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映画『マリオギャラクシー』全世界興収1000億円超も、観客「大絶賛」VS批評家「酷評」…なぜ“温度差”は起こるのか

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アニメーション映画『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー


 GWの大本命、映画『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』が4月24日に全国公開された。3年ぶりの新作とあり、原作ゲームの販売元「任天堂」の本籍地・日本でも期待が高まる一方で、一足先に公開されたアメリカでは批評家と観客の評価が真っ二つ。ただし、この“観客ウケはいいのに、批評家は酷評する”構図は前作でも起きた事象で、ファンは案外冷静だ。なぜマリオ映画の評価は毎回、二分してしまうのか。

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 本作は、任天堂の看板キャラクター「マリオ」が主人公のアニメ映画シリーズ。第一作となった前作『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023)は全世界興行収入13億6065万ドル(約2169億円、4月28日時点=以下同)という驚異的な成績を叩き出し、アニメーション映画の歴代興収ランキング(世界)で当時3位を記録した(現在は5位)。

 北米で4月1日に封切られると、公開から約2週間の4月16日時点で興収3億1490万ドル(約501億円)、全世界では日本円にして興収1000億円(6億3629万ドル=約1014億円)の大台を突破。4月27日までの推計で、累計興行は8億ドルを突破(8億3147万ドル=約1326億349万円)と8億ドルを突破し、2026年公開の映画で現時点世界最大のヒット作となっている。

観客「大絶賛」なのに、批評家は「酷評」

 観客からの評価は上々だ。アメリカの大手映画評論サイト「ロッテントマト」において観客スコアは89%をマークし、劇場で見た層からの支持が厚いことを示す称号「Verified Hot」を獲得。「圧倒的な動員数と、極めて高い満足率を両立させた作品」と太鼓判を押されている。

 他方、同サイトの批評家スコアは43%とかんばしくない。同サイトのスコアは、日本の映画レビューサイト「Filmarks」「映画.com」などで採用されている“平均点方式”ではなく、「その作品をポジティブに評価した人の割合」で算出される“支持率方式”。要するに、アメリカの映画批評家の半数以上が、本作を「支持しない」と表明したのだ。

 とはいえ前述したように、この“分断”は前作も同様(観客スコア95%、批評家スコア59%)だった。日本のSNSでは、本作についても〈批評家スコアがボロボロなほど安心できる〉という声が上がるほどで、エンタメ性を求める観客にとって、“批評家の評価は別モノ”という認識が浸透しつつあることがわかる。

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批評家が指摘する「物語・テーマ性の薄さ」

 そもそも、批評家は、『マリオムービー』シリーズの「何」が“評価できない”ポイントなのか。実際に「ロッテントマト」へ投稿されたレビューを見てみると、

〈映画としての良し悪しに関わらず、最低限の筋書きを用意してゲームのオマージュを詰め込めば「簡単に10億ドル稼げる」と気づいてしまったんだろうね。ただ、そのストーリーは非常に薄く、ほとんど存在しないも同然だ〉
〈マリオたちは数十の惑星間を飛び回るが、結局これは何の映画なのか。クッパの変化の物語なのか、それとも新たな仲間との出会いなのか。そんなことは大して重要ではないにせよ、目的もなく宇宙を漂っているような感覚だけが残る〉(日本語訳:編集部)

など、物語やテーマ性の薄さへの批判が多くを占める。

 そうした“ペラい”構成が、「映画」として批評するには物足りないということだろうが、映画評論家・前田有一氏は、『マリオムービー』シリーズは元来「ゲームアトラクション映像」であり、「ゲームファンを喜ばせる接待映像」だと位置づける。

 実際、絶賛評の中にも〈この映画を楽しめるのは、8歳の少年か、生まれた時から『マリオ』をプレイしてきた僕みたいな人間の2種類だ〉といったゲームファンからの意見が散見される。たしかに、原作ゲームの内容をアニメにおこした“だけ”にも見える映像が続くのは事実で、原作に馴染みのない人が“置いてけぼり感”を抱く懸念は否めない。

エンタメの衣に隠された「テーマ」とは

 もちろん、単なる“接待映像”が全世界で大ヒットとなるはずもない。特段熱烈なマリオIPのフォロワーでもない、という前田氏が、同映画を見たうえで、「非常によくできた良い映画だと思った」と言うのには根拠がある。

「批評家たちに不評なのは、おそらく前半のアトラクションパートでしょう。マリオらしく、ゲーマーへの接待映像(笑)なので、そこで“元ネタわからん”などと思考停止してしまうと、『メッセージ性がない』『テーマ性に欠ける』という印象が強くなるかもしれません。ただその先には“家族の離散”や“再起”というテーマがちゃんと見えてくる。

 世界では今、戦争や難民問題が起きていて、家族と離れ離れになった人や、もう2度と会えなくなってしまった人たちがたくさんいるわけですね。本作が描いているのは、そんな“人類共通の痛み”。終盤に向かって、エンタメの衣に隠された世界情勢をえぐるようなテーマが怒涛のように回収されていく設計は秀逸だと思いました」(前田氏、以下同)

「ゲーム原作映画=大爆死」の法則を塗り替えた

 意外にも思えるが、ゲーム原作の映画は数多あれど、「ゲーム原作のCGアニメ」が商業的に成功した例はあまりない。前田氏によれば、ゲーム原作の映画は、ファンから“黒歴史”や“駄作”認定されがちだった。理由は簡単、ファンの期待に応えられるクオリティが足りなかったためだ。

「『ファイナルファンタジー』(2001)がその一例で、興行的には5000万ドル規模の大赤字。それがトラウマで、ゲーム会社『スクウェア(現、スクウェア・エニックス)』は映画事業からの撤退を余儀なくされています。その後もゲーム原作の実写化、あるいは実写とCGを混ぜた作品は、『バイオハザード』シリーズや『ソニック』シリーズなどいくつかありますが、ハリウッドクオリティのフル3DCGアニメで描き切ったのは前作『マリオムービー』が史上初といっても過言ではないほど、目新しいジャンルでした」

 今まで自分が動かしていたキャラクターたちがゲームの世界から飛び出し、世界観そのままにスクリーンの中で跳ね回る映像は、ファンの『見てみたい』欲を掻き立てた。

「ゲームをやったことがなくても、『マリオ』といえばあのルックだとわかる人は世界中にいる。あのキャラにどういう息の吹き込まれ方をするのかと興味をもった人は多く、そしてそうした人たちをも楽しませた功績は大きい」

ゲーム原作は、批評家の評価が「辛口」になりやすいワケ

 ところで「ロッテントマト」において、観客スコアと批評家スコアで分断が起きたゲーム原作の映画は、何も『マリオムービー』シリーズだけではない。

 たとえば、同名コンピューターゲームを原作としたホラー映画『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』(2023)は、批評家スコア33%に対して観客スコア86%と、両者に大きく差が開いた。興行成績は全世界2億9724万ドル(約471億5563万円)のメガヒットを記録した点も『マリオムービー』シリーズと類似する。なぜゲーム原作映画は、批評家と観客の感想が極端に分かれがちなのか。

「アニメや小説を原作にする以上に、ゲーム原作は作り手の思い入れが強くなるものです。なぜならゲームは自分の手で操作するもので、自分が“主人公”だから。

 ゲームファン向けに特化した『ファイブ・ナイツ─』は、プレイしたことがない人が見ると、劇中の設定や展開に意味不明な部分だらけです。脚本の監修にはゲーム制作者が直々に携わり、公開まで8年もの時間をかけるほど書き直しに書き直しを重ねたとか。(完成まで)時間がかかりすぎて、しびれを切らしたスポンサーが逃げたという逸話があるほど、ファンを喜ばせることにこだわり抜いたそうです。

 夢中になってプレイした体験があるファンを第一に考えて作られたものだと、批評家目線では“内輪ウケしてんじゃねえよ”と、辛口にもなるよなと思います。一方、原作ファンが素直に評価した『観客スコア』は高くなるわけですね」

批評家の低評価を、どう捉えればいいのか

 では『マリオムービー』シリーズは、「ファン・ファースト映画」という路線を貫き通せるのだろうか。

「いまやゲームファンは、世界中にものすごい母数がいます。特にマリオは1980年代に誕生して以降、『マリオカート』のようなレースモノや『スーパーマリオギャラクシー』といったSF、バトルアクション、スポーツ、パズルなどなど幅広いジャンルを横断している。ゲームファンを楽しませるための“手数”は、まだまだ尽きることがないでしょう。

 しかも映画版には、別のゲームのキャラクターがたくさん出てくるんですね。事前に告知されていましたが、本作にはゲーム『スターフォックス』シリーズから主人公のフォックスが登場しています。マリオは日本のIPのなかで最強クラスですし、いくら批評家が酷評しようとも、制作陣がファンを楽しませようとする限り、世界的かつ継続的なコンテンツになっていくのではないでしょうか」

 批評家票は集まらずとも、制作側が本作にかける熱量の高さや愛情の深さは北米の観客が確認済み。マリオに少しでも興味がある人なら、安心して楽しむことができそうだ。

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(取材=吉河未布 文=町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2026/04/29 12:00