『プラダを着た悪魔2』前作公開から20年、LiLiCoが語る「お仕事映画ではない」“魅力”

世界的ヒットを記録した前作から20年間の時を経て、『プラダを着た悪魔2』(以下、『プラダ2』)が5月1日に日米同時公開。早速大きな話題を集め、興行収入は3日間で約9.9億円を記録するなど好調だ。
ハイファッション誌の「裏側」に迫った前作(以下、『プラダ1』)は2006年6月に米公開、同11月に日本公開。一流の現場がいかにシビアかを描きつつ、心に秘めた夢とどう向き合うかというテーマ性と、個性豊かな面々の“表”と“ホンネ”が巧みに編まれた構成で広く支持を集め、全世界の興行収入は3億2650万ドル(約375億円=当時の1ドル115円換算)超えのヒットを記録した。
映画コメンテーター・LiLiCoさんは『プラダ1』公開当時、「まさに、やりたい仕事がなかなかできていない頃だった」と振り返る。そんなLiLiCoさんを勇気づけてくれたという『プラダ1』への想い、そして『プラダ2』への興奮を、存分に語ってもらった。
ファッション業界の「表」と「裏」を取り巻く、人間の「表」と「裏」

主人公のアンディことアンドレア・サックス(アン・ハサウェイ)が翻弄される“ファッション誌の裏側”という切り口は、「働く女性のリアル」を描くうえでわかりやすい設定だった。美と華の影に潜む理想と現実、仕事とプライベート。嫉妬、欲望、向上心。それらのバランスをどうとるかは、今に通じる全女性の悩みといってもいいだろう。
「女性が夢を追う物語にみえて、(『プラダ1』の)根本にあるのは“リアリティ”なんですよね。名門大学卒でジャーナリストを目指すアンディは、片っ端から出版社・新聞社に履歴書を送付するなか、連絡をくれたファッション誌『ランウェイ』の面接へ。アンディは知らなかったものの、『ランウェイ』は権威的な雑誌で、ミランダという名物編集長がいる。そこでアシスタントを1年やればどこでも通用する、という先輩社員の言葉を信じて働くようになりますが、いかんせんアンディはファッションに疎く、最初のうちは身なりに構わない『自分』のまま……。
それがいつしか、プロ意識とはどういうことかを考えるようになり、どんどんオシャレになる。奮闘するうちに運を呼び込むようにもなる。一方で、犠牲にするものも出てくるのが、まさに『リアル』ですよね」(LiLiCoさん、以下コメント同)
アンディのポジションは、悪魔のような鬼編集長・ミランダ(メリル・ストリープ)の第2アシスタント。「あれを準備して」「この店に行って」と、唐突なうえに曖昧かつ最小限の言葉による指令は日常茶飯事。時には「出版前の『ハリー・ポッター』を入手しろ」「台風の日に飛ぶ飛行機を手配しろ」と、尋常じゃない無茶振りもある。アンディは食らいつくが、プライベートがどうしても疎かになっていく。
「お仕事映画だとか、キラキラした雰囲気が目立つ作品だけど、生身の『人間』、そして『人との繋がり』の大切さという、ものすごく根源的なことを教えてくれるんですよね。
アンディは、夢へのステップとはいえ、あまりにも負担の大きい任務と私生活の狭間にもがく。彼氏に“あなた、そういう人じゃなかったでしょ”と引かれるぐらい、自分を見失ってしまう。でも、彼女にとっては命がけ。アンディが友人や彼氏とのプライベートな人間関係と、職場での人間関係を行ったり来たりするなかで、人は人との関わりなくしては前に進めないことを、全編にわたって示してくれます」
LiLiCoさんが「アンディの選択に共感できなかった」ワケ
登場人物には、各々で異なる「仕事のスタンス」がある。ファッション業界で社会人をスタートさせたアンディは、結局早々に『ランウェイ』を離れ(一年もたなかった)、「本命」のジャーナリストを目指す決断をする。本来やりたかったことを追いかけるのは“いいこと”のように思えるが、LiLiCoさんはこの選択に「全く共感できなかった!」と明かす。
「もう少しミランダのもとにいた方が、もっと世界が広がって、もっと上に行けるんじゃないか、と私は思っちゃって。というのも、私は『めんどくさい』と『怖い』の先にこそ、成功や幸せがあると思っているんですよね」
そんなLiLiCoさんが共感したのは、ミランダのほうだ。ともすれば「パワハラじゃん!」と叫びたくなる、一見、傍若無人な彼女の振る舞いだが、組織のリーダーとして、また世界的ファッション誌のカリスマ編集長として業界を牽引するプライドゆえの行動ではある。
「ミランダの命令は無理難題ばかり。なんだけれども、彼女自身、私生活を犠牲にしていたり、それを外に見せない自分への厳しさがあることが次第にわかってくる。私はその姿にすごく共感できちゃうんです。
だって、バリバリ仕事をする女性は絶対に何かを犠牲にしているから。私も“仕事人間”だとよくいわれるけど、座ってご飯を食べたことなんて、しばらくないもの。夫と一緒にご飯を食べたのだって、今年はまだ3回。でもね、必要とされたら可能な限り応えたい。何かを割り切り、覚悟するリアリティがミランダのなかにもありますよね」
キーパーソン・ナイジェルと“代弁者”のエミリー

『プラダ〜』はアンディの成長物語だとよくいわれるが、登場人物全員がアンディとともに少しずつ変化する姿が“リアリティ”でもある。ミランダはもちろん、『プラダ2』で続投するミランダの右腕・ナイジェル(スタンリー・トゥッチ)やアンディの同僚・エミリー(エミリー・ブラント)たちが、アンディをアシストするなかで、人間くささを垣間見せる。特にナイジェルは、「アンディの成長を支えるキーパーソン」(LiLiCoさん)だ。
「誰だって怒られたくないし、悩みたくない。頑張らなくてもいいよ、みたいな風潮だってある。でもナイジェルは、冷静にガツンと活を入れてくれる。ミランダに嫌われていると思い込み、泣きついてきたアンディに対して、ナイジェルは『甘えんなよ』とバッサリ言う。『じゃあ辞めろ』『君は努力していない。ただ不平を言っているだけだ』とまで言う。
ただ、ナイジェルの根っこは“優しさ”の人ですよね。ナイジェルの言葉とサポートで目を覚まし、みるみるオシャレになるアンディのファッションは、この作品の見どころです。ちょっとしたことで、人は変われるという希望を与えてくれる作品でもあると思います」
そして、アンディの登場により、業務にもっとも影響を受けたのが先輩社員・エミリーだ。
「エミリーは、“代弁者”。あとから入ってきて、しかもファッションに興味のないアンディがどんどん綺麗になって、ミランダからの信頼も得ていくなんて、おもしろいはずがないですよね。しかも事故に遭ってしまい、悲願のパリコレ行きはアンディに奪われるという不遇っぷり。
そういうとき、エミリーはちゃんと不機嫌になって、ちゃんと八つ当たりを口にする。頑張っても報われないことって、いっぱいあるでしょ? 私たちは、ワン・オブ・エミリーズなんですよね」
「最初から自分がやりたいことなんてできない」

LiLiCoさんにとって、『プラダ1』には特別な思い入れがある。
「私が『プラダ1』を見たのは、『王様のブランチ』(TBS系)の映画コーナーにレギュラー出演するようになって5年が経ったとき。当時はブランチ以外、仕事はなんっにもなかったんです。1992年に日本で歌手デビューして、歌手や声優としての活動がメインだったからか、テレビに5年出ていても覚えてもらえない。『私はもっとできるのに』って、もどかしさしかない毎日でした。
そんな時期に『プラダ〜』の世界観に触れ、感じたのは『みんなが憧れるような仕事の裏には、これだけの大変さがあるのか』ということ。ブランチレギュラーが決まったのがデビュー13年目で、『プラダ〜』を見たのが18年目。仕事が思うようにいかず、悶々としていた自分の背中を押してくれる映画でもありました」
作品中に散りばめられた“リアリティ”。それは、アンディの「理想と現実の間で悩む状況」かもしれないし、ミランダの「私生活の犠牲を隠して仕事に取り組む姿勢」かもしれない。ナイジェルの「裏方に徹する職人魂」かもしれないし、エミリーの「意のままにならない人生でもしがみつく根性」に共感する人もいるだろう。あるいはメインキャラクターではないアンディの友人たちの誰かかもしれない。それらのリアリティが絡み合い、一人ひとりの未来、そして物語は次なる扉を開く。
LiLiCoさんは「人でしか繋がれないんですよ、世の中」と語る。
「目の前の仕事と人との繋がりを大切にしていたら、プレゼントが来るんですよね。私は20年ぐらい頑張ったところで、念願だったバラエティ番組からのオファーがガンガン入るようになって、40代は記憶がないほどの大忙し。
最初から自分がやりたいことなんてできないし、案外どう広がるかわからない。だって、まさか自分が映画コメンテーターを職業にするなんて思ってもいなかったもの。でもね、じゃあ何年かかるのかなんて誰にもわからない。ただひとつ確かなのは、今の私は、子供の頃に思い描いていた自分だということ。だから私にとって1作目は、やっぱりバイブル的な存在ですね」
生き方や働き方に迷っている人にこそ観てほしい
さて、20年越しの『プラダ2』を、LiLiCoさんはどう受け止めるのか。
「ファッションをめぐる環境は、この20年でさまざまに変わりました。日本でも雑誌がなくなって、Webコンテンツだけになったものは多いし、ブランド物も身近になった。昔より、ピンヒールよりもペタンコな靴がいいという女性も多くなったかもしれない。でもやっぱり、女性のピンヒールって、見ているだけでなんだか元気が出ませんか? LiLiCoっていうキャラも、スイッチオンする時の仕上げはピンヒールと香水なんですよ。
そして『プラダ2』も、スクリーンはキラキラ。コンプライアンス意識が高まっていることや、SNS社会に翻弄されるさまも描かれながら、『ランウェイ』がピンチに陥って大人の悩みが交錯するんだけど……映画を通じて思うのは『やっぱり人だよね!』ってこと。何歳になっても失敗していい。力を振り絞って、何かのために一生懸命頑張るっていうのが、人生ではすごく大切なことだと私は思うんです。今、生き方や働き方に迷っている人にこそ観てほしい」
20年、同じ空の下のどこかで時を刻んでいた“悪魔”とそのまわりの彼女・彼ら。きっとまた見た人の“リアル”に寄り添い、背中を押してくれるに違いない。
(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)