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坂本勇人の一振りで…巨人は再び“勝つチーム”になれるのか? “阿部政権”が問う「基準の再定義」

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巨人の監督として3年目を迎える阿部慎之助監督。(写真:Getty Imagesより)

 2026年の巨人は、決して予定通りに進んでいるチームではない。戸郷翔征の不調、山崎伊織の出遅れ、岡本和真が抜けた打線の再構築。

 開幕前に描いていた勝ち筋は、序盤から何度も修正を迫られている。それでも、5月13日の坂本勇人の逆転サヨナラ弾、そして5月17日のDeNA戦で見せた1-0の勝利は、阿部巨人が少しずつ“新しい勝ち方”を手にしつつあることを示した。

 スターの一撃で空気を変え、投手陣と守備でロースコアを拾う。いまの巨人に問われているのは、戦力の有無ではなく、「どう勝つか」という基準を再びチーム全体で共有できるかどうかである。

 4刷重版が決定した『マネジメント術で読むプロ野球監督論』(光文社)の著者が、いまの巨人に起きている変化を読み解く。

【編注:本記事のデータは2026年5月17日終了時点のものです。】

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坂本のサヨナラ弾と1点差試合の強さ

 5月13日は、いまの巨人を象徴する勝ち方だった。福井での広島戦、巨人は1点を追う延長12回裏一死一、二塁で坂本勇人が逆転サヨナラ3ランを放ち、通算300本塁打を達成。NPB史上48人目の到達で、試合そのものも坂本の一振りで決まった。

 ここが重要だ。巨人はもう、毎日スターがすべてを背負って勝つチームではない。だが、勝負どころでベテランが試合の意味を変える力は、まだ持っている。

 この一振りで示したのは、ベテランの価値が消えたのではなく、形を変えたということだ。毎日すべてを引っ張るのではなく、勝負どころで試合と空気を動かす。坂本はいま、その役割でなお巨大な存在である。

 言い換えれば、ベテランの役割再定義とは「脇役になること」ではない。主役の形を変えることだ。名前で固定するのではなく、局面で価値を出す。ここが整理されているチームは、想像以上にしぶとい。巨人が最近の接戦を拾えている理由は、若手の勢いだけではなく、ベテランの価値の置き方が少しずつ変わってきたことにもある。

 また、5月17日のDeNA戦は、いまの巨人が何で勝とうとしているのかをかなり鮮明に映した。巨人は東京ドームでDeNAに1-0で勝利し、公式戦6連勝。初回に岸田行倫の先制適時打で奪った1点を、竹丸和幸の6回無失点、さらに田中瑛斗、大勢、マルティネスの継投で守り切った。

 しかもDeNAとの3連戦は、15日が2-0、16日が4-3、17日が1-0。打ち勝つというより、ロースコアゲームを拾い続けた3試合だった。17日時点で23勝18敗、貯金5とし、1点差試合は10勝5敗としている。2024年にセ・リーグを制したときのような試合展開を見せつつある。

 その背景にあるのは、本塁打数とリリーフ陣だ。本塁打数はリーグトップの34本。リリーフ陣も春先の“試す時期”が終わり、マルティネス、大勢から逆算し、田中瑛、中川皓太、船迫大雅、高梨雄平といった昨年飛躍したメンバーに、優勝を知る経験組を加えている。さらに、開幕からフル回転している田和廉もいる。ほかにも控え投手がおり、疲労などを考慮しながら2024年並みの運用力を見せられれば、上位に食い込む可能性は十分ある。

 そもそも巨人は、長く「戦力が足りない」わけではなかった。原政権晩年の2021年から23年を見ると、チーム本塁打は169、163、164本と火力そのものは十分だったのに、順位は3位、4位、4位にとどまった。一方で阿部政権1年目の2024年は、本塁打81本でもリーグ優勝し、防御率2.49、失策数58はいずれもリーグ1位。つまり必要だったのは、破壊力の追加ではなく、「どう勝つか」を毎日再現できる構造だったと見るほうが自然だ。

 岡本和真がメジャー挑戦した後の2026年の巨人も、その延長線上にいる。5月17日時点のチーム打率は.230、本塁打34本、131得点で、打線だけを見ればセ・リーグを圧倒しているとは言いがたい。だが一方で、防御率2.99はリーグトップタイ。先発防御率は3位、リリーフ防御率は2位を記録している。つまり、いまの巨人は「派手に勝つチーム」ではなく、「試合を壊さずに勝ち筋へ運ぶチーム」として形ができ始めている。また、ロースコアの試合で勝てているのも、打線のつながりはもちろん、ダルベックとキャベッジの外国人コンビの長打力や、大城卓三の復活が大きい。

阿部政権が作り直しているのは「競争」「守備」「役割」

 阿部監督は年初のスタッフミーティングで、「2026年から新しいジャイアンツを作るというつもりで、育成と勝つことの両立にチャレンジする」と明言した。これはただのスローガンではない。巨人は今季体制として、一軍から三軍までヘッドコーチを置かず、オフェンス、ディフェンス、バッテリーの3分野を統括するコーチ配置に刷新し、情報共有と育成方針の一元化を狙う形を打ち出している。感覚で回す野球ではなく、役割を言語化して組織で回す野球へ寄せているわけだ。

 だから今年の阿部政権のキーワードは、「競争」「守備」「役割」になる。誰を使うかではなく、何ができるから使うのか。誰が主役かではなく、どの局面を任せるのか。5月17日の勝ち方も、まさにそうだった。岸田は5番で先制打を放ち、竹丸は先発として6回まで試合を整理し、終盤は田中瑛、大勢、マルティネスが1イニングずつを分け合った。勝因は個人の爆発ではなく、配役の再現性にある。そこが、原政権晩年との最も大きな違いだろう。

 本来なら、2026年の巨人は戸郷翔征と山崎伊織がローテーションの軸でなければいけない。だが現実はかなり違った。戸郷はオープン戦最終戦まで不安定で、防御率9.00のまま開幕二軍。一軍復帰後も、17日時点で2試合10回、防御率7.20。山崎も右肩のコンディション不良で開幕前に離脱し、5月3日のファーム復帰登板では、わずか2球で降板した。

 それでも巨人の投手陣は壊れていない。これは「想定通りに進んだ」結果ではなく、「想定外が起きても別ルートで試合を成立させた」結果だ。いまの巨人の強みは、絶対的エースがすべてを背負う形ではなく、誰かが抜けても構造自体は残るところにある。

 その中心にいるのが、田中将大、則本昂大、井上温大、竹丸和幸だ。5月17日時点で田中は6試合35.2回で3勝1敗、防御率2.27。則本は5試合30回、防御率2.70。井上は6試合37.2回で42奪三振、防御率1.67。竹丸は7試合40.1回で5勝2敗、防御率2.45。戸郷と山崎の穴を埋めているというより、彼ら自身が別の形のローテーションを成立させている。

 ここで面白いのは、ベテランと若手の価値の出方がきれいに分かれていることだ。田中と則本は、「昔のようにすべてを背負うエース」ではなく、「計算できるイニングを持ち込む投手」として機能している。一方で井上と竹丸は、「将来が楽しみな若手」ではなく、「すでに今、勝たせられる先発」として前に出ている。ベテランは名前ではなく安定で価値を出し、若手は期待ではなく現在の戦力として評価される。この整理がついている限り、先発陣は簡単には崩れない。これは成績から見える、かなり大きな変化だ。

 巨人は再び“勝つチーム”になれる。だが、それは原時代のようにスターの破壊力だけで押し切るチームへ戻ることではない。戸郷の不調と山崎の出遅れがありながら、田中将、則本、井上、竹丸が先発を支え、終盤は整理された救援陣が締め、守備と機動力でロースコア戦を勝ち取る。5月13日の坂本のサヨナラ弾と、5月17日の1-0は、その両輪をよく表していた。

 阿部政権が本当に問われているのは、「勝ちながら育てる」ことではない。もっと言えば、「育てる構造そのもので勝てるか」だ。競争の基準を明確にし、守備と走塁を軽視せず、ベテランの役割を整理し、岡本なき打線に新しい得点構造を与えられるか。そこまでやり切れたとき、巨人は“もう一度強いチーム”になるのではない。“新しい意味で勝てるチーム”になる。いまの巨人は、その移行の最も面白い途中にいる。

MLB経験がある監督は本当に有利なのか?

(文=ゴジキ)

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ゴジキ

野球著作家・評論家。これまでに『巨人軍解体新書』(光文社新書)や『戦略で読む高校野球』(集英社新書)、『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、プレジデントオンラインなどメディアの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。

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ゴジキ
最終更新:2026/05/21 22:00