日曜劇場『VIVANT』、風呂敷広げまくり→「完結は劇場で」説が急浮上で思い出される『SPEC』の悪夢とテレビ局の「悪癖」

劇場で“本当の完結”か──。現在第2シーズンが放送中の日曜劇場『VIVANT』(TBS系)に「最後の最後は映画館で」となるという噂が視聴者をソワソワさせている。
この時代にドラマ視聴率15%は「すごい」部類
日本を陰で守る自衛隊直轄の非公認諜報組織「別班」の活躍を軸に、謎が謎を呼ぶ壮大な広がりで話題を席巻した第1シーズン(2023年7月期)は、回を重ねるにつれ視聴率が右肩上がり。最終話は世帯平均視聴率19.6%(関東地区/ビデオリサーチ調べ、以下同)と、同年の民放ドラマで最も高い視聴率をマークした。SNSでは考察合戦が活発となる一方で、じっくりと配信で見る人も多数。民法公式テレビ配信サービス「TVer」ではトータル再生回数5481万回を記録し、2023年7月〜9月期の全テレビ番組で1位に輝いた。
【『VIVANT』第1シーズンの世帯平均視聴率】
第1話:11.5%
第2話:11.9%
第3話:13.8%
第4話:13.4%
第5話:14.2%
第6話:14.3%
第7話:14.1%
第8話:14.9%
第9話:14.9%
第10話(最終回):19.6%
※全10話の平均世帯視聴率:14.3%
そして今年7月26日、第10話から続く第2シーズンが放送開始。初回(第11話)で平均世帯視聴率18.8%と好調スタートを切ると、「TVer」では配信8日間で887万回再生を突破。同サービスで配信された全番組における単一エピソードの歴代最高を更新した。
続く第12話以降の視聴率はやや低下したものの、それでも15%超をキープ。1ケタ視聴率が当たり前となった令和の今、コンスタントに15%をマークするドラマは「めっちゃいい」レベルだ(ちなみに同じ日曜日に放送されているNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』は、第35回までの世帯平均視聴率が11.3%である)。前半は9月13日放送分(第18話)で終了、「第20回アジア競技大会/2026愛知・名古屋」生中継による2週の放送休止を挟み、後半は10月4日(第19話)~11月8日(第24話)まで放送される。
【『VIVANT』第2シーズンの世帯平均視聴率】
第11話:18.8%
第12話:16.4%
第13話:15.1%
第14話:16.6%
第15話:15.2%
第16話:15.0%
第17話:17.1%
第18話:15.0%
さて最終回まであと6回。放送に合わせ、作中で粛清された悪役たちが物語の進行を凝視し語り合う公式スピンオフ番組「VIVANT 悪役会議室」(TBSラジオ・YouTube生配信/毎週日曜23時~)も盛り上がるなか、第2シーズン終了直後、“本当の完結”となる「劇場版」が登場するという説が急浮上した。
TBSからの公式発表はまだないものの、8月25日配信の「東スポWEB」によれば、12月4日全国公開予定で調整が進んでいるという。最終回からわずか1か月での劇場版公開という速攻スケジュールの裏には、ファンの熱が冷めないうちに――という制作陣の思惑があるだろうが、『VIVANT』を熱心に追いかける視聴者にとって、どうやら歓迎一色ではないようだ。
「続きは映画館で」に渦巻く不満
もともと『VIVANT』は、モンゴルやアゼルバイジャンといった海外での大規模ロケを敢行し、堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、二宮和也ら主役級の俳優を揃えるなど、地上波ドラマ界では規格外のスケールで制作されてきた。海外ファンの獲得にも意欲的で、第1シーズンはNetflixを通じて190以上の国と地域で配信。製作費は、一般的な1時間ドラマで1話あたり約4000万円を相場とするところ、1億円前後を費やしたと報じられている。そうした背景から、劇場版が作られること自体に大きな違和感はない。
問題は「劇場版で完結すること」だ。Xでは〈映画映えする作品だし楽しみ〉といった期待のほか、第2シーズンでは新キャラが7人投入されるなどもともとの複雑さに拍車がかかっていることから、“伏線回収”は映画まで引っ張られることには納得の声もある。
一方で、この流れに〈ドラマで完結してほしい〉といった不満や批判は多く、なかでも〈まじで映画で残念な感じにだけはならないでくれ、SPECのように……〉〈VIVANT映画化とか終わったなマジで。(中略)SPECの流れ思い出すわ〉など、劇場版完結でファンを悪夢に陥れた『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』(TBS系/2010)の名が散見される。
ドラマ不況のなか、やっと社会現象レベルの話題を集めている『VIVANT』にとって、この選択は吉と出るのか、凶と出るのか。ドラマ評論家・吉田潮氏と考える。
テレビ局が「完結編」を映画で作る理由
地上波ドラマの物語を映画で完結させる手法は、決して珍しいものではない。代表例の一つが『LIAR GAME』(フジテレビ系)だ。
同作は、第1シーズン(07)が土曜23時台という深夜帯でありながら、平均視聴率11.4%超えとなり、第2シーズン(09〜10)で火曜21時のゴールデン帯へと昇格。2クールかけて「ライアーゲームトーナメント」1回戦〜セミファイナルまでが描かれると、最終決戦の「ファイナルステージ」は劇場版へと持ち越された。そしてドラマ最終話から2カ月後に公開された劇場版は興行収入23.6億円を突破。きちんと物語に決着をつけたことでファンから一定の評価を得たものの、当時、“続きは劇場で”という手法には賛否があった。
なぜテレビ局は、ドラマ版の「続き」をわざわざ劇場版で作るのか。
「大前提として、誰でも無料で見られる地上波ドラマの放送で局が収益を上げるのは難しい。けれど、映画化すれば(興行収入があるので)多少なりとも売上を見込めます。そうした映画(劇場版)は設定や物語がドラマの延長線上で描きやすく、ゼロから作るほどの労力もいりません。『これ、映画化する必要ある?』みたいなものが量産される背景には、省コストで利益が望めるという局の目論見があるわけです。さらに劇場版がヒットすれば、そのシリーズがどんどん作られる。最近だと『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)がその例です。
そういう事情があるなかで、ドラマの完結をあえて劇場版にもってくる作品には、特徴があります。簡単にいえば、視聴者に『結末が気になって仕方がない』と思わせられるような、危機的なもの、推理もの。『トリック』『ドクターX』『緊急取調室』などで、『SPEC』もそうですね」(吉田氏、以下同)
劇場版でファンを置き去りにした『SPEC』シリーズ
ただしラストを劇場版に託した結果、ファンはむしろ混乱し、後味がスッキリしなかった作品が前述『SPEC』だ。
IQ201の天才刑事・当麻紗綾(戸田恵梨香)と無骨な刑事・瀬文焚流(加瀬亮)が、特殊能力=「SPEC」を持つ者たちが関わる事件に挑むという、刑事ドラマ×超能力バトルの異色作。視聴率は最高数値が最終回の12.9%とそこまで高いわけではなかったが、漫画・アニメ的なケレン味の強い設定と個性的なキャラクター、鬼才・堤幸彦監督による独特の映像演出が熱狂的なファンの支持を獲得した。
反響を受ける形で、2012年4月1 日にはテレビシリーズの続きを描いたスペシャルドラマ『SPEC~翔~』が放送。このサブタイトルは「起承転結」の「承」をもじったもので、さらに4月7日からは「転」にあたる劇場版『SPEC~天~』が公開、興収23.9億円の大ヒットとなった。立て続けとなるドラマ→映画制作には、TBSの「この機を逃すな!」という鼻息の荒さを感じるが、勢いそのままに翌2013年、シリーズ完結編となる『劇場版 SPEC~結~』が前後編(「漸 (ゼン) ノ篇」、「爻(コウ)ノ篇」)で公開されると、評価は大きく割れてしまったのだ。
フィナーレまで一気に突っ走ったかにみえて、ドラマ版の「一見すると不可思議な事件の裏に、特殊能力を持つ者たちが潜んでいる」という基本設定はどこへやら、物語は突如「人類滅亡」を巡る話へと転換。さらには「先人類」「パラレルワールド」「ガイアの意志」など、小難しい新設定を次々と投下し、風呂敷を広げに広げた挙げ句、それを一気に畳む超展開を見せた。かくしてドラマ版の面白さを求めていた層は置き去りにされ、なんとかついていこうと頑張った観客も、最終的には口をあんぐり開けたまま劇場を後にした……という。
「『SPEC』は、ドラマの時点では面白かったんだけど、劇場版はパラレルワールドを思わせる演出ばかりで困惑したという声や、謎が残されたまま終わっちゃって、後味が悪いという声も多かった。あちこちに話を広げすぎて、完結としての劇場版『SPEC』は支離滅裂、ドラマの設定を使って制作陣がめちゃくちゃにしたともっぱらの酷評ですよね。
だって、『劇場版SPEC~結~』で急に向井理と大島優子が出てくるんだもの。ドラマを見ていた人たちからしたら、『どなた?』と思って当然だし、自分のものじゃなくなったという感じになっちゃった。こういう展開の裏側には、人気俳優を投入してもっと新しいファンを呼び込もうとか、話題の裾野をさらに広げようとか、大体局の下心があるものです。脚本家も、最初はシンプルに超能力(特殊能力)を書きたかったのに、周囲が欲を出して、あれもこれもと取り入れていった結果、とっ散らかったのでは」
一度ヒットすると、こすり倒す「テレビ局の悪癖」
とはいえ興行面は前編27.5億円(シリーズ最高)、後編20.6億円と好調。そんな“金のなる木”を局が放っておくはずもなく、完結を迎えた後もIPとしての活用は続いた。2018年、動画配信サービス「Paravi」のオリジナル作品として新シリーズ『SPECサーガ完結篇「SICK’S」』が始まったのだが、吉田氏は、「一度ヒットしたタイトルをあちこちでこすることで、それぞれの集客を見込む」戦略の罪深さに言及する。
「『SICK’S』は、2018年4月1日にローンチしたTBS、日本経済新聞、テレビ東京、WOWOWら6社が共同出資&運営する新サービス(当時)『Paravi』の第1弾として作られたんですよね。3部作で、第1作『恕乃抄』は同年4月~、第2作『覇乃抄』は2019年3月~、第3作『厩乃抄』は2019年9月~独占配信されました。
ユーザーを獲得するための施策として、ヒット作をこする企画だったことは明らかです。ただここまでいくと、もはや脚本家の手を離れてしまう。だって、シリーズ脚本の西荻弓絵さんは、『SICK’S』では“原案”にとどまっていますからね……。面倒で『好きにしてください』という感じだったかもしれない。配信ドラマは木村文乃と松田翔太が主演で、本筋のメインキャストだった戸田恵梨香と加瀬亮はもはや出てこない、もともとの『SPEC』を知っている人からすると全く別物の話です。“船頭多くして船山に登る”という状況で、『SPEC』という使い勝手のいい箱舟にみんなが乗っかって、沈没していった」
では、『VIVANT』において、「ラストは劇場版」への期待感は?
「(もし劇場版があるなら)二宮和也は、映画要員なんじゃないかなと思っています。というのも、今シーズンであんまり出ていないんですよね。特に二宮は、地上波より映画で集客力を発揮するタイプでもありそう。物語としてもまだまだ謎があるし、今のままでうまく終わらせられる気がしないから、劇場版は現実的な線ではあるでしょう。
『SPEC』と違うのは、『VIVANT』は福澤克雄氏というプロデューサーが原作も担当しているドラマだということ。特に第2シーズンは脚本も担当しています。その意味で、責任をもって回収してくれると期待しています!」
ラストスパートに向け、公式SNSもせっせと話題作りに薪をくべている『VIVANT』。散りばめられた伏線っぽい何かには、もう追いきれない! という離脱気味の悲鳴も聞かれるが、どこまでファンを引っ張れるか、そして納得させられるのか。
(取材・文=町田シブヤ)