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『DIGGER/ディガー』、大爆死の「酷評」と熱烈な「絶賛」現代に提示した挑戦状の解釈

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映画『DIGGER/ディガー』より

 トム・クルーズ主演の映画『DIGGER/ディガー』が10月初旬に北米、続いて日本で公開され、歴史的な苦戦を強いられている。その評は〈失敗作〉か〈大傑作〉かと極端なほどに分断され、上映館数および回数が虫の息となる中、SNSでは「絶対に劇場で見ておいて!」と切なる訴えが日に日にその数を増している。

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「ネタバレできない」予告→大爆死スタート

 本作を手がけたのは、名匠アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督。巨万の富と権力を持つ石油王・ディガーが、石油採掘事業での事故によって大津波の危機を招きながらも自らを「人類の救世主」に仕立てようと奔走するブラックコメディだ。

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映画『DIGGER/ディガー』予告ポスター

 予告ポスターは、でっぷりとした腹の“ジジイ”が含みのある笑みを浮かべてスコップを手に、地球儀に片足をかけて突っ立っている姿で、「これがトム!?」と思わず二度見するもの。予告動画も公開されたが、内容はまるで伝えておらず、その存在意義を問うレベルだった。

結果として、トムのファンであっても「清々しいほどカッコいい正義の味方」像でないなら見たくないと思った人が多かったのか、何もわからない内容に食指が動かない人が多かったのか、北米の初週興行収入はわずか800万ドル(10月2日公開、約12億円)と、トムの歴代作でも2007年『大いなる陰謀』(初週北米興収670万ドル)以来19年ぶりの低初動を記録。北米での上映館数はわずか2週間で76%減にもなったという。

 日本でも10月9日公開初週の動員ランキングは7位止まり、翌週以降はトップ10圏外。その「予告でネタバレできない構造」のジレンマと、「トム」および「映画」に求めるものが人によって異なるといえど、製作費1億6000万ドル(約252億円)超えとも報じられた大作で賞レースの有力候補との見方もあったのに、ここまで大爆死するのは何故なのか。

「絶望的に混乱した失敗作」か「人生の価値観を変える衝撃作」か

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映画『DIGGER/ディガー』より

 トム・クルーズといえば、世界的な知名度と人気を誇るドル箱スター。近年だけでも、『トップガン マーヴェリック』(2022)が全世界興収15億326万ドル(約2377億円)、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(2023)が5億7112万ドル(約903億円)、『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』(2025)は5 億9876万ドル(約947億円)と3作連続で好成績を放つ。

 またイニャリトゥ監督は、過去の長編監督作7作品すべてが米アカデミー賞にノミネートされた実績を誇る。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2015)では作品賞、監督賞ほか4部門受賞に輝き、翌年には『レヴェナント:蘇えりし者』(2016)で監督賞含む3部門で受賞した。ちなみに監督賞の2年連続受賞は、65年ぶりの快挙だ。

 まさに夢の組み合わせだったが、米大手レビューサイト「ロッテントマト」での満足度は、批評家53%、観客76%。同サイトではスコアが60%未満だと「ロッテン(腐った)作」、すなわち「不評(気味)な映画」に分類される。「腐り」判定を覗いてみると、〈耐え難いほど自己満足的な、見栄っ張りな愚行〉〈絶望的に混乱した失敗作〉など、作品としての“歪さ”への苦言が多い。

 日本のSNSでも、〈アイデアに多少の新鮮さは感じるものの、映画としては全く面白くなかった〉〈喜劇として笑えるポイントがなかった〉という不満の声が散見されるが、“否一色”というわけでもない。一部の観客からは、〈人生の価値観を変える衝撃〉といった熱量の高い声が飛び交い、〈万難を排して劇場へ走って〉と熱狂的な賛辞もあがる。

 もちろん、いくら人気俳優や名監督をもってしても「爆死」になることはあるだろうが、ここまで酷評と絶賛が交錯する映画は珍しく、ワーナー公式Xまでもが〈【傑作/不快】【最高/困惑】【圧巻/苦痛】この衝撃作、あなたは何を感じる?〉と、両極評価を逆手に宣伝し始めるほど。否定的な人は何が受け付けないのか、肯定的な人は何が良かったのか。忖度ない批評に定評のある映画評論家・前田有一氏に話を聞いた。

賛否が分かれる単純な「2つの理由」

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映画『DIGGER/ディガー』より

 前田氏は、本作の評価が分かれる単純な理由として、2つのポイントを挙げる。「①トムに期待するもの」と、「②鑑賞後のスッキリ度」だ。

 まず①について。

「大衆がトムに求める役柄として、端的にイメージしやすいのは『トップガン』のマーヴェリックや『ミッション:インポッシブル』のイーサン・ハントといったヒーロー的でカッコいい男ですよね。トムを見ると俺も頑張りたくなるとか、かっこいいトムを見たいと求める人たちに、この企画はどう見てもあんまり響かない」(前田氏、以下同)

 身も蓋もない。ただし、トムのキャリアにおいて「スカッとする」映画以外への出演は珍しいことではないという。

「役柄がヘンテコな映画は、別に初めてじゃないんですよ。たとえば1999年の『マグノリア』では女性蔑視で、自己啓発の怪しい講師の役。かなりチャレンジングな役でしたが、アカデミー賞候補(助演男優賞)にもなりました。その数年後には『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(2008)にて、ハゲで肥満体型でものすごいパワハラ気質という映画プロデューサー役を演じました。この時も、イメージギャップで話題になりましたが、本人はノリノリで、いろんな意見を自分から出したとか。本人は結構ふざけた役が好きなんですよね」

 トムのヒストリーを踏まえると、肉体派としてだけではなく、振り幅の大きい演技で観客を驚かせたいという思いもあって挑戦的な姿勢を持ち続けても不思議はない。「長年のファンなら、トムが時どき“ご乱心”な役をするのを知っている」(前田氏)。そのうえで、受け入れられない人が一定数いることに、前田氏は「②鑑賞後のスッキリ度」に言及する。

 本作のストーリーは、多層的で複雑な構造を持つ。前述したあらすじは“表向き”のものに過ぎず、“真のストーリー”は中盤で姿を表すのだ。

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映画『DIGGER/ディガー』より

(この先、映画本編のネタバレを含みます)

 序盤は、巨大な権力を握る男・ディガーが、環境破壊や気候変動を招いたことで追い詰められていく様や、世界の危機に瀕しながらも指を咥えて見守る権力者たちの“能無しっぷり”を風刺する展開が繰り広げられる。しかし突然、我々観客が見ていた「石油王・ディガー」の物語が、実は映画の中の世界で上演されている「劇中劇」だったと明かされる。しかも物語が進むにつれて「ディガー」が作中世界に実在した人物であり、彼が引き起こした世界の危機も、すでに起きた出来事だったことが分かる。つまり、映画の登場人物たちは全員、その災厄を生き延びた人々だったのだ。かくも現実と虚構が重なり合う構造は、見る人によっては難解に感じるだろう。

「ディガーの過失により、世界が取り返しのつかない状態に変わってしまったと突きつけられる。希望のないラストに、不満をおぼえる。劇中でディガーに向けられる人々の罵声は、現実のトランプ政権批判のようでもあり、メッセージ性が強すぎて押し付けがましいと感じた人はいるようです。一方で、アメリカ映画で政治ネタはやり尽くしている部分もあって、テーマ自体に独創性がなく、エンタメ作品として希望を提示しないというのが不満をおぼえる大きな理由でしょう」

 ただし監督は、当初から「ハッピーエンド」も、「解決法」も提示する気はない。

《私たちにとって中心となった問いは、次のようなものでした。
「もし人類が、人類そのものに降りかかったらどうなるのか?」
ディガーが闘っているのは、私たち全員が闘っているのと同じ戦争です。
それは、自分自身について自分が語っている物語と、そこへ絶えず割り込んでくる現実との間の戦いです。》(プロダクションノートより)

 前田氏は、「トムのインパクトばかりに気を取られていると、最初から張られた伏線に目が向きにくく、なんだか長くて退屈に感じてしまう」と指摘。「映画に対する『読解力』が求められる」と、本作の“面白さ”を俯瞰する。

トムによる「圧巻の10分間」

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映画『DIGGER/ディガー』より

 読み解き、考えることを「面白い」と思えるかどうか。それを提示する本作は、自分の立場が酷評か絶賛かによって、どちらのタイプかを占う試験紙のようでもある。

「ラストを含めて『仕掛け』が入れ子になっている作品なので、コアなファンはそのテクニカルな部分に脱帽した。実験的な作風が好きな人にはハマるでしょう。ライトな映画ファンや、エンタメ大作が好きな観客が見ると、あまりにテーマが読み取りづらいので、『ラストって結局どういう意味なの』となってしまう。

 解釈しがいのある結末だとは思います。作中の大衆は『ディガー(劇中劇)』を見てガス抜きをしているだけで、本気で批判精神を持っているわけじゃない。エンタメだと思っているものに没入していても、現実には壊れた世界があって、外にはディストピアが広がっている。それでも結局一般大衆は淡々とそれに適応しながら過ごすほかない。油断も隙もないメッセージを叩きつけてくる」

 そのメッセージを逆説的に浮かび上がらせるのが、トムによる約10分間の演説シーンだ。ディガーは、災厄の責任を追及する欧州の政治指導者たちに対し、“石油を求め、その恩恵を享受してきたのはあなたたちではないか。自分はその需要に応えただけだ”と反論する。身勝手な責任転嫁でありながら、便利な暮らしを手放さず、彼だけを悪者にする人々の矛盾も突くその言葉は、ラストで荒廃した日常へと戻っていく劇中の観客、そしてディガーを笑っていた私たち自身にも跳ね返ってくる。
 
「災厄とは、私たち人間です」と言う監督は、不条理で、切迫していて、ばかばかしい現実から逃げない。プロダクションノートによれば、監督が脚本に費やした月日は実に9年。その間、演説のセリフだけで約70種類ものパターンを書いたという。そしてトムは映画を支える「心臓」として、物語に血液を送った。

敗因は「宣伝ポスター」にもアリ

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映画『DIGGER/ディガー』より

 興行的な成功に結びつかない要因の一つとして、前田氏は「宣伝の難しさ」を挙げる。『DIGEER』が突きつけるのは、「映画の内容に笑っているだけの我々も、問題を先送りにしている愚者だ」という辛辣なメッセージである。風刺を風刺する──誰かをスカッとさせるためでなく、現実をそっくり映し出す試みのためのコメディなのだ。

《私たちは、現実が与えてくれるのは出来事であり、その出来事の中に自分たち自身の姿を見いだせるようにするのは想像力なのだと学びました》(プロダクションノートより)

 おそらく勧める人のほとんどは、「説明するのが難しいけど、とにかく映画館で見て」というだろう。映画館でこそ強烈な体験を味わえるためだが、それを予告するのはなんとも難しい。実際、公開3カ月前に発表された予告編は、約3分半中2分半は歴代出演作の映像がモンタージュされたもので、本編の映像はたった30秒のみ。しかもトムの顔はまともに映されず、映画の内容がほとんど伝わってこないもの。特性上、内容をかいつまんで説明することが難しいからだろう。

「ポスターが日米ともにイマイチ。スコップを手に持って地球に足を乗せたトム・クルーズの姿だけでは、情報が少なすぎる(笑)。世界が終わるか終わらないかというスペクタクルな内容なのだから、そこを前面に出してもよかった。もちろん多くを語らず、観客を驚かせたかったという狙いはあるでしょう。でも、今は映画をクチコミだけで広げるのが厳しい時代。そこへ『後味が悪い』という感想が、アメリカで先に広がってしまった。そうなると、後から公開された日本では二の足を踏む人が多くなって当然です。もったいない映画だと思います」

 事前情報が溢れる時代、何もわからない中で、とにかく映画館で見てみることの大切さを思い出させてくれる作品ともいえそう。興収面を含め、今後、トムの隠れた名作として歴史に名を残していくことは間違いない。

ブラピ&ワンコの絆に涙

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映画『DIGGER/ディガー』より

(取材・文=町田シブヤ)

『DIGGER/ディガー』
監督:アレハンドロ・G・イニャリトゥ
製作:アレハンドロ・G・イニャリトゥ、メアリー・ペアレント、トム・クルーズ
製作総指揮:ジョシュア・グローデ
出演:トム・クルーズ、リズ・アーメッド、ジョン・グッドマンほか
10月9日(金) 全国ロードショー
(C) 2026 WBEI and Legendary
https://digger-movie.jp/

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2026/11/05 18:00