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ジーコも出演! ブラジルサッカー界の伝説を追ったドキュメンタリー映画

サッカーをしなかった史上最高のサッカー選手 『カルロス・カイザー』の“詐欺師”的人生

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引退後のカルロス・カイザー(画像右)。自分の名前を冠した賞を設け、有名選手に贈っている。

 サッカーW杯2026の決勝トーナメント1回戦で日本代表に逆転勝利し、サッカー王国の底力を見せつけたブラジル代表。華麗な個人技で、観衆を魅了するプレースタイルで知られている。

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 ペレ、ジーコ、ロマーリオ、ロナウド、ネイマール……。スタープレイヤーを次々と輩出してきたブラジルサッカー界だが、「サッカーをしなかった最も偉大なサッカー選手」はご存知だろうか? カイザー(ドイツ語で『皇帝』)の呼び名で親しまれたカルロス・カイザーこと、カルロス・エンヒキ・ラポーゾがその人だ。

 1980~90年代、ブラジル最大の都市・リオデジャネイロの4大クラブに所属したが、体調不良や怪我を理由に試合に出場することを回避。それでも、26年間にわたってプロのサッカー選手であり続けた。

 見た目はスター選手然としたかっこよさがあり、陽気な性格で口がうまい。おもちゃの携帯電話を持ち歩き、欧州の有名クラブからもオファーが来ているふりをしていた。クラブのオーナーでもあったマフィアのボスを味方につけるなど、カルロス・カイザーは実に多くの伝説を残している。

 ブラジルでは詐欺罪にあたる刑法第171条になぞらえて「171」とも呼ばれていたカルロス・カイザーを追いかけ、ブラジルサッカー界のレジェンドたちに加え、カイザー本人への密着取材にも成功したドキュメンタリー映画『カルロス・カイザー サッカー史上最も奇妙な成功者』が、8月14日(金)より日本で劇場公開される。

 これまでにも数多くのスポーツドキュメンタリー作品を手がけてきた英国のルイス・マイルズ監督に、取材エピソードを語ってもらった。

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レナト・ガウショ(画像右)に似ていたことから、カイザーはレナトになりすますことがあった。

カイザー伝説を語るレナト・ガウショやベベトたち

 まるでフィクションのようなサッカー人生を歩んできたカルロス・カイザーに、マイルズ監督はどういう経緯から興味を持ったのだろうか?

「スポーツジャンルの作品をずっと手がけ、いろんなサッカー選手たちを取材してきました。1970年のW杯優勝時のブラジル代表だったカルロス・アウベルトにも取材をしたんですが、彼は『自分よりもカルロス・カイザーのほうが影響力があった』と語っていたんです。W杯の優勝メンバーよりも影響力のある選手とは一体どんな人物だったのか、すごく気になりました。カイザーの存在が、僕の中でどんどん膨らんでいったんです。それが大変な取材の始まりでしたね」

 ブラジル代表だったレナト・ガウショ、鹿島アントラーズにごく短期間だけ在籍したベベトら、ブラジルサッカー界のレジェンドたちが、次々と登場する。カルロス・カイザーの伝説を、彼らが楽しげな表情で振り返る姿が印象的だ。

「みんな、カイザーのことが好きなんです。カイザーには明るさと社交性があり、クラブのムードメーカーになっていたんです。パーティーを盛り上げるのがカイザーは得意で、女性の扱いにも慣れており、ナイトライフを楽しみたい選手たちの多くは彼の世話になっていました。カイザーと仲のよかった某有名選手にも出演を求めたところ、『妻に若い頃のエピソードを知られると困る』という理由で断られたこともあります(笑)」

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カイザーに対して、厳しい言葉を浴びせるジーコ。

ブラジルサッカー界に貢献していた意外な一面

 サッカーの神様こと、ジーコも登場する。レナト・ガウショやベベトたちと違い、カルロス・カイザーのことを「サッカー界の面汚し」と厳しく断罪するあたりはジーコらしい。

「ジーコはプロ意識の強い人。フラメンゴでカイザーとチームメイトだったジーコは他の選手たちのように、カイザーと一緒にナイトクラブへ繰り出してハメをはずすことはなかったようです。カイザー自身も、ボタフォゴではベベトとアレクシャンドレ・トーレスだけは真面目で、他の選手は『カイザーFC』と呼んでいました。カイザーを擁護する人ばかりだとバランスが悪いので、ジーコにも出てもらったんです。有名サッカー選手の取材はなかなか難しいものがあるのですが、ジーコの場合はブラジルサッカー界で有名な女性ジャーナリストのマーサ・エステベスを介して、取材することができました。もちろん、カイザーの作品を撮っていることはジーコにも説明しましたが、どうすればブラジルサッカー界をもっと改善することができるかなど、直接的にカイザーと関係ない質問も多くしましたね。レナト・ガウショへの取材も難しかったのですが、実際にインタビューするとカイザーに対する兄弟愛に近い感情を熱く語り、カイザーの生い立ちに関わるエピソードに触れると涙ぐんでもいました」

 サッカーが下手だったカルロス・カイザーは、なぜプロ契約できたのだろうか。その謎について、マイルズ監督はこう語る。

「契約前のフィジカルチェックでは、カイザーはかなり優秀な成績を残していたんです。でも、ボールを使う場面になると、カイザーはすぐに怪我をしたふりをしていました。ボール扱いがうまくないことは、クラブ関係者たちもしばらくすると気づくわけですが、それでもクラブ側はカイザーとの契約を続けています。あるクラブでは、ブラジル代表のFW選手にアルコール依存症などのトラブルがあるので、彼の世話をすることも契約の条件に含まれていたようです。ある意味、カイザーはブラジルサッカー界に彼なりのスタイルで貢献していたんです」

 サッカー中継だけでは知り得ない、ブラジルサッカーの意外な一面に触れられるのもこのドキュメンタリーの面白さだろう。

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長髪をなびかせ、サングラスを愛用するカイザー。フィットネスジムに勤めている。

同時期に7つのクラブと契約を結んでいた

 実際のカルロス・カイザーへの取材はどうだったのだろうか?

「平気で嘘をつくカイザーには、サイコパスではないのかという疑いを感じ、オックスフォード大学の心理学者に見解を求めたところ、サイコパスではないとのことでした。典型的な詐欺師的キャラクターだというわけです。そんなサッカー界の詐欺師への取材は簡単ではありませんでした。まず、カイザーの知り合いへの聞き取りを重ねて、カイザーへと近づき、それからお酒などを用意して、パーティーを開き、カイザーをおびき出したんです(笑)。パーティー会場に現れた際のカイザーは、脚をひきずっていましたね。本当に怪我をしていたのか、それとも怪我のふりをしていたのかは分かりません。でも、初めてカイザーに会った日の、彼の2時間にわたるおしゃべりは、最高に楽しい時間でした。ポルトガル語の通訳は、床を転げ回るほど大笑いしていました。2度目はビーチで会ったんです。『一緒にランチしよう』と誘われ、人気のバーベキューレストランに向かったところ、大変な行列でした。でも、カイザーがお店の人に声をかけると、すぐに店内に通され、いちばんいいテーブルに案内されたんです。今でもカイザーは街の人気者です。カイザーへの真面目な取材が始まったのは3回目からでした」

 カルロス・カイザーの語る逸話はあまりにも出来すぎており、どこまでがホラで、どこからが真実なのかの見極めが難しい。彼の談話の裏を取るため、マイルズ監督は南米中をくまなく取材して回ることになった。

「このドキュメンタリー映画が公開された際、『なぜファクトチェックしなかったんだ? 同時期に複数のクラブチームに所属できるはずがない』という批判がありましたが、実はちゃんと調べています。カイザーは名前を少しずつ変えて、ある時期には7つのクラブに同時に在籍していたこともあるんです。彼にとって重要なのは試合に出ることではなく、クラブと契約してサッカーセレブとしての生活を送ることだったんです。マフィアのボスがオーナーだったクラブで出場するよう厳命された際には、ウォーミングアップ中に野次を飛ばした観客と乱闘を始め、退場処分を食らって出場せずに済んだーという逸話があります。これはカイザーの創作だろうと思って調べてみると、実際にその試合を観戦し、乱闘の様子を目撃したという信頼できる証言を得ることができたんです」

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若い頃からビーチが大好きだったカイザーと亡くなった奥さん。

カイザーの嘘を黙認していたブラジルサッカー界

 カイザーをめぐる都市伝説を丁寧に調べて回ったマイルズ監督は、やがてカイザーがついた嘘のひとつを発見することになる。その事実をマイルズ監督が本人に突きつけると、それまで饒舌だったカイザーは急におとなしくなり、なぜ嘘をつくようになったのかその理由をせつせつと語り始める。また、ブラジルサッカー界の関係者たちは、カイザーの嘘に気づきながらずっと黙認していた事実も明らかになっていく。

「カイザーのことは調べれば調べるほど、どこに真実があるのか分からなくなり、カオスの世界に引き込まれていくような感覚でした。また、カイザーは会うたびに違うガールフレンドを連れており、『今日これから彼女にプロポーズするから、その様子を撮ってほしい』と頼まれたり、普段はフィットネスジムのトレーナーをしており、『ジムに有名な選手が来ているから、今から取材してくれないか』などと、さんざん振り回される日々でした。僕はブラジルという国も、リオという街も大好きですが、これ以上カオスな世界にいるとおかしくなってしまうと思い、英国に戻って通常の作品の取材に戻ったんです。でも、3か月もすると、またカオスな日々が懐かしく感じられてしまいます(笑)。今でもカイザーとの交流は続いていますよ」

 インターネットが普及した現代では到底不可能だが、かつてサッカーをしないことで伝説となったプロのサッカー選手がブラジルにはいた。そのこと自体が、ブラジルにおけるサッカー文化の奥深さを感じさせる。

 カルロス・カイザーを語るとき、誰もが楽しそうに彼の伝説を口にする。自分も伝説の一部に加わっているような心地よさがあるのではないだろうか。カイザーはサッカー史上最高のファンタジスタなのかもしれない。

『NEW GROUP』下津優太監督の“理系脳”

(取材・文=長野辰次)

『カルロス・カイザー サッカー史上最も奇妙な成功者』
監督/ルイス・マイルズ
出演/カルロス・エンヒキ・ラポーゾ、ジーコ、ベベト、レナト・ガウショ、アレクシャンドレ・トーレス、リカルド・ローシャ
配給/NEGA 8月14日(金)よりキノシネマ新宿、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺、MOVIX昭島ほか全国公開
(c)2017 NODS AND VOLLEYS PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED
https://kaiser.negadesignworks.com/


サッカーをしなかった史上最高のサッカー選手 『カルロス・カイザー』の“詐欺師”的人生の画像6ルイス・マイルズ監督
BBCスポーツでサッカー、F1、オリンピック、ウィンブルドンのテレビ番組に携わった。長編の監督作品に、スポーツが南アフリカをどのように変えたのか、そしてなぜその変化が必要だったのかを描いた『Stop the Tour』(2019)、リバプールがプレミアリーグ優勝によってイングランドサッカーの頂点に返り咲くまでを振り返る『Liverpool FC: The 30-Year Wait』(2020)、凄惨なユーゴスラビア紛争を乗り越えてクロアチアが1998年にFIFAワールドカップ3位に輝いた奇跡を描いた『Croatia: Defining a Nation』(2022)などがある。本作はトライベッカ映画祭、レインダンス映画祭に正式出品され、ガーディアン紙のピーター・ブラッドショーによる「サッカー映画オールタイムベストTOP10」の1本に選ばれた。

長野辰次

映画ライター。『キネマ旬報』『映画秘宝』などで執筆。著書に『バックステージヒーローズ』『パンドラ映画館 美女と楽園』など。共著に『世界のカルト監督列伝』『仰天カルト・ムービー100 PART2』ほか。

長野辰次
最終更新:2026/07/11 18:00