『ハリポタ』25周年 3作目で途中離脱者増、避けられなかった“2つの事情”

今年は映画『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001)の公開25周年。アニバーサリー企画として日本では8月28日から1週間、全国163館にてリバイバル上映が行われる。本編終了後は、ボーナスメイキング映像が初公開。撮影当時のインタビューや舞台裏など、懐かしいキャストの姿が見られるという。
映画「ハリー・ポッター」シリーズは、2001年から2011年までの10年間で8作が公開された。再上映含む現在までの世界興収は、1作目『賢者の石』が10.29億ドル。続く作品もすべて8億ドル以上と堅調で、最終作『死の秘宝 PART2』(2011)ではシリーズ最高となる13.42億ドルに達した。シリーズ累計興行収入(世界)は78億ドル(約1兆2324億円、1ドル=158円)を突破する、名実ともに世界的な超人気シリーズだ。
世界では好調も、日本での興行成績は右肩下がり
最後まで人気をキープした世界に対して、日本での様相はかなり異なる。
シリーズにおける最高興収は1作目『賢者の石』の203億円、日本歴代興収ランキングで(当時)第3位という華々しいスタートを切った。しかし2作目『秘密の部屋』(2002)は173億円、3作目『アズカバンの囚人』(2004)は135億円と急降下。5作目『不死鳥の騎士団』(2007)では94億円と100億円を割ってしまった。その後、最後となる8作目『死の秘宝 PART2』だけは96.7億円と若干持ち直したが、再び3桁億円の大台に乗ることはなくフィニッシュした。
【ハリー・ポッターシリーズの世界/日本興行収入】
※作品名(公開年)、世界興行収入/日本興行収入
1)賢者の石(2001)10.29億ドル/203.0億円
2)秘密の部屋(2002)8.83億ドル/173.0億円
3)アズカバンの囚人(2004)8.11億ドル/135.0億円
4)炎のゴブレット(2005)9.00億ドル/110.0億円
5)不死鳥の騎士団(2007)9.43億ドル/94.0億円
6)謎のプリンス(2009)9.41億ドル/80.0億円
7)死の秘宝 PART1(2010)9.61億ドル/68.6億円
8)死の秘宝 PART2(2011)13.43億ドル/96.7億円
とはいえ、新作はいずれも年間ベスト級の数字を叩き出しており、作品自体が“オワコン”化していったわけではない。ただシリーズが進むにつれて離脱者が増えていったことはたしかだろう。
なぜ熱狂は持続しなかったのか。映画批評家・前田有一氏は、その背景にあった「2つの理由」を指摘する。1つは「日本人がシリーズに期待したものと原作世界観との乖離」、もう1つが「邦画人気の高まり」だ。
『賢者の石』の圧倒的な“ワクワク感”
映画『ハリー・ポッター』シリーズが幕を開けた2000年代初頭は、『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)、『スパイダーマン』(2002)、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003)など、洋画の超大作が相次いで登場した時期だ。そんななか、『賢者の石』は公開2日間で約137万9000人を動員。オープニング動員数の歴代記録を塗り替え、一躍、時代を牽引するシリーズとしての存在感を放った。
日本の観客は「大人も子どもも楽しめる冒険ファンタジー」に胸を躍らせた。孤児として11歳になったハリーのもとに、ある日ホグワーツ魔法魔術学校からの入学許可証が届く。その後魔法の世界で出会ったロン、ハーマイオニーとともに学校生活を送りながら、ホグワーツに隠された謎を解き明かし、邪悪な魔法使いとの戦いに挑んでいく。強く、魅惑的に観客を引き込む巧みな演出と設定が、広く心を掴んだ。
「『賢者の石』は、独特の寄宿舎がある魔法学校が舞台。日本にはない異国感がありつつ、本当にああいう生活があるかもしれない、と現実世界と地続きのファンタジーを存分に見せてくれました。なんだかちょっと冴えないハリーとロン、魔法と無縁の家庭で育った努力型の秀才ハーマイオニーという3人の“等身大感”も良かった。
当時の日本の映像技術では作れないタイプの壮大な作品で、上陸した時には日本中がお祭り騒ぎだったものです。美術デザインもしっかりしていて、原作を読んでいない人や子どもたちにもわかりやすい、夢と驚きに満ちた冒険ムービーとして支持されました」(前田氏、以下同)
2作目→3作目で進んだ“ハリポタ離れ”

しかし、全8作の興収を俯瞰すると『賢者の石』から『秘密の部屋』、そして『アズカバンの囚人』と、1作目から続けて大きく下落していることが見てとれる。特に2作目『秘密の部屋』と3作目『アズカバンの囚人』の間では約38億円の差があり、シリーズで最大の下落率だ。つまり見たのは2作目まで、「3作目以降は見ていない(劇場へ行っていない)」という人が多かったことになる。その後も下降が止まらない数字を踏まえると、「離脱」が一時的なものではなかったことは明らかだ。
ここに前田氏が指摘する1つ目の原因、「日本人が『映画版』に期待するものと『原作版』の世界観との乖離」がある。
「3作目から、急に“大人向け路線”に変更されたんですよね。想像力をかき立てるアドベンチャーだったものが、思春期の悩みや政治的な要素を含んだドラマ性を帯びはじめ、全体的なトーンが暗くなっていく。しかも、肝心のヴォルデモートを倒すストーリーはほとんど進まない。原作通りなんだけど、『夢たっぷりの冒険ファンタジー』というイメージを持っていた日本のライト層は、この辺りから離れていったのではないかと思います」
また、2作目と3作目の間では監督の変更もあった。前2作を手がけていたクリス・コロンバス監督から、アルフォンソ・キュアロン監督にバトンタッチ。イギリスの大手紙「ガーディアン」は公開当時、〈キュアロン監督は『ハリー・ポッター』の冒険物語に、よりダークで大人っぽい雰囲気を持ち込むと見られている。(中略)前2作より、文字通り「暗い」作品だ。映像の色調はややくすみ、ざらついて見える〉と評価している。
前田氏も自身が運営する映画批評サイト『超映画批評』で、公開当時60点(100点満点中)をつけ、〈あえていうなら、このPART3が一番地味なストーリーを持つといったところか〉と同作の“パッとしなさ”を指摘していた。そうした3作目の路線変更は、日本人がシリーズに最も期待していることを、少なからず裏切ることにも繋がった。「キャラクター性」だ。
「日本人は、元々“キャラクター”が大好きな国民性なんですね。『ハリー・ポッター』でも1、2作目の“初々しい3人組”が愛された。特に子どもやライト層には、3人が文字通りそのまま変わらず、さまざまな冒険を繰り広げる姿が見たかった、という気持ちがあったでしょう。その後、魔法競技の学校対抗試合が描かれた4作目『炎のゴブレット』で学園ファンタジーのワクワク感は多少戻ってきたものの、やはり3作目以降で全体の雰囲気は変わってしまった」
さらに、子役を起用した長期シリーズの宿命というべきか、主演3人の容姿は作品を重ねるごとに成長していった。1作目公開時に12歳だったハリー役のダニエル・ラドクリフは、3作目で14歳、最終作では21歳だ。“初々しい3人組”は思春期を越え、みるみる大人の男女へと変わっていった。前田氏は「キャラクター好きで、そのビジュアルから入り込む日本人にとって、“見た目の変化”が離脱を招いた側面も否めない」と話す。
「小さい頃に見ていた海外の子どもたちが急に大人っぽくなるとどこか生々しく感じるのか、関心が薄れる大きな要因になったと思います。自分たちが日常的に触れる漫画や邦画ならまだしも、普段彼らの姿を目にすることはないのに、急にものすごく成長した姿で登場されると、『誰?』とついていけなくなってしまう。その点、海外では原作に馴染みがあるファンも多く、むしろ『大人になっていく過程を見守りたい』という熱が冷めなかった。ここに大きな違いがあったと思います」
『ハリー・ポッター』と並行して進んだ「洋画離れ」

2つ目の大きなポイントは、洋画を取り巻く時代背景だ。一般社団法人日本映画製作者連盟が公表している国内映画市場データによると、1986年から2005年までは洋画のシェアが大きく、ピークの2002年は72.9%を占める。ところが、2006年に邦画がシェア率53.2%と洋画と互角の割合をマーク。翌2007年に一度は洋画が逆転したものの、2008年以降は現在まで邦画優位が続いている。『ハリー・ポッター』シリーズが展開されていた2000年代初頭の10年間は、まさしく洋画が徐々に弱体化した時期でもあるのだ。
「その10年間で、TVドラマの劇場版や『ポケットモンスター』『名探偵コナン』などのアニメ映画が勢いを増し、次々と人気を獲得しました。こうなると『1作目はお祭りに乗っかって見たけど、ついていけなくなった』というライト層の関心は、親しみがある国産作品に流れていく。『ハリー・ポッター』は洋画離れをなぞった象徴的なシリーズともいえるのです」
無論DVDやテレビ放送、配信などからファンになった人は少なくないだろうし、またそうしたファンこそがコア層として作品人気を支えてきた。事実、2023年6月、としまえんの跡地に開業した「ハリー・ポッター」の世界を体験できる没入型エンターテイメント施設「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京」の満足度はGoogleクチコミ4.7と絶賛だし、2022年からTBS赤坂ACTシアターでロングラン上演されている舞台版『ハリー・ポッターと呪いの子』は、そのチケットが今年12月27日の千秋楽まですべて売り切れているほどだ。
ハリポタのこうしたエンタメ展開は「一周回って、キャラ推しをしたい現代の日本人にぴったり」と前田氏は語る。劇場版ではシリーズから脱落してしまった人もそうでない人も、改めてハリー・ポッターの世界に触れると、その贅沢な魅力を再発見できるかも。
(取材・文=町田シブヤ)
映画『ハリー・ポッター』シリーズ
デジタル配信中
権利元:ワーナー ブラザース ジャパン
ブルーレイ&DVD 発売元/販売元:ハピネット・メディアマーケティング
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