「メルカリ」の登場で変わった「中古」の常識――3.5兆円「リユース市場」の現在地

中古品といえば、かつては「新品を買えないから仕方なく選ぶもの」というイメージも強かった。
ところが現在は違う。買うときから「いくらで売れるか」を考える人もいる。それだけではなく、あえて昔の商品を探したり、品質が保証されたリユース品を選んだりする人も増えている。
「新品にはない個性がある」「価格と価値のバランスがいい」「廃番になった商品が欲しい」「使い終わったら再び売れる」など、中古品を選ぶこと自体が、合理性や趣味性を伴った積極的な消費行動になりつつあるのだ。
「中古でもいい」から「あえて中古がいい」へ
東京商工リサーチが2026年5月に発表した「リユース業」業績動向調査によると、全国で中古品販売などを手がける251社の最新期の売上高合計は5775億4600万円。前期比11.2%増となり、4期連続で増収を記録した。利益合計も159億9400万円で、前期比5.7%増だった。
環境省の調査では、2024年の国内リユース市場規模は3兆4986億円。物価高によって実質賃金が伸び悩み、節約志向が強まったことに加え、中古品への抵抗感が薄れたことも市場拡大を後押ししている。
さらに、円安によるインバウンドの増加も追い風だ。かつての「メイド・イン・ジャパン」のように、現在は「ユーズド・イン・ジャパン」がひとつのブランドになりつつある。
こうした動きを「物価高だから中古品が売れている」だけで説明するのは不十分である。消費者にとって、中古品そのものの「意味」が変わっているからだ。
その変化を象徴する存在のひとつが、フリマアプリ「メルカリ」だ。同サービスが登場したのは2013年。翌年にテレビCMを開始したことをきっかけに利用者が急増し、同年には500万ダウンロード、2015年には1000万ダウンロードを突破。わずか1年半ほどで、フリマアプリを代表するサービスへと成長した。
「メルカリ」のサービス開始当初と現在では、消費者の「所有」に対する考え方そのものが大きく変わった。メルカリ広報部の担当者は、こう語る。
「『メルカリ』が誕生した当初は、フリーマーケットの場は限られており、利用に対しては物理的・心理的な両面でまだまだハードルが高く、一般的ではありませんでした。しかし、サービス提供開始から13年が経ち、『所有で完結する』から『使い、手放し、次の誰かに渡す』という循環の選択は、一般的になったと感じています。この価値観の変化は数字に顕著に表れていて、この1年間だけで約2.7億件の取引が生まれました。これは1日換算で約74.5万件、1秒あたり約8.6件のペースにも上り、『使い終わったら売る』という選択が、ごく自然な行動として日常に組み込まれていることを表していると言っても良いと考えています」
「メルカリ」をはじめとしたフリマアプリやオークションサイトが市民権を得る以前は、中古品の価値を知るには専門店へ足を運び、店員に査定してもらう必要があった。
それが今では、商品の画像や出品価格、実際に売れた価格、出品者の評価などをスマートフォン上で確認できる。「価値があるのか分からない」モノでも、検索すれば相場を知ることができる。
自分で中古品を「売る側」になった経験も、消費者の意識を変えた。不要だと思っていた服が数千円で売れる。昔遊んでいたゲームが思わぬ高値になる。捨てるつもりだった商品を欲しがる人がいる。
「メルカリ」などが変えたのは、「中古品の売り方」だけではない。「モノは一度誰かが買ったら価値が失われていく」という感覚そのものを変えたのである。
買う前から「売る値段」を考える時代へ
また、近年は商品を購入する段階から、「将来いくらで売れるのか」というリセールバリューを意識する人も増えている。
「メルカリ」が2023年に実施した「世代別の消費行動と資産認識」に関する調査では、フリマアプリ利用者の52.4%が「新品購入時にリセールバリューを考える」と回答。Z世代では59.1%に上った。今後の物価上昇を考えれば、この傾向はさらに強まっていくとみる。
「この調査から現在までの3年間で、社会的な動きとして物価上昇などもあり、この動きはさらに加速していると考えています。こういった背景から、モノに対して『使用期間中の自分にとっての価値』と『手放した後の誰かにとっての価値』を同時に考える、所有をより能動的にマネジメントする意識の変化は確実にあると考えています」(同担当者)
さらに興味深いのは、「古いこと」がマイナスではなく、価値そのものになる商品が増えていることだ。
レコード、ゲーム、楽器、書籍など、かつては「型落ち」「時代遅れ」と見られていたものが、数十年後にヴィンテージとして再評価される。
特に70~90年代の日本製品では、当時は海外ブランドほど「憧れ」の対象ではなかったものが、年月を経て品質や独自性が再評価されるケースも出ている。
そうした価値観の変化は、「メルカリ」の世代別データにも表れている。10~20代では、出品・購入ともに「アイドルグッズ」が1位で「タレントカード」も上位。30代ではファッションアイテム・トップス、キャラクターグッズ、ポケモンカードなどが目立つ。一方、40代以上でもトップスが1位となり、60~70代では「バッグ」や「文学・小説」などが上位につけている。
「面白いのは、シニア層にとっては『もう要らない』モノが、若者にとっては『あえて欲しい』レトロアイテムとして循環していることです。レトロゲーム機・Y2K平成レトロ・レコード盤・カセット/MD/VHS・ガラケーの5カテゴリーだけで、この1年間に約669万件の『世代をこえたバトン』が生まれています。世代を問わず、それぞれの『好き』が循環するマーケットプレイスに育ってきています」(同)
この構造がある限り、リユース市場は新品市場の単なる代替ではなくなる。むしろ、中古市場でしか出会えないモノを探すこと自体が、消費の楽しみになる。
他方で「中古だから面白い」という層だけではなく、新品価格の上昇を背景に、より実用的な理由でリユース品を選ぶ人も増えている。とりわけスマートフォンやブランド品のような高額商品で重要になっているのが、「品質への安心」だ。広報部の担当者は、リファービッシュ品や真贋鑑定済み商品のニーズについて、次のように説明する。
「この現象は大きく2点を背景に高まっていると考えています。第一に、新品価格の高騰です。外部調査によると、スマートフォン市場ではAI需要の拡大に伴うメモリ価格の急騰を背景に、2026年の平均販売価格は前年比13%の上昇が予測されています。また、ブランド品についても2024年の値上げ幅は平均10%強となっており、価格はコロナ禍前の2019年と比べて1.5倍以上に達しています。その結果、消費者の間では、新品に代わる合理的な手段を求める動きが強まっています。第二に、グローバル市場において『整備済み製品』や『認定リユース』といった、『プロが品質を保証するリユース品』が急成長していることです。こうした商品群は、新品・中古に続く“第3の市場”として存在感を高めており、一次流通を含む大手プレイヤーの参入も加速しています」
「メルカリ」は7月14日から、高品質なリユース品を扱う新サービス「m department(エムデパートメント)」を開始した。同サービスでは、厳正な審査を通過した専門事業者が、検査、修理、クリーニング、真贋鑑定などを行った商品を販売する。現在、整備済み製品や真贋鑑定済みブランド品を扱う88社が参加している。
「メルカリ」執行役員CPOの篠原孝明氏は会見で、「宝探し感覚で掘り出し物を見つけたいとき」は通常の『メルカリ』。「こだわりのアイテムを納得して選びたいとき」に使うサービスは『m department』と説明している。
「捨てる場所」から「価値を届ける場所」へ
そうしたなか、フリマアプリやネットオークションに代表される「一般消費者同士の直接取引(Consumer to Consumer)」市場の意味も変わり始めている。
「CtoC市場の最大の変化は、『個人が売る』という行為の社会的な位置づけが変わったことだと思っています。かつては『余ったものを処分する場』でしたが、今は『価値を誰かに届ける場』として認識されるようになっています。『メルカリ』では13年間で累計出品数が50億品を突破しました。これは、『個人が売ること』が社会のインフラになったことを示す数字だと受け止めていますし、今後、売り買い時の摩擦をなくしていくことで、より加速させていきたいと考えています。出品の手間、取引の分かりにくさ、品質への不安など、これらが一つひとつ解消されるたびに、循環に参加する人が増えます。テクノロジーの力でこの入口を広げていくことが、私たちの大きな課題でもあります」(同担当者)
以前であれば、押し入れから古いゲームやレコードが出てきても、その価値を知らなければ、そのまま捨てていたかもしれない。しかし、現在は商品名を検索すれば、似たものがいくらで出品され、いくらで売れたのかが分かる。専門家だけが知っていた「相場」に、一般の消費者も容易にアクセスできるようになった。
つまり、眠っていたモノに思わぬ価値が見つかり、市場に出てくる。リユース市場の拡大は、単に流通量が増えただけではなく、これまで見過ごされてきた価値が発見できるようになった現象でもある。
さらに、その買い手は国内だけではない。「メルカリ」では海外の利用者による購入も増えている。広報部によると、越境取引で特に人気なのが、日本発のIP(知的財産)を中心としたキャラクターグッズだ。
「取引件数の多い国・地域は、1位が中国、2位が台湾、3位がアメリカ、4位が香港、5位が韓国となっています。日本のお客さまが丁寧にモノを扱い、状態を正直に記載する文化は、海外から見て大きな信頼の源になっており、『日本の出品者から買いたい』という声も多く、需要の高まりに一役買っています」(同)
冒頭で触れた、まさに「ユーズド・イン・ジャパン」の信頼性である。2026年4月時点では、「メルカリ」における全取引の14件に1件が越境取引になっているという。
「国内リユース市場への影響という観点では、越境取引は『国内で需要が少ないモノにも海外で適切な価値を見つける手段』として機能しています。国内では売れにくいカテゴリーのモノが海外では高値がつくケースがあり、これはリユース市場全体の流動性を高める効果があります」(同)
また「メルカリ」でのプレスリリースによると(7月2日付)、「取扱説明書のみ」が約6万2000件取引され、古い障子や襖(ふすま)が平均8000円台で売買されるケースがある。草木灰(そうもくばい)も陶芸の釉薬(ゆうやく)原料として約7500件取引されたという。これは誰かにはゴミに見えるものが、誰かには探していた商品になるということだ。
「今後目指すのは、『価値の発見』をより多くの人が体験できる環境を作ることです。『このモノはいくらで売れるのか』『このモノを欲しがっている人がいるのか』が分かることで、捨てるのではなく循環させる選択が自然にとれるようになる。テクノロジーの力でこの入口を広げていくことが、私たちの大きな課題です」(同)
大量生産・大量消費の時代には、「新しいモノをたくさん持つこと」が豊かさのひとつの象徴だった。しかし今は、すでに世の中に存在する膨大なモノの中から、自分にとって価値のあるものを見つけることにも意味が生まれている。
リユース市場の成長は、物価高を背景とした経済現象であると同時に、「新しいもの」だけを価値としない消費文化が広がっていることを示す現象でもある。
「給料が入ったら“変な名前の支店”の銀行口座に振り込んでいます」
(取材・文=千駄木雄大)
