自意識過剰女子と中年ヒッキーの海洋冒険 『モアナと伝説の海』に見る宮崎アニメの影

ディズニーアニメとしては珍しく、既存のおとぎ話に頼らずにヒットしたのが『モアナと伝説の海』(2016年)です。ポリネシアに伝わる半神半人「マウイ」の伝説をモチーフにしたものです。
南洋を舞台にしたミュージカルアニメとなっており、日本でも興収51億6000万円を稼ぐなど、なかなかの数字を残しています。
アニメ版に続き、マウイを演じるドウェイン・ジョンソン主演の実写版『モアナと伝説の海』が7月31日(金)から劇場公開されるのに合わせ、7月24日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)はアニメ版をノーカット放映します。
今週もディズニー社の商魂たくましさを、ググッと探ってみましょう。
ディズニーヒロインは中年ヒッキーをどう操る?
美しいサンゴ礁に囲まれた、モトゥヌイ島の村長の娘・モアナ(CV:屋比久知奈)が主人公です。楽園を思わせる南洋の島で平和に暮らすモアナでしたが、ココナッツの樹が病気になり、漁に出ても魚が獲れなくなってしまいます。
タラおばあちゃん(CV:夏木マリ)から「海に選ばれし者」と告げられたモアナは、島を救うためにカヌーを漕いで冒険の旅へ向かいます。かつて「命の神」から心を盗んだ半神マウイに会い、盗んだ心を返させるためです。
マウイは「命の神」から心を盗んだ後、溶岩の悪魔との戦いに敗れ、1000年間も無人島に閉じこもった状態でした。はたして、モアナはヒッキーのマウイ(CV:尾上松也)を説き伏せ、「命の神」に心を返すことができるのでしょうか。
かくして、自意識過剰ガールと過去の武勇伝を自慢するオッサンヒッキーとの海洋冒険譚が繰り広げられることになります。
「パクリ」と言わせないディズニーのしたたかさ
ディズニーアニメというと、ヨーロッパのおとぎ話を原作にした『シンデレラ』(1950年)などのイメージが強いのですが、『モアナと伝説の海』はオセアニアが舞台で、しかもオリジナルストーリーです。
ジョン・ラセターが製作総指揮を執っていたこの頃のディズニーアニメは、『アナと雪の女王』(2013年)が記録的なメガヒット作となり、大変な勢いがありました。
従来のディズニープリンセスのイメージを打ち破った『アナ雪』と同様、『モアナ』も王子さまが現れるのを待つだけでない行動派のヒロインです。恋愛要素もありません。
ジョン・ラセターはピクサーアニメ『トイ・ストーリー』(1995年)を大ヒットさせたことからも分かるように、独創性を重んじるクリエイターです。彼がディズニーアニメの最高責任者に就いたことで、ディズニーアニメは復活を遂げています。
また、ジョン・ラセターは宮崎駿監督と親交を結んでいたことでも有名です。『トイ・ストーリー3』(2010年)には、『となりのトトロ』(1988年)のトトロがぬいぐるみとしてカメオ出演しています。『モアナ』も、かなり宮崎アニメの影響を受けていることが感じられます。
物語のクライマックスに登場する「命の神」は、宮崎駿監督の代表作『もののけ姫』(1997年)の「シシ神」、『崖の上のポニョ』(2008年)の「グランマンマーレ」を思わせるものがあります。
ディズニーの人気作『ライオン・キング』(1994年)は、手塚治虫原作アニメ『ジャングル大帝』(1965年、フジテレビ系)が元ネタであることは周知の事実でしょう。その点、ジョン・ラセター体制のディズニーアニメは宮崎アニメの美味しいところをいただきながらも、「パクリだ」と言わせないあたりがしたたかだなと思います。
刺青だらけの半裸男がゴールデンタイムの主役
オーディションで選ばれた沖縄出身の屋比久知奈が歌う主題歌「How Far I’ll Go」は、曲調が『アナ雪』の「レット・イット・ゴー」に似ていることを気にしなければ、いい感じです。マウイ役の尾上松也も吹き替えなしで歌っており、芸達者ぶりを披露しています。ちなみに尾上松也は、歌舞伎版『風の谷のナウシカ』ではユパ役を演じています。
アニメ版『モアナ』は、けなす箇所が少ない作品だと言えるでしょう。二足歩行する「サメ人間」が現れるので、「サメ映画」好きな人もチェックしてほしいところです。
全身タトゥーだらけのマウイですが、日本でも最近はタトゥーがファッションの一部として若者たちに定着しつつあります。刺青=反社会勢力という印象が強かった時代とずいぶん変わってきたなぁと思います。
元「嵐」の大野智、あいみょんら、タトゥーを入れた芸能人も増えています。女優の三吉彩花も背中にかなり大きめのタトゥーがあることで知られています。『モアナ』に感化され、アニメキャラのタトゥーを入れるファンが現れるかもしれません。
自社作品を理解できずにいるディズニー社の経営陣
最後に実写版『モアナ』が公開される話題にも触れておきたいと思います。
アニメ版『モアナ』はオリジナリティーが評価され、興行的にも成功したわけです。それを早くもディズニー流「IPビジネス」戦略の一環に組み込み、実写化した形です。
でもね、ヒットしたアニメを次から次へと実写化するのはあまりにも安易すぎませんかね。
ジョン・ラセターを締め出して以降のディズニー社は、ここらへんの感覚がファンとの間で乖離しているように感じます。アニメ版『モアナ』でせっかく新しいことに挑戦したのに、ディズニー社の経営陣はそのことを自覚できずにいます。
親の愛情を感じ、また地元愛を持ちながらも、ヒロインのモアナが新しい世界へ冒険する気持ちを抑えられないことに、多くの若者たちは共感したはずです。不可能と思えるミッションをクリアするため、過去の成功体験にとらわれた気難しいオッサン、いやマウイともバディを組むわけです。
未知なる世界への冒険、価値観の異なるバディとの出会いの面白さが描かれているからこそ、『モアナ』は成功したのです。
自社の作品のメッセージをいちばん理解できず、コンプライアンスと過去の成功体験にとらわれているのは、実はディズニー社の経営陣なのではないでしょうか。
(文=映画ゾンビ・バブ/映画ウォッチャー)
