『トイ・ストーリー2』の見逃せない伏線と失われた「オリジナルビデオ映画」の世界

今週も『トイ・ストーリー』の時間がやってきました。先週に続き、6月19日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、「ピクサー」制作のCGアニメ『トイ・ストーリー2』(1999年)を放送します。
シリーズ第1作『トイ・ストーリー』(1995年)、感動作として有名な『トイ・ストーリー3』(2010年)の狭間となり、いまいち印象が薄い『トイ2』です。でも、カウガール人形のジェシーが登場し、彼女をめぐるエピソードが『トイ3』では伏線として回収されることになります。来週放送の『トイ3』で泣きたい人は、ぜひ今夜の『トイ2』もチェックしてください。
ノストラダムスが世界の滅亡を予言した1999年に製作&公開された『トイ2』と、同時代を賑わした作品を振り返りたいと思います。
『トイ2』はこんなあらすじです
保安官人形のウッディ(CV:唐沢寿明)とアクションフィギュアのバズ(CV:所ジョージ)との友情の始まりが『トイ1』では描かれました。『トイ2』では、ウッディは『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京系)に出せばかなりの値が付くアンティーク人形であることが判明します。
人間の男の子・アンディの大切なおもちゃであるウッディですが、おもちゃコレクターによって連れ去られるはめに。バズたちが救出に向かう冒険談となっています。
ウッディが連れ去られた先で出会うのが、カウガール人形のジェシー(CV:日下由美)と愛馬となるブルズアイです。ジェシーはかつて人間の少女と超仲良しでしたが、少女が成長していくにつれ、忘れ去られてしまったという悲しい過去の持ち主です。
おもちゃ離れが始まりつつあるアンディのもとに戻るか、それともジェシーたちと日本へ渡り、おもちゃ博物館で大切に保管されるか。ウッディは難しい選択を迫られます。
「ピクサー」社内は最悪の雰囲気だった
ピクサーファンの間でよく知られているのは、『トイ2』は当初はビデオ映画として企画されたという件です。『トイ1』が大ヒットしたことで配給したディズニー社は、低予算の製作費で済むビデオ映画として続編化することを「ピクサー」に持ちかけたのです。
当時の「ピクサー」は、『トイ1』を成功に導いたジョン・ラセター監督たちが新作『バグズ・ライフ』(1998年)の制作に取り組んでいるところでした。
そのため、新人チームが『トイ2』の制作にあたることになりました。しかし、予算の大きな『バグズ・ライフ』チームと低予算の『トイ2』チームに分けたことで、「ピクサー」社内の空気は悪化したそうです。同じ職場で働くクリエイターとして、予算や扱いに差をつけられることに不満が生じたのです。
そこで「ピクサー」は、ディズニー社に要請し、『トイ2』も劇場公開作に格上げしてもらいます。
しかし、ディズニー社への納期期限は迫っていました。劇場公開に耐えうるクオリティーにするため、『トイ2』は全面的に手直しすることになります。結局、『バグズ・ライフ』を終えたジョン・ラセター監督らが合流し、「ピクサー」が一丸となることで『トイ2』は完成しました。
ジェシーがかつての持ち主との思い出を回想するシーン、クライマックスの空港でのアクションシーンなどは、後から追加された場面です。
レンタルビデオが元気だった時代
この頃のディズニー社は、人気ディズニーアニメ『アラジン』(1992年)の続編『アラジン ジャファーの逆襲』(1994年)をビデオ映画としてリリースするなど、ビデオ市場をターゲットにした続編を多発していました。劇場公開せずとも、ビデオ映画として採算が取れるくらい当時のビデオ市場は大きかったわけです。
1999年の日本もバブル景気が弾けた後の経済不況が続き、レンタルビデオは庶民にとっての安価な娯楽として人気でした。街のあちこちにレンタルビデオ店があったものです。
TSUTAYAは新宿店、渋谷店、恵比寿店などで、それぞれ品ぞろえが異なり、お店を回遊する面白さがありました。
そんなレンタルビデオ界で「めちゃめちゃ怖いビデオがある」と噂になったのが、清水崇監督のデビュー作『呪怨』(1999年)でした。オリジナルビデオ映画として製作された『呪怨』には、これでもかというくらいに数々のホラーアイデアが詰め込まれていました。
このビデオ版が驚異的な回転数を記録し、清水監督は劇場版『呪怨』(2003年)を撮り、さらにはハリウッド版『THE JUON/呪怨』(2004年)で全米興収ランキング1位に輝きます。
今でも、清水監督の最高傑作はビデオ版の『呪怨』だという声が多いように思います。
オリジナルビデオ出身の異才たち
オリジナルビデオ映画は予算が低く、撮影日数も極めて短いのですが、その分だけ撮影現場はとても自由度が高かったそうです。そんな自由な創作現場から、三池崇史監督のような才能が誕生しました。三池監督が撮ったVシネマ『極道恐怖劇場 牛頭』(2003年)は、なんとビデオ映画ながらカンヌ国際映画祭にまで出品されています。
あのちゃんと鈴木福主演で話題となっている深夜ドラマ『惡の華』(テレビ東京系)の井口昇監督は、米国のビデオ系メーカーからの依頼を受けてオリジナルビデオ映画として『片腕マシンガール』(2008年)を撮り、世界的なヒット作にしています。
米国ではスティーヴン・セガールやジャン=クロード・ヴァンダムが主演した低予算のアクション映画が、レンタルビデオ店で人気を博していました。アンジェリーナ・ジョリーの初主演作『サイボーグ2』(1993年)も、ビデオ映画として制作されたことが知られています。
1990年代からゼロ年代にかけて、ビデオ業界がとても活気に溢れていたことが分かります。
サブスク配信にはない独自の生態系
今では街から、すっかりレンタルビデオ店が消えてしまいました。Netflixやアマプラがその代わりになっているという見方もあるようですが、グローバル配信などを配慮する必要もあり、ビデオ映画のような無軌道さはないように思います。
ビデオ映画の場合は、アクションかセクシーシーンかの見せ場がひとつあれば、それでOKみたいな非常に安易なノリがありました。
かつてのビデオ映画は、劇場公開映画の傍流ではなく、異形の才能を生み出す独自の生態系でもあったのではないでしょうか。
今夜放送される『トイ2』は寸前のところで、ビデオ映画の仲間入りを免れた作品です。もし、そのままビデオ映画化されていれば、「トイ・ストーリー」シリーズの運命も変わっていたかもしれません。
かつてオリジナルビデオ映画という、もうひとつの世界があったことを意識した上で、『トイ2』を観てみると違った感慨が湧くかもしれません。
(文=映画ゾンビ・バブ)
