『ライオン・キング:ムファサ』に見るエンタメ業界の「弱肉強食」ぶりとは?

モフモフな動物たちに、ついつい見入ってしまうのが超実写版『ライオン・キング』(2019年)です。ディズニーアニメ『ライオン・キング』(1994年)をフルCGによって、モフモフ感たっぷりなライオンたちが活躍する物語としてリメイクしています。
11月6日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、『ライオン・キング』の前日譚となる『ライオン・キング:ムファサ』(2024年)を放送します。地上波初となるノーカット放送です。
例によって作品紹介だけでなく、制作の裏事情についてもツッコミを入れてみたいと思います。
女性中心で回っているライオン社会
前作はアフリカの野生動物たちの王国を治めるライオンのシンバ(CV:賀来賢人)が主人公でしたが、今回はシンバの父親・ムファサ(CV:尾上右近)の若かりし頃の物語です。シンバの娘・キアラに、老マンドリルのラフィキが昔話を語る形でストーリーは進行します。
幼い頃のムファサは、両親と共に理想の楽園「ミレーレ」へと向かう途中、洪水に飲み込まれて、1匹だけはぐれてしまいます。野良ライオンとなったムファサを助けたのは、やはりライオンの子どものタカ(CV:松田元太)でした。ムファサとタカは実の兄弟のように仲良く育ちます。子どもの頃のタカは、なかなかいい奴なんですよ。
ライオンの群れは、雌ライオンたちが育児に加え、食料を調達することが知られています。野生の世界でも、女性たちは働き者です。女性中心で回っているライオン社会の実態を描いた序盤は、興味深いものがあります。
男の友情が壊れるとき
ところが、白いライオンのキロス(CV:渡辺謙)が率いる残忍なライオングループに襲われ、ムファサとタカはサバンナを放浪することに。途中、雌ライオンのサラビ(CV:MARIA-E)と合流します。サラビが加わったことで、ムファサとタカとの男同士の友情の行方が怪しいものとなっていきます。
ムファサはタカに命を助けてもらった恩があるので、タカがサラビにラブアタックするのをアシストします。しかし、ムファサの好意が逆効果となって、サラビはムファサにゾッコンです。
恋のキューピッド役を頼んだら、キューピッドに意中の恋人を横取りされたようにタカは感じてしまいます。学生時代のサークルやアルバイト先などで、ありがちなシチュエーションですね。恋に破れたタカが「闇落ち」していく姿に、思わず同情してしまいます。
タカはやがて「ダース・ベイダー」化していくことになるのでした。
『ジャングル大帝』を連想させるディズニーヴィラン
かねてからディズニーアニメ『ライオン・キング』は、手塚治虫の漫画『ジャングル大帝』のパクリではないかと言われています。ディズニー側は「スタッフは『ジャングル大帝』を観ていない」と否定していますが、アニメ化された『ジャングル大帝』は『鉄腕アトム』に続いて、米国でテレビ放映されています。ディズニーの制作スタッフが『ジャングル大帝』を誰ひとり観たことがない、というのはまず考えにくいでしょう。
ディズニー側の発言は、訴訟沙汰になるのを警戒してのものだと思います。騒ぎを受けて、手塚プロは「ディズニーファンだった故人(手塚治虫)がもしこの一件を知ったら、喜んでいたはず」と大人の対応を見せ、裁判にはしていません。
ところが、渡辺謙が声優を務める悪役のキロスは、全身が白いライオンです。日本人なら、西武ライオンズファンならずとも『ジャングル大帝』の主人公・レオを思い出させるビジュアルじゃないですか。白いライオンをディズニーヴィランとして登場させるとは、ディズニー側は強気です。
エンタメ界も、野生の王国と同様に「弱肉強食」の世界です。エンタメ界の王者として君臨するディズニーには、誰も逆らうことができないようです。
過酷な価格競争にさらされているVFX制作会社
もうひとつ取り上げたいのは、VFX(視覚効果)をめぐる業界内の問題です。ディズニー作品を謳っている超実写版『ライオン・キング』と続編『ムファサ』ですが、ほとんどのパートを占めるVFXを手掛けたのは英国の「ムービング・ピクチャー・カンパニー」です。『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001年)などで知られるVFX専門の制作会社になります。
VFXを多用した作品が近年は非常に増えていますが、VFX制作会社同士による熾烈な価格競争も起きています。モフモフなベンガルトラが登場した『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2012年)は、アカデミー賞で監督賞、撮影賞、視覚効果賞、音楽賞の4部門に輝いた人気作です。ところが、視覚効果賞を受賞したVFX制作会社「リズム&ヒューズ・スタジオ」は、アカデミー賞の授賞式という晴れ舞台の2週間前に倒産するという憂き目に遭っています。
VFXを担当する制作会社はあらかじめ決められた予算で引き受け、手間のかかる特撮パートを地道に仕上げるわけですが、修正や追加カット、スケジュールの変更があっても、追加予算が認められるケースはまずありません。そのためクオリティの高い仕事をしているVFX制作会社ほど、シビアな状況に陥っているのです。
下請け会社の厳しさは自動車産業などでも見られますが、映画業界はひとつの作品が完成すると、制作チームは解散してしまいます。契約期間が短い分、より過酷だと言えるでしょう。
アカデミー賞授賞式で、「リズム&ヒューズ・スタジオ」に所属するVFXクリエイターが制作内情を訴えようとしたところ、途中から音楽が流れてスピーチは打ち切られています。監督賞のトロフィーを受け取るアン・リー監督が脚光を浴びる姿とは対照的でした。
ディズニーが今年に入って、技術スタッフを中心に大幅に人員整理したことも大きなニュースになっています。
コストパフォーマンスが評価された『ゴジラ-1.0』
山崎貴監督も『ゴジラ-1.0』(2023年)でアカデミー賞視覚効果賞を受賞しています。しかし、日本国内とは評価ポイントが微妙に異なります。米国の映画人たちは、制作費20億円であれだけの特撮大作を完成させたことに驚いたのです。ハリウッドで制作したら、10倍の予算が必要だったと言われています。
VFXの専門家である山崎貴監督をはじめ、「白組」の36名の少数精鋭スタッフが一丸となって『ゴジラ-1.0』のVFXパートを仕上げています。そのため意思決定が速く、無駄な修正が少なく、ハリウッドが驚くコストパフォーマンスが可能だったのです。日本ならではのプロジェクトでした。
でも、いくら「特撮シーンがすごい!」と言われ、作品が大ヒットしても、下請け会社のスタッフにはギャランティーとして還元されることはほぼありません。同じことはアニメーション作品にも言えます。どれだけ劇場アニメがメガヒットしても、作品を支えるアニメーターたちは薄給のままの状態です。やがてボロボロになって、人知れず消えていくことになります。
ディズニー作品に限らず、エンタメの世界は本当に「弱肉強食」なんだなぁと思う次第です。映画業界の「ミレーレ」は、はたして存在するのでしょうか。エンタメ界の王者を自認する企業には、そのへんもちゃんと考えてほしいところです。
(文=映画ゾンビ・バブ)
