思春期の頭の中『インサイド・ヘッド2』 「自分らしさ」を決めるのは誰なのか?

「どんな感情もあなたの宝物になる――」
そんな宣伝コピーがつけられたのが、ピクサー製作&ディズニー配給の3DCGアニメ『インサイド・ヘッド2』(2024年)です。前作『インサイド・ヘッド』(2015年)の日本での興収40.4億円を上回る、53.6億円の大ヒット作になりました。
自分にとっていちばん身近な世界なのに、実はよくわかっていないのが自分の頭の中ではないでしょうか。頭の中でいろんな感情がせめぎ合っている様子をコミカルに描いたのが「インサイド・ヘッド」シリーズです。
9年ぶりとなる続編『インサイド・ヘッド2』では、メンタルヘルスの世界はどのような進化を遂げたのでしょうか。10月16日の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)では、地上波初&ノーカットで『インサイド・ヘッド2』が放送されます。悩めるティーンエイジャーも、そんな子どもを持つ親世代も気になる内容となっています。
思春期を迎え、複雑化する頭の中
前作では11歳だった女の子・ライリーは、13歳になりました。アイスホッケーが大好きで、中学の同級生でチームメイトのグレイスとブリーは無二の親友です。3人で高校に進学しても、一緒にアイスホッケーを続けようと約束しています。
一方、ライリーの頭の中は大騒ぎです。ヨロコビ(CV:小清水亜美)、カナシミ(CV:大竹しのぶ)、イカリ、ムカムカ、ビビリたち5つの感情は、新しい状況に戸惑っています。ライリーは思春期を迎え、新しい感情であるシンパイ(CV:多部未華子)、イイナー、ダリィ、ハズカシを迎え入れることになったのです。
イノセントな少女だったライリーは高校進学を控え、大人の世界への入り口に立つことになります。ライリーたち3人は憧れの高校のアイスホッケー部の合宿に参加することに。この合宿で認められれば、進学後の生活は順調なはずです。
高校のアイスホッケー部のキャプテンであるヴァレンティナに声を掛けられ、ライリーは舞い上がります。しかし、グレイスとブリーは別の高校に進学するらしく、この合宿が3人で一緒にプレーをする最後の場になってしまいます。合宿中はヴァレンティナたち先輩グループの輪に入るか、それともグレイス、ブリーと最後の時間を過ごすか。ライリーは選択を迫られます。
新しい大人の感情に占拠された司令部
ライリーが幼い頃から頭の中で見守ってきたヨロコビたち古い感情は、ライリーらしさを守ろうとし、付き合いの長いグレイス、ブリーと一緒に過ごすことを優先させようとします。しかし、新しい感情であるシンパイたちは、進学後のライリーの生活を考え、ヴァレンティナたち先輩グループに入ることを選ばせようとします。
中学から高校への進学は、子ども時代のコミュニティを離れ、より大人の社会へとデビューするタイミングでもあります。人間関係が大きく変わる時期です。幼なじみたちよりも、かっこいい先輩との交流を選択するライリーの姿を見て、誰しも似たような経験を思い出すのではないでしょうか。
結局、ライリーの頭の中の司令部は、シンパイたち新しい感情に占拠されてしまいます。ヨロコビたち古い感情は、心の奥にある秘密の保管庫に押し込められる羽目に。ライリーは大人への階段を一気に駆け上がっていきます。
秘密保管庫をなんとか脱したヨロコビたちは、「ライリーらしさ」を取り戻そうと、前回と同様にライリーの心の世界を再び巡るのでした。
ヨロコビたちが探し求める「ライリーらしさ」
ヨロコビたち古い感情が探し求める「ライリーらしさ」とはなんでしょうか? この「自分らしさ」が『インサイド・ヘッド2』のテーマだと言っていいでしょう。
ヨロコビたちはライリーを幼い頃からずっと見てきたので、優しさ、正直さ、前向きさといった生まれついての純粋さを「ライリーらしさ」だと思っています。そうしたイノセントさこそが、ライリーを幸せにしてきたからです。
でも、「自分らしさ」というものは、ヨロコビたちが勝手に決められるものではありません。ライリーは日々経験を積み、成長を遂げている過程にあります。だからといって、新しい感情であるシンパイが完全にコントロールできるものでもありません。
理想の自分像を持つことは大切ですが、「自分らしさ」は自分で決めるものではないのではないでしょうか。もちろん、親や教師、友達が決めるものでもありません。「自分らしさ」はもっとふわっとしたものだと思うんです。
大人になるということは人間社会の一員になることでもあります。つまり、「自分はこんな人間だ」と頑なに思い込むものではなく、他者や社会との関係性の中で「自分らしさ」は育まれていくものでしょう。態度のデカい相手には果敢に立ち向かいつつ、傷ついた人にはスッと手を差し伸べるなど、状況や人によって異なる顔を持っているのが自然なんだと思います。
これまで一緒にアイスホッケーで汗を流してきた親友のグレイスとブリーは、この合宿でお別れとなりますが、いちばん「ライリーらしさ」を理解しているのがこの2人なんですよね。
体育会系女子の友情が描かれたクライマックスには、思わずホロリとさせられます。
ディズニーっぽくない展開になっていた可能性も
多部未華子が声優を務めるシンパイら新しい感情キャラクターが続々と登場し、いかにもパート2らしいにぎやかな展開を『インサイド・ヘッド2』は見せています。花江夏樹、武内駿輔、中村悠一ら人気声優たちも意外なキャラで登場します。
二代目ヨロコビは、『明日のナージャ』(テレビ朝日系)や『コードギアス 反逆のルルーシュ』(TBS系)などで知られる声優の小清水亜美がソツなく引き継いでいます。
ナツカシなどは少ししか登場しませんが、ほかにもいろんな感情が企画段階では検討されていました。他人の不幸を喜ぶ感情、嫉妬心、罪悪感などが候補になっていたようです。もし、登場していたら、ディズニー&ピクサーっぽくないポイズン度の高い内容になっていたのではないでしょうか。
心の闇をのぞくのはほどほどに
個人的には秘密の保管庫に押し込められていたクライヒミツに、もっと活躍してほしかったですね。普通の少女の頭の中でもこれだけ複雑なわけですから、シリアルキラーの頭の中はどんな世界が広がっているのでしょうか。ピカソが描く「ゲルニカ」みたいなシュールで屈折した世界なのか、それともただの真っ暗闇なのか……。
19世紀の哲学者・ニーチェは「怪物と戦う者は、自分も怪物とならないよう気をつけよ。深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」という有名な言葉を残しています。他人の頭の中であれ、自分の頭の中であれ、心の闇をのぞき込むのは、ほどほどにしておいたほうがよさげです。
ヒットした「インサイド・ヘッド」シリーズですが、こちらも続編化はほどほどにしておいたほうがいいんじゃないですかね。ディズニー&ピクサーには、現実の世界はもっと広くて、可能性に満ちていることを伝えてほしいなと思うんですよ。失敗や回り道も含めてこその、人生じゃあないですか。
(文=映画ゾンビ・バブ)
