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桐蔭横浜大学・石河睦生の「都市伝説になるかもしれない人たち」#9

超音波ミストコンサルタント・坂本 真悟「性産業から舞い込んだ禁断の一体化願望」

超音波ミストコンサルタント・坂本 真悟「性産業から舞い込んだ禁断の一体化願望」の画像1
石河さん(左)と坂本社長(右)の決して怪しくない対談2

「制御システム」や「電子機能システム」を専門とし、特に超音波工学と圧電材料学に精通する桐蔭横浜大学専任講師・石河睦生が、“なぜか不思議と幅広い”ネットワークを活かし、「都市伝説になるかもしれない」事業家・アーティスト・科学者を紹介する本連載。

 その第9回も超音波ミストの魔術師、株式会社星光技研・代表取締役の坂本真悟さんに登場いただいています。超音波を駆使してミストを作り出す日本唯一の企業・星光技研が持つ技術は、さまざまな業界から注目を集めています。後編となる本稿では、匂いや染色からSMクラブまでーー!? そのポテンシャルについて伺いました。

前編はこちら

子供の頃から何でも分解…文理のハイブリッドが生み出した異端なプロダクト

石河 前編では坂本さんのこれまでの活動を通して、超音波ミストがエンタメ分野のいろんなシーンで活用され、さらに香りの演出などにも使えるポテンシャルのある技術だということを伺いました。

 そんな坂本さんが現職に至ったのはお父様の会社を継がれたからということですが、ご自身としては最初から超音波をやろうと思っていたのですか? または、初音ミクとのコラボなどを見ると、もとは美術系で行こうと思われてたんでしょうか。

坂本 もともと、子供の頃から変わった趣味があって、家の中のものを片っ端から分解してしまう、とんでもない子供でした。ばらしては戻せなくなり、親に怒られる、ということを何度も繰り返していましたが、その癖は今も抜けていません。今でも、新しく買ったものはだいたい分解して、写真を撮ったり、構造を観察したりしています。

 子供の頃からパソコンが好きで、プログラムを組んだり電子工作をしたりしていたので、自然と理系に進もうと考えていました。でも、「ちょっと待てよ」と思ったんです。このまま理系に進んでしまったら、面白みに欠けるんじゃないかと。それで最終的には、私立の文系学部に進学しました。

 理系の知識もあれば、文系の考え方もわかる。さらに、音楽をやったりアートが好きだったりして、いろいろなことを“ちょうどいいバランス”でやってきたことが、今の自分につながっているのだと思います。

 個人的には、いわゆるゴリゴリの理系出身の人は「性能は素晴らしいけれど、面白みに欠ける商品」を作りがちだと感じています。一方で、文系専門の人が手がけると、「発想は面白いけれど、実用性に欠ける」ものになることが多いように思います。

石河 それは、日本が抱えている課題そのものですね。日本のエンジニアは、技術にはこだわるし再現性も大事にするけれど、販売面では海外に勝てない。結局、下請けのポジションでは強いけれど、そこから上流に上がっていくには、クリエイティビティが必要なんです。そこは、日本ではむしろ文系の人のほうが強い気がします。

 でも、そもそも海外では理系・文系という区別自体があまり意味を持たないですよね。坂本さんみたいに、理系もできるし文系もできる、そういうスタイルが主流というか。


 海外では、たとえば政治家にも理系出身者が多いですよね。そう考えると、日本と海外では、「理系」の捉え方自体が違う気がします。日本では、理系といえばその分野にだけ理屈っぽくて、技術オタクみたいな人を指すことが多い。でも海外では、理系とは「全体を論理的に考察できる人」とされているように思います。日本だとエンジニアはたくさんいるけれど、サイエンティストや哲学者は少ない印象ですし、それはそういう文化的な背景もありそうです。そんなお話もまた追々。

 それと日本では文系の人たちは資金の回し方やお金の使い方に強くて、実際にお金を持っているのは文系の人たちだったりする。ただ、海外では論理的に考察できる人のほうが、資金を動かしている構造になっています。そこに大きな違いを感じますね。

 やっぱり、理系・文系にとらわれずに、面白いことをやる時代だと思います。ハイブリッドな要素を兼ね備えて、日本の中でとがった技術開発と応用してからの発信を続けてきた坂本さんが、現在感じている課題について伺えますか?

坂本 みなさんピンと来ないかもしれないですけど、ミストで困ってる人って意外といるんですよ。ミストを使ってなにかやりたいなとか、そういう人たちの駆け込み寺にはなりたいんですよね。だから、もっともっと面白いネタを集めて、こんなこと考えてる人がいるんだという人と一緒にミストを活用して、社会の課題を解決したり、ぶっ飛んだおもしろいことがしたいですね。

石河 「あそこに超音波ミストが使われていたんだ」というのがもっと気づいてもらえるようになるといいですよね。


サウナからSMまで!? 人間の脳を刺激する超音波ミストの応用例

石河 これまでの超音波技術も同じで、超音波が使われているかどうかは必ずしも意識されなくてよかったし、超音波じゃなくても成立する場面もありました。でも、超音波を使うことで、より良いものになる場面が確かにあって……特に、超音波ミストの応用例はもっと広がっていくと思っています。


 たとえば、ミストディスプレイ。あれは超音波じゃないと難しい。ノズル式ではできない演出ですから。我々も、こうしたプロジェクトを、坂本さんたちと一緒に進めています。

 ひとつ、公表できる例を挙げると、今、超音波ミストを使ったサウナづくりをしています。普通、サウナといえば湿度を上げるためにミストを使いますが、ここでは逆に、超微細なミストを使って“空間をドライにしていく”手法にチャレンジしているんです。これができるのは、超音波ミストか、お湯を温めた水蒸気ミストしかありません。


 ただしお湯を使う方法だと、蒸気を作り出すのに加熱しなければならないので制約が多くなってしまう。 一方で、超音波ミストなら、温度を与えずに、たとえば香り成分なども自在に一緒に飛ばせます。その特性を生かして、新しいサウナ空間づくりに取り組んでいます。

 これも変わった応用方法だと思いますが、坂本さんに舞い込んだ今までのご相談の中で、これは!というものはありますか?

坂本 うちで扱った案件のなかで、ちょっと変わり種がありまして。だいぶ前のことですが、新宿のとあるSMクラブから電話があって、「女王様の聖水ってわかります?」と聞かれたんです。最初は、何を言ってるのかと思ったんですが……。なにやらお客様が、女王様の聖水をかけてもらったり飲んだりする、というプレイはもう飽きたと。次は「聖水をミストにして、胸いっぱい吸い込み、一体化したい」という新たな欲求が出てきたらしいんです。


 変わった要望ですけど、こういう面白い話は嫌いじゃないので、すこしやってみました。もちろん、ちゃんと同意書を取った上で、安全性の確認もしました。うまくいったら面白いことになるかも……と期待していたんですが、結局ダメだったんです。何が問題だったかというと、聖水に含まれるアンモニア成分でした。ミスト化して吸い込んだお客様たちが、みんなむせてしまって……。結局、“使い物にならなかった”と連絡がきて終わりました。もう一工夫必要だったかもしれません。

石河 あははは(笑)。そういうチャレンジも含めて、めちゃくちゃ面白いですよね。普通の研究者だったら絶対にやらない。

坂本 さすがに自分自身では体験しなかったですけど、でも、応用方法としてはすごく面白い方向性だったと思います。ミストって粒が超微細なので、空気中に拡散されやすいし、体内にもスムーズに入っていく。ある意味、最高のデバイスだったかもしれません。

石河  自分にとっては謎ですが健康法とかでもおしっこを飲む人もいますよね。体に入っちゃうとやっぱり危ないんですね?

坂本 アンモニアについては安全性を確認しましたが、たとえばアルコールは危険です。ウイスキーでも、グラスで飲むぶんには大丈夫ですよね? でも、同じ量をミストにして吸引すると──肺から直接、血管に入ってしまう。そうすると1分も経たずに命に関わる事態になります。

石河  なるほど、それは危ない。水以外の成分をミストにする場合は、相当慎重に考えないといけないわけですね。そういう知見も必要です。一見、超音波ミストは簡単に扱えそうだけど、プロに相談してからの方が良いのはそういうことがあるからです。

坂本 そうです。だから最近は、安全に吸引できる成分かどうか、きちんとエビデンスを取ってから対応するようにしています。

石河 前回少し触れた染色の話に関連するんですが、たとえば藍染めに使う“藍”──あれもものすごく高価な染色液なんですよね。京都のとある寺の奥深くでしか取れないような、超高級な染色液があるとします。年にほんのわずかしか採れなくて、バケツ一杯分しか手に入らない。そんな貴重な液体で染め物をする場合、通常だとTシャツ5〜6枚も染めたらもう終わってしまうんです。でも、これをミスト化するとどうなるか──。液体が超微細な粒子に変わるので、まず“表面積”が大きくなります。つまり、液体の表面積が格段に広がることで、反応効率がすごく良くなるんです。


 さらに、液体の状態だとバケツ一杯の体積しかなかったものが、ミストにするとこの部屋全体くらいの空間に広がる。体積も圧倒的に稼げるわけです。だから、元々は5〜6枚しか染められなかったTシャツが、100枚でも200枚でも、多少色の濃淡はあるかもしれないけれど、広く染めることができるようになるんですね。

 このようにミストにすることで、超高価な液体資源をものすごく効率よく使えるようになるんです。さっき出たアンモニアや薬の話とも共通しますけど、超希少な成分や薬品でも、ちょっとずつ飲んだり使ったりするより、ミスト化してみんなで共有する方がコスト的にも断然合理的になる技術なんです。

水が少ない国で効率的な植物栽培が可能、害虫対策も◎

石河 そういう世界で坂本さんは、他社が手を出さないいろんな面白いことを、駆け込み寺のように引き受けていく感じですね。

坂本  ミストは映像を投影するだけじゃなくて、さまざまな形で空間の演出に使えます。実は、某テーマパークのアトラクションの演出でも使っていただいています。ほかにも東京都立公園の池に雲海を作ったりとか、京都の平安神宮や二条城といった国宝級の建築物で、取り扱いが大変むずかしい場面でも、ミストの場合はお水ですから環境負荷を与えずに演出ができます。音楽ライブなどで使うスモークマシーンって、ベタベタしてしまうなど環境負荷が高いので、そういう貴重な場所では使えませんから。

 そういうところで最近は、神社仏閣の仕事を頑張っていまして、東京都江東区の地下にある潮見龍宮社という変わった神社で、雲海参拝というのをやっていまして。神秘的な雲海の中を通っていって、参拝するという神社の演出もお手伝いしています。

石河 本当にいろいろやられていて、ものすごい可能性がありますね。

坂本 そうですね。今はエンタメ向けの演出に力を入れていますが、たとえば超音波ミストを農業分野にも応用していきたいと考えています。

 日本は比較的水資源に恵まれていますが、世界には水が非常に貴重な国もたくさんあります。当然、水がなければ植物は育ちません。各地で深刻な問題も起きていて──たとえばトルコでは、地下水を汲み上げすぎた結果、地面に直径何十メートルもの巨大な穴(陥没孔)が開いてしまうような事例も出ています。こうした状況を見ていると、できるだけ水を使わずに作物を育てる仕組みが、今後ますます求められるようになると感じるんです。

 そこで、超音波ミストを使った『ミスト栽培』の仕組みを考えています。植物工場では一般的に、栽培床に大量の水を張って育てますが、この方式では、根の部分に直接ミストを吹きつけることで育てることができる。これにより、通常の栽培方法と比べて90%以上の節水が可能になります

石河 それは私も15年ほど前に、はい、研究でトライしてみたことがあります。

坂本 さらに超音波ミストに肥料などを含ませることにも取り組んでいきたいと思っています。 養分をミスト化して、効率よく植物に届ける仕組みも面白いなと。それから、植物工場だけでなく、普通のハウス栽培などでも害虫が共通の課題です。通常は農薬を使って駆除しますが、農薬を使ってしまうと、海外への輸出が難しくなることも多いと聞いています。それに、消費者としても『できるだけ農薬は使いたくない』という気持ちがありますよね。

 そこで、超音波ミストの活用が考えられます。ミストを使うと、ミストが羽に付着して、虫が飛べなくなってしまうので、虫が寄りつきにくくなります。さらに、ミストにある成分を少しだけ加えると──これは農薬ではないんですが──虫がミストの中で呼吸できなくなり、窒息してしまうんです。 つまり、農薬を使わずに窒息殺虫ができる。こうした仕組みも、すでに技術として実現できています。

石河 普通の液滴では虫に付着しにくいですが、超音波ミストは粒が細かいため、虫にも付着しやすいんです。結構小さい虫にも対応可能でしょう。

坂本 夜に自動でスイッチが入ってハウス内に充満するようにしておいて、農家の人が朝起きてハウスに行った時には、ちゃんと殺虫が終わってる。農薬を使わず、省力化もできます。

石河  使い方の可能性だけでなく、お客さんになりどころがいっぱいあるってことですね。超音波の技術はまだなかなか知られていない面がありますが、波及していくのには、適材適所で使われていくべきものばかりです。坂本さんのような方が開拓者としてさまざまな使い方を開発して、他の方にも教えたくなるようなお仕事をしていかれるとさらに波及していくと思います!

坂本 加湿器屋さんは山ほどありますが、いろんな液体をミストにして社会課題を解決するのはうちだけかもしれないですね。超音波ミスト自体は機械さえあれば誰でも作れますが、弊社はその出し方の工夫に関してのノウハウがあります。たとえば地を這うようにしたり、床面にミストを貯めたりとか、そういうことは、誰でもできるのではないと思っています。

石河 そこがまた、エンジニアリングの大事なところですよね。

坂本 これは20年ほどのさまざまなノウハウが溜まっていますので、他社さんも簡単には追いつけないと自負しています。

石河 もし「こんなことに使いたい」というのを思いついた方、試してみたい方は星光技研さんにお問い合わせください!

(構成=石河睦生)

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(プロフィール)
■坂本 真悟(さかもと・しんご)
株式会社星光技研代表取締役社長。超音波ミストコンサルタントとして活動し、エンターテインメントの演出を手掛ける。その演出は多岐にわたり「世界水泳福岡2023」(AbemaTV)『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- Rule the Stage -track.4-』『ラゾーナ川崎プラザ入口 アイキャッチ』などさまざまなエンタメシーンで採用されている。また同社の技術はエンタメシーン以外でも活用され、工業やサービス業、農業など多様な用途は多ジャンルにわたっている。

石河睦生

1976年1月、山梨県生まれ。博士(工学)。桐蔭横浜大学講師。自由を勘違いしていた19歳の時、祖父が亡くなる前に私に言った。「睦生、人生は短い、やりたいことをやれ」と。そうかと心に決めて、憧れていたサイエンスの世界へ飛び込もうとしたけれど、義務教育と特に中等教育で遊び過ぎてしまった時間は、それを取り返すのに相当の時間がかかった。いや、いまだに影響は残っている。しかし、遊びにより人間関係の構築や“さまざまなこと”を企画するのことは出来るようになっていたため、まさに都市伝説の本流、フリーメイソンのグランドマスターや、有名作家、経営者、富豪たちまで幅広い方々との交流を楽しめてきた。それと同時に超音波の理解と活用というライフワークテーマを基に、世に喜んで頂けるであろう新しい“こと”作りとその提案も終盤に差し掛かるところまで来た。なんだか色々なことが共鳴していて、今は残響の中にいる。

石河睦生
最終更新:2025/05/08 18:00