一ノ瀬ワタル(以下、一ノ瀬)ありがとうございます。うれしいです。

𠮷田恵輔(以下、𠮷田) 一ノ瀬さんは以前も、僕の作品『愛しのアイリーン』(2018年)のオーディションを受けてくれたんです。怖いヤクザを演じてくれる人を探していたんだけど、一ノ瀬さんはかわいいんですよ。なので、そのときはお断りしました(笑)。

一ノ瀬 今回、𠮷田監督の作品に出演できて、ありがたかったです。楽しい現場でした。

――『四月の余白』は非行少年たちを更生させようとする西が主人公ですが、実在のモデルがいたそうですね?

𠮷田 モデルって言っていいのかな。まぁ、僕が中学生の頃に近所におっちゃんがいたんです。おじいちゃんに近い、おっちゃん。その頃の僕は、ヤンチャしていた時期だったんですが、そのおっちゃんに捕まって、説教されながら飯を食わせてもらったり、仲間と一緒におっちゃんの部屋でエロビデオなど見ながら過ごしていたんです。結局、そのおっちゃんは3年後に事件に巻き込まれて、刺されて死んじゃったんですけどね。

――おっちゃん自身が若者たちを更生させることで、自分も真人間になろうとしていた?

𠮷田 もともとヤクザで、人を殺して刑務所に入って、団地でひとり暮らししていたんですけど、トラブルに巻き込まれたみたいです。同情はできないんです。でも、僕が高1くらいのときに、ヤクザとちょっと揉めて、おっちゃんに助けてもらったことがあるんですよね。今回の指導員役は、最初のイメージでは『その男、凶暴につき』(1989年)の頃のビートたけしさんでした。キレると、とことんまでやってしまうようなキャラクター。でも、それだと暗くて、キツいだけの作品になりそうだったので、ちょっとユーモアのある人物にしようと思ったんです。一ノ瀬さんは『サンクチュアリ』に出ていて、不良に向き合う役に説得力があった。

一ノ瀬 西は犯罪歴もありますけど、自分自身はあまり人間の「悪い」部分は意識していなかったですね。「みんなを愛したい」という気持ちで演じていました。本当に自分の中の「怖さ」が出てきたのは、記者から取材を受けるシーンだけでした。でも、『サンクチュアリ』に出演したことが、西のバックボーンにつながって見えたのなら、よかったです。『サンクチュアリ』で自分が演じた「猿桜」は決して善良な人間ではないけど、だんだんと応援したくなるキャラになっていったと思いますから。

𠮷田 最初に悪人キャラを演じていた俳優は、次第に「いい人」へシフトチェンジする(笑)。佐藤二朗さんやムロツヨシさんは逆に「いい人」から「悪い人」へと最近は変わりつつある。監督って同じ俳優に同じようなキャラクターを演じさせると飽きるから、違うキャラクターとして使いたくなるものなんですよ。

一ノ瀬 なるほど、出が優しい役だった人は悪くなるんだ。面白いですね。じゃあ、自分もしばらく「いい人」を演じたら、そのうちヤクザの組長役のオファーとか来ますかね。

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家庭内暴力や薬物使用などわけありな少年少女が施設に集まる

大人を相手に柔道の練習に明け暮れた思春期の一ノ瀬

――『四月の余白』を見て、人生の岐路に立つ若者にとってメンターの存在は大きいなと感じました。

𠮷田 さっき話したおっちゃんは、俺が初めて遭遇したヤバい大人だった。「こうはなりたくないな」と思ったんです。中学生の俺たちの面倒をみてくれてたわけだけど、寂しさを感じたんですよね。大人同士ではつるめないみたいな感じの孤独さだったのかなと思います。

一ノ瀬 TVドラマの出演がきっかけで8羽のウサギを飼うようになったんですが、今の自分はウサギたちのために生きている感じです(笑)。ウサギたちに溺愛されています。ウサギはかわいいけど、でもやっぱり人にも愛されたいですね。愛されたい願望はあります(笑)。孤独が好きってわけではないんですが、ひとりで苦しんでいるほうが安心できる部分もあるんです。格闘技やっていたから、友達とつるんで遊んでいる余裕がなかった。ひとりでいる環境のほうが、トレーニングに励める。鍛えているほうが楽なんです(笑)。

――中学生時代の一ノ瀬さんはどんな少年でした?

一ノ瀬 キックボクシングの世界に憧れて、小学生から中学生までずっと柔道をやっていたんです。部活とは別に、地元の警察署にも行って、週3回は大人たちにしごかれていました。

𠮷田 一ノ瀬さんは不良役ばっかりやってるけど、実はすごく真面目に過ごしてきたんですよね。俺も中学時代からボクシングを始めて、ドロップアウトせずに済んだのはそのおかげでもありますね。自分がのめり込めるものがあると、更生のきっかけになる。柔道もボクシングも、自分が負けることを知るから。

 不良の場合は自分よりダサそうなやつに負けるのが怖いから、自分が勝てそうな相手としかケンカしない。負けたことが周囲に知られると、もう学校に行けなくなってしまう。相手を車ではねたり、家に火をつけたり、常軌を逸したようになってしまう。

 それに自分の場合は、小さい頃からジャッキー・チェンが大好きで、ジャッキーを撮る側、映画監督になろうと早くから決めていたんです。自分の中にやりたいことがあると、抑えるものなんです。「映画監督になるには高校は出とかなくちゃ」と思っていたので、高校をダブりながらも4年で卒業しました(笑)。

一ノ瀬 俺もジャッキー・チェンが好きでした。ジャッキーに憧れて、格闘家を目指すようになり、その夢がちょっと変わって、映画に出るようになったんです。ジャッキーと同じ職業をやらせてもらえて、本当によかったです。

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中学生の海斗(上阪隼人)は、衝動的に暴力を振るってしまう

教育に「体罰」はありか、なしか

――2019年に刊行され、ベストセラーになった『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)では、非行に走る子どもたちは「認知能力」が発達していないことが指摘されていました。

𠮷田 言いづらいことだけど「境界知能」の問題もあります。ケーキを等分できない、いわゆるグレーゾーンの子たちは学校の授業についていけないし、バイト先でも同じ失敗を繰り返してしまう。そういう子たちが、居場所を不良に求めてしまうと相手を過度に攻撃してしまったりするんです。

――教育の現場で「体罰」を認めるかどうかも、本作は問題点として取り上げています。

一ノ瀬 体罰ではないけれど、自分がキックボクシングをやっていたとき、沖縄の道場に住み込みさせてもらったんです。その道場は空手も教えていて、どうしようもない手のつけられない悪童たちも来ていて、隣にいたお母さんの顔をいきなりバコーンと叩いたりしてたんです。それが空手を学ぶことで、痛みを覚え、自分よりも強いやつがいることを知り、本当に更生していったんです。

𠮷田 人間は「罰」が怖いんじゃないかと思うんです。悪いことをして刑務所に入れられ、自由を奪われるのも罰ですよね。以前は、子どもたちに対する先生の「体罰」があったわけですが、今の時代は「体罰」は問題視されるようになっている。でも、罰なしでうまく行くかというと、難しいでしょうね。その「程度」が問題になってきますが、口で言っても、人はそう簡単には動きません。一ノ瀬さんが演じた西みたいに、じっくり向き合ってくれる大人がいればいいけど、今は共働きで母親も忙しい。悩みはChatGPTに相談するしかない。

 昔は暴走族やってましたけど、今は職人やってます。お前もうちで働けよ、みたいな人が地元にいてくれるのがベストだけど、今はそういう人があまりいない。昔はヒマそうにしている大人がけっこういたのにね。

一ノ瀬 自分には支えてくれた大人がいっぱいいました。なかでも一番のキーパーソンになったのは、沖縄で住み込んでいた時期の空手ジムの安里昌明先生。高校辞めて、キックボクサーになるために佐賀から東京に上京したんですが、バイトしながらキックボクシングの練習は難しくて、そのうち彼女もできて、練習に打ち込めなかったんです。それで自分で「やべえ」と思って、18歳で沖縄のジムの内弟子にしてもらい、朝から晩まで練習したんです。外出禁止で携帯電話を持つこともできない、厳しい練習でした。安里先生と出会っていなかったら、今の自分はいないですね。

𠮷田 サボり癖をどうするかは大きいよね。若い頃は世の中に対する反抗心もあるけど、ただサボりたいだけのことが多いんです。そのまま大人になると、仕事でもなんでも「言い訳」するだけの人間になってしまう。自分の責任じゃなくて、他人の責任にしてしまう。そうなると危険ですね。

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中学教師の冬子(夏帆)。生徒の指導をめぐり、西に相談するようになる

夏帆との組み合わせはベストマッチだった

――『四月の余白』は、若い世代が観ても刺さる映画になったと思います。夏帆さん演じる教師の冬子は、西と信頼関係を育んでいくわけですが、ふたりの間にラブロマンスが芽生えなかったのが残念です(笑)。

𠮷田 夏帆さんとのラブシーンは微塵も考えなかった。でも今、ふたりのキスシーンがちょっと思い浮かんだ。一ノ瀬さんが目をつぶってる表情が(笑)。一ノ瀬さんはみんなが思っているより、器用なんです。まだ使われていない引き出しがいっぱいありそうなので、他の監督たちに気づかれないうちに開けたいですね。

一ノ瀬 ありがたいです。

𠮷田 夏帆さんは意外と動物派で、感覚で動くタイプなんです。一ノ瀬さんは逆に技術派タイプで、頼むと何度でも同じ演技を繰り返してくれる。動物系同士の役者を組み合わせると現場は破綻しちゃうけど、夏帆さんと一ノ瀬さんはタイプが違うからいい組み合わせでしたよ。

一ノ瀬 𠮷田監督の現場は、リラックスして演じることができてよかったです。みんなが𠮷田監督の作品に出たがる理由がよくわかりました(笑)。

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一ノ瀬ワタル(画像右)と𠮷田恵輔監督(写真:森川英里)

『四月の余白』
監督・脚本/𠮷田恵輔 出演/一ノ瀬ワタル、夏帆、上阪隼人、篠原篤、占部房子、山﨑七海 
配給/アークエンタテインメント 6月26日(金)より公開
(c) 2026 N.R.E.
https://shigatsu-yohaku.com

一ノ瀬ワタル(いちのせ・わたる)
1985年生まれ、佐賀県出身。主な映画出演作に『宮本から君へ』(19年)、『ヴィレッジ』(23年)、『炎上』(26年)など。2023年にNetflixドラマ『サンクチュアリ -聖域-』で初主演を飾り、藤井道人監督の『インフォーマ』や『イクサガミ』などにも出演。

𠮷田恵輔(よしだ・けいすけ)
1975年生まれ、埼玉県出身。東京ビジュアルアーツ卒業。『机のなかみ』(2006年)で長編映画監督デビュー。『純喫茶磯辺』(2008年)、『さんかく』(2010年)などのオリジナル作品のほか、人気漫画の実写化『ヒメアノ~ル』(2016年)や『愛しのアイリーン』(2018年)でも振り切った演出を見せた。ボクシング映画『BLUE/ブルー』(2021年)や社会派ドラマ『空白』(2021年)、『ミッシング』(2024年)も話題を集めた。

最新主演作と休みなく演じ続ける理由

(取材・文/長野辰次、ヘアメイク/星野加奈子、スタイリング/皆川bon美絵)

※雑誌「サイゾー」8月号(6月30日発売)では、「P様の匣」で一ノ瀬ワタルさんの下積み時代を深掘りしています。こちらもぜひお読みください。

長野辰次

映画ライター。『キネマ旬報』『映画秘宝』などで執筆。著書に『バックステージヒーローズ』『パンドラ映画館 美女と楽園』など。共著に『世界のカルト監督列伝』『仰天カルト・ムービー100 PART2』ほか。

長野辰次
最終更新:2026/06/24 12:00